蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ONEはなぜ成功したのか?

2024年01月06日 | 本の感想
ONEはなぜ成功したのか?(松田琢磨、幡野武彦 日経BP)

日本の主要海運3社のコンテナ船部門を統合して発足したコンテナ船専門の海運会社ONEをめぐる状況と成功要因を探る内容。

本書でも言及されるように、大手企業の主力部門だが部門収益が悪いために、苦し紛れ?に切り離して同業他社の同種部門と統合させたケースは数多いが、目を覆いたくなるような失敗に終わる場合がほとんどである。
ONEも当初、「うまくいくはずがない」「ていのいい事業整理にすぎない」みたいな声に満ちていたが、フタを開けると、トヨタに対抗するような巨額の利益を計上した。

その成功要因を、本作では4つあげる。
1)本社をシンガポールにおいて本社と適切な距離感を維持して主体的な経営判断ができた。(本書では「出島」方式と呼んでいる)
2)政府や銀行主導でなく、民間3社の主体的な判断で設立した。主導権争いが発生せず、例えばシステムは郵船のものをそのまま導入している。
3)ベストな運営体制を追求できる計画が当初から明確だった。
4)経営層が若く、自由は意思決定ができた。

うーん、成功要因は誰にでも書けそうな内容だよね・・・
ONE誕生の経緯も「まだ日が浅いから証言が得られない」みたいなことが書かれていたけど、そこを関係者に食い込んで匿名であっても手がかりを得て記事にするのが記者の腕の見せ所なのでは?と思ってしまう。それに、ONEに限らず、市況上昇で世界中のコンテナ海運会社が空前の利益を計上しているわけだしね・・・
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パシヨン

2024年01月06日 | 本の感想
パシヨン(川越宗一 PHP)

江戸時代最後の伴天連と言われた小西彦七(マンショ)の生涯を描く。

彦七は小西行長の孫で小西家家臣の益田源助に育てられる。長崎のセミナリヨで学んだのち、キリシタン追放によりマカオに渡るが、そこでは余計者扱いされ、ローマへ渡り、そこで司祭となって迫害の地日本へ戻るが・・・という話。

もう一人の主人公として、幕府の重臣でキリシタン弾圧政策をすすめた井上政重が登場する。弾圧する側とされる側、陽気でのんびりした雰囲気の彦七と苦悩の厭世者である政重が、対照的に描かれて物語を盛り上げてくれる。どちらかというと政重を中心に描いた方が面白かったような気がしないでもない。政重というと、どうしても映画「沈黙」におけるイッセー尾形の姿が思い浮かんでしまうのだが、本作においては苦悩に満ちた為政者として、ちょっと違ったイメージで描かれている。

川越さんの作品を読むのは3冊目で、「熱源」と「見果てぬ王道」は、国や人種、思想を超越した越境者を描いていたので、本作も彦七の世界旅行を中心に描くのかと思ったが、日本におけるキリシタン弾圧史みたいな感じで、あまり越境感?はなかった。

頼るべきスポンサーや組織もないのに日本からヨーロッパに渡った彦七もすごいが、ほぼ単独行でエルサレムにたどり着き、さらにヨーロッパにまで到達した岐部渇水は(それが事実なら)偉大なる旅行者と言えそうで、彼の行跡の物語も面白そうだ。

「熱源」もそうだったが、エピローグ部分の余韻がとても素晴らしくて感動した。
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