蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

チルドレン

2006年09月03日 | 本の感想
チルドレン(伊坂幸太郎 講談社)

「チルドレン」は家庭裁判所の調査官を主人公とした連絡で、一般的な常識をわきまえた人と、常識はわきまえないけれど真実を鋭く追及する人が絡む、伊坂さんの作品によくある組み合わせで話がすすみます。

この本を読み終わって、最近出版された本を除いて伊坂さんの著作はすべて読んだことになります。私にとってはどの本もとてもおもしろく、また世間の評価も高いようです。どうして直木賞がとれないのでしょうか。伊坂さん著の候補作は受賞作よりはるかに面白いように思うのですが。

本格ミステリのような凝ったトリックがあるわけではないのですが、次々に提示される謎が魅力的で、解決でやや非論理的だけれど納得感はある。

思わせぶりな箴言がたくさん引用されるし、小難しい知識が開陳されて、普通の本なら退屈したり、読み飛ばしたりしそうなのだが、伊坂さんの作品ではそうならない。それは伊坂さんの文章力や構成力のゆえんなのでしょうか?
それより、題材の選択のうまさに原因があるように思います。詳しく知っているわけではないけれど、誰もがチラッと聞いたことはある人物や理論を注意深く選んでいて、本をよく読む人(=自分では教養豊かと思っている人)を心地よく刺激しているような気がします。例えば、よく登場するゴダール。名前を聞いたことはよくあるのですが、その作品である映画をたくさん見ている人は少ないのではないでしょうか。
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ニート

2006年09月02日 | 本の感想
ニート(絲山秋子 角川書店)

一般的な社会人コースを外れてしまった人や外れかけている人を描く短編集。

表題作ともう一作「2+1」という短編は続き物で登場人物が同じ。著者自身を意識したなりたての女性小説家と働く意欲をなくして引きこもり生活をしている知り合いの男の話。
この男は街金に追われて外出は一切せず、食事は週3回インスタントラーメンと具なしのチャーハンを食べるのがやっと。一日中パソコンの前で自分や知り合いのサイトを眺めている。
実話ではないだろうけれど、著者の周辺で似たようなことはあったのだろうと推測できる。この生活は人間の生存条件ぎりぎりのところで、こんなことを強制されてやったら1週間もたたないうちに発狂してしまうと思うけれど、自発的にやっている分にはある程度持ってしまうのかもしれない。人間の構造は不思議なものだと思った。

「ベルエポック」という作品は、婚約者を亡くして郷里に帰る友達の引越しの手伝いをする話。描写は淡々としているが、最後になってその平凡な一日の表皮がぺろりとめくられるような筋書きになっていて印象に残った。

「愛なんかいらねー」はスカトロ嗜好の男の話。スカトロがかなりリアルに描写してあるので、その他の作品の「さりげなさ」とか「淡々」といった雰囲気からかなり隔絶している。あえて一つの作品集にこれをいれた理由がわからない。
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夢のような幸福

2006年09月01日 | 本の感想
夢のような幸福(三浦しをん 大和書房)

三浦さんのエッセイの愛読書としては、三浦さんが直木賞を受賞されたのは残念なことでした。
三浦さんの主要なエッセイ掲載場所は出版エージェンシーのサイトなのですが、受賞前でさえ忙しくなって、かつては律儀に毎週更新されていたのに、やがて月2~3回になり、受賞後は更新されていません(9月1日現在。正確にいうと受賞直後に1回更新されたきり)。

それに「直木賞受賞者」という冠が付くと、今までのような脳内妄想を書きつらねたようなエッセイは書きにくくなってしまうのでは、と余計な心配までしてしまいます。

さて、表題作では2001年12月~2003年3月までに前記のサイトに掲載されたエッセイが収録されています。前半ではヒマを持て余しているようなことも書かれていますし、この頃はたくさん本が読めたのか、本来の趣旨である「読書エッセイ」になっているものもあります。(実はそういうのより、妄想むらむらといった内容の方がおもしろいのですが)

この本は直木賞受賞により増刷になったみたいで、これまでは本屋で見かけることもなかった(三浦さんのエッセイは同じ出版社から出ているわけではなく、しかも若干マイナーな会社が多いので、発売直後に買わないと見かけなくなってしまうのです)ので、受賞による恩恵もなかったわけではないようです。
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