蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

出世ミミズ

2006年09月08日 | 本の感想
出世ミミズ(アーサー・ビナード 集英社文庫)

日本に住むアメリカ人から見た、日本の生活や日本語にまつわるエッセイ。
この手の本は、日本語や日本人の生活に極度に好意的だったり批判的だったりする傾向があります。しかし、滞日15年、その間、習字や短歌、謡などを継続的に習ってきた著者の場合、「外国人から見た日本」という視点はあまり感じられず、日本人が日本についてエッセイを書く時のようなテーマの選び方、ものの見方になっているような気がします。このため、時々挿入されるアメリカでの少年時代の思い出を書いた部分がかえって新鮮さを感じさせます。

しかし、文章そのものには(外国人著者であるという思い込みがあるせいなのでしょうが)ちょっと違和感があるときもあります。
もちろん、間違っているというわけではなくて、妙に正しすぎる(?)ような、ちょっとした堅苦しさみたいなものを感じるのです。

日本人が英語を書くとき(日本的教育方法のせいかもしれませんが)文法的に正しい文を書こうと意識すると思います。しかし、日本語を書く場合はそんなことを考えながら書くことは普通ありません。文法がおかしいかどうかは、理屈で考えるのではなく、感覚で判断しているのではないでしょうか。
日本人より日本語に詳しそうな著者の書く文も(あるいは詳しいがゆえに)「文法的・学問的に見ても正しい文章を書かないといけない」という力みみたいなものが見えるような気がします。
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危機の宰相

2006年09月07日 | 本の感想
危機の宰相(沢木耕太郎 魁星出版)

「所得倍増」を掲げて首相になった池田勇人と、政策ブレーンであった下村治、池田の政治派閥宏池会の事務局長として裏方をつとめた田村敏雄を描いています。
三人がかつて病気やシベリア抑留などのハンデを背負った敗者であったことから説き起こし、やがてその敗者がどのように日本の黄金時代ともいえる10年(1960年代)を築いたかを記録したノンフィクションです。

アメリカとの貿易摩擦が激しかった1980年代前半、下村さんが書いた、日米間の貿易摩擦は日本のせいではなくアメリカに責任があるという旨の本を読んで反発を覚えた記憶があります。
20年以上が経過して、中国の立場が当時の日本とよく似ています。第三者的視点で見るとアメリカの要求は、経済的合理性の追求というよりは、国内産業界に背をおされた政治的圧力に起因していることがよくわかります。日米貿易摩擦も理論や統計数値を重んじた経済学者から見るとアメリカのエゴがよくわかったのだろうな、と今にして思います。

今やノンフィクションの大家ともいえる沢木さんですが、政治・経済にからんだ作品は異色です。しかし、各種資料の読み込みや丹念なインタビュウといった、対象に向かう姿勢はどんなテーマでも変化していません。
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何度も見る夢

2006年09月06日 | Weblog
同じ内容の夢を何度も見るというのは、映画や物語でもよく見かけますし、エッセイでも時々テーマになっていたりするので、多くの人が経験していることなのだと思います。

私が繰り返し見る夢は、次の二つです。

①大学のある授業の単位が取得できず、卒業が危うくなってあせる夢

②海外旅行にでかけようと空港に来たのに、パスポートを自宅に忘れてきてしまう夢

①については、何度も夢に出てくる原因ははっきりしています。私は法学部だったのですが、債権法という科目の試験が3年次にあり、これが「不可」となってしまったので、4年次に再履修して試験を受けることになりました。この他の科目についてはすべて卒業の条件を満たしていたのですが、債権法はいわゆる必修科目であったために単位がとれないとそれだけで卒業できなくなってしまうのでした。
しかも運悪く4年次の担当教授は厳しいことで有名な人。
大学にはいって初めて真剣に法律の勉強をし、試験も自分ではできたと思っていたのですが・・・
「もしかして名前を書き忘れたのではないか」とか「事務の転記ミスで不可になったりしないか」など、ありそうもないことが起こりそうな気がして不安に苦しんだ経験がありました。これが夢の原因でしょう。
(ちなみに4年次の債権法はなんとか単位をもらえました。ただ、私自身は「優」だと思っていたのに実際の成績は「良」でしたが)

しかし、②については、悪夢と同じ内容の経験はありません。頻繁で海外に行ったことがあるわけではありませんし、数少ない海外旅行の出発時にパスポートを忘れたこともありません。
私が始めて海外に行ったのは27歳の時で、初めてなのに社用で同行者はなく、ロンドンまで一人きりという心細い状況でした。しかも飛行機に乗るのもこの時が初体験。戦前の話ではありません。平成になったばかりの頃の話です。海外にも飛行機にも非常にオクテだったわけで、「とにかくパスポートと帰りのチケットだけはなくしてはいかん」という強い思い込みにとらわれていました。これが悪夢②の原因でしょうか。

しかし、油断大敵、最近、②に近い状況に陥ってしまいました。ここ数年海外とは縁のない仕事をしていたのですが、突然、香港に出張しなければならなくなりました。あわててパスポートを引き出しの奥から引っ張りだしてみると、何と10年の有効期限が先月で切れていたのです。出張日程は3日先・・・。仕方なく替りの人に行ってもらうことになってしまったのでした。ああはずかし。
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わたしを離さないで

2006年09月05日 | 本の感想
わたしを離さないで(カズオ イシグロ 早川書房)

「提供者」や「介護者」を養成する学校での生徒の生活や、学校を出た後の交流を描く。

「提供者」「介護者」という言葉からすぐ連想されるようにこの学校は臓器提供だけを目的として生かされている特殊な人間のみを生徒とする施設。

この学校では図画工作に非常に力を入れている。それはなぜなのかが、この本のテーマだと思う。この問いに対する回答はとても切ないし、私たちの存在理由に迫る奥深さがあった。

翻訳しにくそうな内容だが、文章が自然な感じでよみやすい。
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シンデレラマン

2006年09月04日 | 映画の感想
アメリカの大恐慌時代、主人公のボクサーは、快進撃を続けていた時期もあったが、怪我などのために家族の食費にも事欠くありさまとなってしまい、試合ぶりがあまりに無様でライセンスも剥奪されてしまう。

しかし、トレーナー(兼プロモータ?)の尽力により、一試合だけ強敵のかませ犬として復活することになる。その試合に勝ってしまい、そこから連戦連勝、ついにはヘビー級のチャンピオンとなる。

「こんな話本当にあったの?」と疑いたくなうようなストーリーだが、実話に沿った筋書きらしい。逆に実話であることをあらかじめ知っていないと、あまりにベタな展開にあきれてしまうかもしれない。

主人公の貧乏時代を丁寧に描くことでクライマックスのカタルシスがいっそう引き立てられている。電気代が払えず、寒さに耐え切れなくなった子供を妻が自分の実家に預けたのを見て、主人公は窮乏者の政府支援金(生活保護みたいなものか?)を請求する。それでも足りず、ついにかつての雇い主の事務所は物乞いに行く場面が印象的だった。

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