医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その4)

2016年04月07日 | 循環器
5年前に心房細動に対する新しい抗凝固療法についてお伝えしました。5年前はまだ発売されていませんでしたので、今振り返ってみると時の流れは早いものです。

心房細動に対する新しい抗凝固療法プラザキサ

薬は、プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの3種類と、最近リクシアナが加わり4種類になりました。

それらの薬はワーファリンを使用するより脳出血のリスクが少ないと宣伝され、多くの医者たちもそれらの宣伝に乗せられてその情報を信じていますが、私にはどうしてもそうは思えない根拠を多くのエビデンスからお伝えしているシリーズです。

前回、心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その3)の復習です。

ワーファリンという薬を使う場合、血液検査のPT-INRという血液のサラサラ度を示す値を見ながら錠数を調節します。70歳未満では2.0~3.0、70歳以上では1.6~2.6を目標としています。そして例えば1月に1回測定して、合計10回のうち6回がその目標範囲ならTTRという指標(time in therapeutic range)は60%とされます。中には患者の方の要因でコントロールが悪くなる場合もありますが、できるだけ多くの平均を取るとワーファリンを処方する医者の「腕前」を示す指標のようなものです。

通常の専門医であれば目標のさらさら度である確率TTRという指標(time in therapeutic range)は80%はあると思います。私の診察のTTRは約90%です。

さて、上の図は、前回と同じ
Efficacy and Safety of Apixaban Compared With Warfarin at Different Levels of Predicted International Normalized Ratio Control for Stroke Prevention in Atrial Fibrillation
Circulation 2013;127:2166.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)


からのものです。左から治療コントロールの善し悪しを示すTTR、上は研究全体の成績(脳梗塞、脳出血、大出血、死亡など)、下は全ての原因による死亡です。そして右の方の棒グラフは、ワーファリンの方が良いか高価な新薬の方が良いかを示すものです。

真ん中の縦棒を横棒が挟んでいれば両者引き分け、左にあれば新薬の成績が優れている、右にあればワーファリンの方が優れていることを示しています。

どうでしょうか、ワーファリンの成績を悪くしているのは、TTRが59.9%以下の群です。少なくとも「研究全体の成績(脳梗塞、脳出血、大出血、死亡など)」や「全ての原因による死亡」という項目ではTTRが60%以上あれば、両者の成績は同じです。

TTR 15.1%という、とんでもないお医者様もこの研究に参加なさっています。さぞかしこれら新薬の製薬会社の社員は喜んだことでしょう。こういうお医者様がワーファリン群の成績を下げて、新薬の成績を「勝ち」にしてくれるのですから。

そもそも、こういう臨床試験は他の臨床試験とは全く次元の異なるものです。

通常の前向き臨床試験で2種類の薬の効果を比較しようとする場合、当たり前のことですが、できるだけ両者ともちゃんと内服してくれるようにサポートします。

しかし、ワーファリンの前向き臨床試験の場合、どんなにちゃんと内服していようとも問題はTTRのコントロールがどれだけ良かったかに依存します。それから後日ご説明しますが、CHADS2スコアーといってその患者の脳梗塞になりやすさを評価したスコアーにも依存します。

以前お伝えしたように、ワーファリン群の成績を悪くしようと思えば、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルのお医者様方を参加させればよいのです。

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その1)でお伝えしたように、プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの3種類の臨床試験でのワーファリン投与群というのはほとんどワーファリンからの利益が十分に享受できていない群であるということなのです。

先日、イグザレルトの臨床研究ロケット・スタディーのワーファリン群のTTRが平均どれぐらいであったか、バイエルの社員に尋ねてみました。たしか世界全体で62%、日本だけで67%とか。ワーファリン投与群というのはほとんどワーファリンからの利益が十分に享受できていない群であるということなのです。

情報の続きはまだまだありますので、次回以降もどんどんお伝えします。

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コメント (3)
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