医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その6)

2016年04月15日 | 循環器
以前、心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その2)

の記事で、エリキュースのこの臨床試験を計画した医者や製薬会社の人間は、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどでは上手にワーファリンでコントロールできないことを知っていて、自社の薬の成績を良く見せるために意図的に医療後進国臨床試験に組み込んだということをお伝えしました。

今回はいよいよエリキュースの臨床試験の論文と、医療後進国の、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどが参加していない日本国内だけの研究結果を比較してみます。

上の図の上は、エリキュースの臨床試験の論文に載っている結果です。
Apixaban versus Warfarin in Patients with Atrial Fibrillation
N Engl J Med 2011;365:981-992.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

赤色で私が囲ったところが脳出血です。アピキサバンすなわちエリキュース群では年間0.24%、ワーファリン群では0.47%です。ちなみに、脳梗塞のなりやすさを示すCHADS2スコアーのこの研究での平均は2.1です。

一方上の図の下は、日本国内だけの研究J-RHYTHM研究の結果です。
Target International Normalized Ratio Values for Preventing Thromboembolic and Hemorrhagic Events in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation
–Results of the J-RHYTHM Registry–
Circ J 2013;77:2264-2270.
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

無料でダウンロードできますので、原文も見てください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/77/9/77_CJ-13-0290/_article

これは2年間の結果ですから、私が計算して年間の発生率を記載しました。ワーファリンを内服していないと年間0.15%、ワーファリンを内服して血液のさらさら度を示すPT-INRが低いと年間0.24%、PT-INRがちょうど良く1.6~1.99にコントロールされると年間0.32%です。ちなみに、脳梗塞のなりやすさを示すCHADS2スコアーのこの研究のワーファリン群の平均は1.8です。エリキュースの臨床試験より少し低いです。

これらの結果から、エリキュースの臨床試験のワーファリン群での0.47%は発症率が日本の研究の結果より1.5倍高いことがわかります。

さて、脳梗塞についてですが、
青色で私が囲ったところが脳梗塞です。アピキサバンすなわちエリキュース群では二項目合わせて年間2.16%、ワーファリン群では2.66%です。

ところが、日本国内だけの研究J-RHYTHM研究の結果を見ると、
これは2年間の結果ですから、私が計算して年間の発生率を記載しました。ワーファリンを内服していないと年間1.45%ですが、ワーファリンを少しでも内服して血液のさらさら度を示すPT-INRが1.6に達していなくても発症は年間0.87%に有意に抑制させることができているのがわかります(これは私が自分でカイ2乗検定をして確かめています)。そして、PT-INRがちょうど良く1.6~1.99にコントロールされると脳梗塞の発症率は年間0.57%です。これはエリキュースの臨床試験のエリキュース群2.16%、ワーファリン群2.66%より断然良好な数字です。

これらの結果から、本当はPT-INRが1.6~1.99が一番良い(つまり脳梗塞も抑制できているが2.0以上にすると脳出血が少し増えてくるから)し、1.6に達していなくても1.4や1.5でもワーファリンの効果は十分あるということがわかります。ガイドラインでは「1.6~1.99が一番良い」とすると、PT-INRの範囲が狭いためコントロールしにくいと苦情が出ることを予想して、少し広めの範囲で1.6~2.6と決定されたと推測できます。

私はこの研究の結果を知っているので、70歳以上の患者の場合1.5~2.0でコントロールしています。例えば1.5であってもワーファリンは増やしません。それでも私のTTRは約90%です。

医療後進国のトルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなど参加させずに、日本人の医者がコントロールすればワーファリン群は脳梗塞も脳出血もエリキュース群より少ないのです。

プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナを販売している、日本ベーリンガーインゲルハイム、バイエル、ファイザー、第一三共が、これらの新薬はワーファリンより脳出血が少ないと宣伝しているのにはトリックがいっぱいなのです。そしてそれに乗せられた広告塔医師たちが誤った情報を流布しています。


(以下、m3より引用)
非弁膜症性心房細動(NVAF)に伴う全身性塞栓症および大出血イベントの発生は、新規(非ビタミンK阻害)経口抗凝固薬(NOAC)によって半減する可能性が、日本人における大規模観察研究J-RHYTHM Registry 2から示された。日本医科大学多摩永山病院内科・循環器内科の小谷英太郎氏らが、第80回日本循環器学会学術集会(3月18-20日、仙台市)で発表した結果で、NOAC群では抗凝固療法を行わなかった群に比べ、全身性塞栓症発生リスクが58%、大出血発生リスクが47%、有意に低下した。

 2009年開始のJ-RHYTHM Registryは2011年にいったん終了しているが、同年3月に登場したNOACの影響をみるため、期間を3年延長したJ-RHYTHM Registry 2が続けてスタートした。計5年の追跡で、ワルファリン療法の長期成績とNOAC服用患者のイベント発生率についての検討を続けている。小谷氏は今回、後者について報告を行った。

 J-RHYTHM Registry 2が対象としたのは6616例。このうち976例は最終的な治療内容が把握できず、残る5640例について解析が行われた。2009年時点では約85%の患者がワルファリン療法を受けていたが、データ解析時には約60%に低下し、代わって20%近くの患者がNOACを開始していた。いずれの抗凝固療法も受けていない患者(No-OAC)は登録時で13.3%、解析時で11.4%だった。追跡期間中の治療の変遷があるため、研究では最終的な治療内容に基づく3群(No-OAC群、ワルファリン群、NOAC群)で解析を行った。

 追跡期間中の全身性塞栓症発生率はNo-OAC群6%、ワルファリン群4.9%、NOAC群2.1%、大出血発生率はNo-OAC群4.8%、ワルファリン群5.9%、NOAC群2.4%で、いずれもNOAC群で有意に低かった。全死亡あるいは心血管死も同様にNo-OAC群で最も多く、NOAC群で最も少なかった(全P<0.001)。抗血小板薬併用の有無で分けて解析すると、「ワルファリン+抗血小板薬群」では大出血が有意に多く、全死亡および心血管死も有意に高率であったが、「NOAC+抗血小板薬群」ではそうした傾向は認められなかった。

 NOAC群では他2群に比べ低リスク患者が多かったため、CHA2DS2-VAScスコアおよび抗血小板薬の有無で補正して分析を行ったところ、No-OAC群に対するNOAC群の全身塞栓症発生オッズ比(OR)は0.42 (95%CI 0.24–0.74、P=0.003)、大出血発生オッズ比は0.53 (95%CI 0.31–0.93、P=0.027)と有意に低いことが分かった。全死亡および死血管死のリスクも有意に低かった。

 一方のワルファリン群では、全死亡および心血管死のリスク低下は有意だったものの、全身塞栓症のリスク低下は有意でなく、大出血リスクは有意でないがむしろ上昇傾向にあった。

 小谷氏は「NOACとワルファリンの両方に適応のある患者に関しては、NOACが推奨されることは既にガイドラインに記されているが、日本人NVAF患者の実臨床データからもNOACの便益が裏付けられた」と結論している。

 この発表にコメントした国立病院機構大阪医療センター臨床研究センターの是恒之宏氏は、NOACの良過ぎる成績に対する疑問を提起。「何らかの理由で抗凝固療法を続けられなかった患者はリスクが高いことが知られる。本解析ではNo-OAC群にワルファリン中断患者が45%ほど含まれる上、最終的な治療内容が把握できなかった患者が1000例近いなどの限界がある。これらを加味すれば、NOACの成績はここまでは良くなかった可能性がある」として、結果を慎重に解釈する必要性に言及している。
(ここまで引用)


ここの最後の方に別の医師が述べている
「NOACの良過ぎる成績に対する疑問を提起。「何らかの理由で抗凝固療法を続けられなかった患者はリスクが高いことが知られる。本解析ではNo-OAC群にワルファリン中断患者が45%ほど含まれる上、最終的な治療内容が把握できなかった患者が1000例近いなどの限界がある。これらを加味すれば、NOACの成績はここまでは良くなかった可能性がある」として、結果を慎重に解釈する必要性に言及している。」
私も、こちらの意見に賛成です。せめてプロペンシティー・スコアで両群の背景を揃えないと、結論は出せません。もう少し統計学を勉強する必要があります。</B>


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コメント (5)
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