心臓の血液を肺や全身に送り出すポンプとしての機能が低下した状態は心不全と呼ばれます。心不全では心臓が送り出す血液の量が減るため心臓の中の血圧が高くなります。したがって心臓が送り出す血液の量と心臓の中の血圧をモニターすれば心不全の程度がわかります。そのためにスワン・ガンツ・カテーテルとよばれるカテーテルがあります。1970年代に発明され1980年代から米国を中心に盛んに用いられてきました。
このカテーテルでモニターされた数値に基づいて心臓が送り出す血液の量を改善する薬物の量や臓の中の血圧を下げる薬剤の量が適切に決められるため、とても有用なカテーテルだと信じられてきましたが、1996年にスワン・ガンツ・カテーテルを使用しても患者の予後は同じであるという結果が報告され、その有用性は幻であったことが立証されました。
まず、1996年のConnorsらの論文です。
The effectiveness of right heart catheterization in the initial care of critically ill patients. SUPPORT Investigators
JAMA, 1996;276:889.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)
集中治療室に入院した5,735人を対象に、入院後24時間以内にスワン・ガンツ・カテーテルを使用された群とそうでない群を重症度で補正して比較したところ、使用された群で30日以内の死亡が有意に高くなりました(1.24倍、1.03-1.49倍)。また、入院費用の合計は使用された群で49,300ドル、使用されなかった群で35,700ドルと、使用群で有意に高くなりました。
この論文の結果はWall Street Journalなどのマスコミに大きく取り上げられ、医学にも大きな影響を与えました。
その後次々に、無作為試験でも同様の結果が報告されることになります。例えば、
Assessment of the clinical effectiveness of pulmonary artery catheters in management of patients in intensive care (PAC-Man): a randomised controlled trial.
Lancet 2005;366:472.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)
集中治療室に入院した1,041人を、スワン・ガンツ・カテーテルを使用する群519人とそうでない群522人に無作為に割り当て予後を比較したところ、使用群の死亡率は68%、非使用群の死亡率は66%と差が認められませんでした。
これらの結果をうけて、米国では入院患者へのスワン・ガンツ・カテーテルの使用が大幅に減少しているという論文が最近報告されました。
Trends in the use of the pulmonary artery catheter in the United States, 1993-2004
JAMA 2007;298:423.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)
1993年から2004年の間にスワン・ガンツ・カテーテルの使用は内科入院1,000人あたり5.66人から1.99人と65%減少し、しかも治療中の重症度には影響を与えませんでした。外科入院でも63%減少しました。スワン・ガンツ・カテーテルの使用が最も減少した対象疾患は心筋梗塞で、81%も減少しました。
重要な数値をモニターしているのに結果が改善されないのはどうしてでしょうか。それには2つの理由があると思います。
1つめは、治療する側が重要な数値と思い込んでいても、対象とするもの(この場合疾患)がそれ以上に複雑な要素の影響を受けているから。
2つめは、胸部レントゲン検査など他の検査の結果が、思い込んでいる以上に重要な情報を治療する側に与えており、それらの情報こそが結果に影響を与えているから。
です。
いまだに、原則的に全例にスワン・ガンツ・カテーテルを使用する医者がいますが、思い込みで医療をしてはいけないという典型的な例だと思います。
そうすると今後スワン・ガンツ・カテーテル検査は保険対象外になってしまうのでしょうか?でもその前に、どういう患者に有用でないのか、サブ解析が必要です。
なるほどと思われた皆さん!それではここをぽちっと「ブログランキング」応援よろしくお願いいたします!
このカテーテルでモニターされた数値に基づいて心臓が送り出す血液の量を改善する薬物の量や臓の中の血圧を下げる薬剤の量が適切に決められるため、とても有用なカテーテルだと信じられてきましたが、1996年にスワン・ガンツ・カテーテルを使用しても患者の予後は同じであるという結果が報告され、その有用性は幻であったことが立証されました。
まず、1996年のConnorsらの論文です。
The effectiveness of right heart catheterization in the initial care of critically ill patients. SUPPORT Investigators
JAMA, 1996;276:889.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)
集中治療室に入院した5,735人を対象に、入院後24時間以内にスワン・ガンツ・カテーテルを使用された群とそうでない群を重症度で補正して比較したところ、使用された群で30日以内の死亡が有意に高くなりました(1.24倍、1.03-1.49倍)。また、入院費用の合計は使用された群で49,300ドル、使用されなかった群で35,700ドルと、使用群で有意に高くなりました。
この論文の結果はWall Street Journalなどのマスコミに大きく取り上げられ、医学にも大きな影響を与えました。
その後次々に、無作為試験でも同様の結果が報告されることになります。例えば、
Assessment of the clinical effectiveness of pulmonary artery catheters in management of patients in intensive care (PAC-Man): a randomised controlled trial.
Lancet 2005;366:472.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)
集中治療室に入院した1,041人を、スワン・ガンツ・カテーテルを使用する群519人とそうでない群522人に無作為に割り当て予後を比較したところ、使用群の死亡率は68%、非使用群の死亡率は66%と差が認められませんでした。
これらの結果をうけて、米国では入院患者へのスワン・ガンツ・カテーテルの使用が大幅に減少しているという論文が最近報告されました。
Trends in the use of the pulmonary artery catheter in the United States, 1993-2004
JAMA 2007;298:423.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)
1993年から2004年の間にスワン・ガンツ・カテーテルの使用は内科入院1,000人あたり5.66人から1.99人と65%減少し、しかも治療中の重症度には影響を与えませんでした。外科入院でも63%減少しました。スワン・ガンツ・カテーテルの使用が最も減少した対象疾患は心筋梗塞で、81%も減少しました。
重要な数値をモニターしているのに結果が改善されないのはどうしてでしょうか。それには2つの理由があると思います。
1つめは、治療する側が重要な数値と思い込んでいても、対象とするもの(この場合疾患)がそれ以上に複雑な要素の影響を受けているから。
2つめは、胸部レントゲン検査など他の検査の結果が、思い込んでいる以上に重要な情報を治療する側に与えており、それらの情報こそが結果に影響を与えているから。
です。
いまだに、原則的に全例にスワン・ガンツ・カテーテルを使用する医者がいますが、思い込みで医療をしてはいけないという典型的な例だと思います。
そうすると今後スワン・ガンツ・カテーテル検査は保険対象外になってしまうのでしょうか?でもその前に、どういう患者に有用でないのか、サブ解析が必要です。
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あなたがあげられた理由1.2.では不十分です。
最も寄与する要因は
「SGで得られる情報をしっかりと判断できていない」
ということに尽きるのです。
これはもちろん医師に責任があるのですが、「SGは必要無い」と結論づけるのは乱暴です。
detaとして提供できないのは申し訳ないのですが、
私がいままでSGを使用して無益だった、臨床像を反映
していないと思ったことは一度もありません(私は12年目の心臓血管外科医です)。
SGがすべての状態を把握できるtoolだとは言いませんが、この論文を以て不要なものだとするのは臨床を
知らない方の戯言としか思えませんが。
SGをしっかりと臨床に役立てている医師も数多くいるのですが。
極端な話、胸部写真のうっ血や胸水の程度をみて、血圧低ければ利尿剤を投与とカテコラミンも併用だし、次の日に胸部写真撮って、うっ血や胸水が減少傾向ならその治療でいいってことだし、この論文、正しいと思いますよ。アウトプット測っても、よほど低心拍出でなければ、やっていることを変えないわけだし・・
カテコラミンからの離脱を早くしてあげることには有用といえるかも・・
心エコーやれば圧なんてだいたい推測できてしまうしね。
SGが役にたったと思うのは新米の時に、こんなうっ血像の時は圧はこれぐらいなのか、と病態とデータを結びつける事ができた最初の4~5年で、あとは他のデータみればSG使わなくても患者さんを亡くさないで治療できています。
病態の変化が特殊と思われる時は使ってますけど。