以前、糖尿病の人では以前につまった心臓の血管を流れるようにしても生命予後は改善されないことをお伝えしました。それでは糖尿病の人に限らないとどうなのか。最近、そんな問いに対する結論が初めて大規模試験で示されました。
Impact of completeness of percutaneous coronary intervention revascularization on long-term outcomes in the stent era.
Circulation. 2006;113:2406.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)
対象はニューヨーク州の心臓カテーテル治療のデータベースから調べられた、ステントを使って心臓の血管のカテーテル治療を初めて受けた21,945人です。治療後の状態を各群に分類して3年間の生存率を調査しました。
全体の68.9%に少なくとも1カ所以上の狭窄あるいは閉塞がありました。
上の図の折れ線は、上から「狭窄や閉塞が一カ所もない場合」、「2本に狭窄があるが閉塞がない場合」、「少なくとも1本に狭窄があり、他の1本が閉塞している場合」です。3年後の生存率はそれぞれ91.4%、89.5%、88.7%でした。
この論文の結論は、各群の生存率には統計学的に差があり、ステントを入れて治療しても他の箇所に狭窄があると生存率を悪くするので、手術などを考慮して3本ともに狭窄や閉塞をなくす努力が必要だということですが、私はこのデータを別の視点で解釈するべきだと思っています。
それは、これら3群の生存率の絶対値にほとんど差が無いことです。つまり「狭窄や閉塞がない場合」と「狭窄や閉塞がある場合」の生存率の差はたった2.7%で、狭窄や閉塞をなくす治療を施しても、その恩恵を得ることができるのは37人に1人です(Nunber Needed to Treat=37)。
以前につまっている場所を流れるようにするには入院費を含めて200万円以上の費用と、最低でも2時間、時間がかかると5時間にも及ぶ治療が必要になります。それだけ努力しても、その恩恵を得ることができるのは37人に1人ということなのです。
再びFIREBIRDさんのブログ風です。
K部長は5時間かけてようやく終わった心臓カテーテル治療室で患者さんに呼びかけるのだった。
K部長「Aさん、このモニターを見て下さい。おーい、前のやつ出して!(放射線技師に治療前の画像をモニターに映し出させる)」「ここが完全に詰まっていたのが、ほら今は流れていますよ。これでもう大丈夫!」
患者A「先生ありがとうございました。先生は命の恩人です」
F医員「さすがK部長ですね」(命の恩人っていっても、流れるようにして恩恵が得られるのは37人に1人だけって、この前論文に書いてあったけど・・・)と思いつつ、こう言うしかない自分をふがいなく思うのだった。
ところで、高血圧、糖尿病、喫煙の有無や、コレステロールのレベルで今後6年間の心筋梗塞の発症危険率を推測できるJ-LITチャートというのがあります。これを使って患者さんに説明をしていると「今のままでは今後6年間に3.5%の確率で心筋梗塞が起きるけれど、禁煙をすればそれが3.1%に下がりますよ」と、あまり危険率が下がらない事に、説明する私も拍子抜けしてしまう事がありますが、この研究の結果でも同様の事が言えるのではないかと思います。
やはり患者さんへの説明で「つまったままでは今後3年間の生存率は88.7%だけど、流れるようにしたので91.4%になった」と説明するべきです。そして、「命の恩人」といえるほどの効果がないことを知っていただく必要があると思うのです。
「なるほど、ためになった」と思われた方は、こちらから投票をよろしくお願いいたします
今は何位かな?
Impact of completeness of percutaneous coronary intervention revascularization on long-term outcomes in the stent era.
Circulation. 2006;113:2406.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)
対象はニューヨーク州の心臓カテーテル治療のデータベースから調べられた、ステントを使って心臓の血管のカテーテル治療を初めて受けた21,945人です。治療後の状態を各群に分類して3年間の生存率を調査しました。
全体の68.9%に少なくとも1カ所以上の狭窄あるいは閉塞がありました。
上の図の折れ線は、上から「狭窄や閉塞が一カ所もない場合」、「2本に狭窄があるが閉塞がない場合」、「少なくとも1本に狭窄があり、他の1本が閉塞している場合」です。3年後の生存率はそれぞれ91.4%、89.5%、88.7%でした。
この論文の結論は、各群の生存率には統計学的に差があり、ステントを入れて治療しても他の箇所に狭窄があると生存率を悪くするので、手術などを考慮して3本ともに狭窄や閉塞をなくす努力が必要だということですが、私はこのデータを別の視点で解釈するべきだと思っています。
それは、これら3群の生存率の絶対値にほとんど差が無いことです。つまり「狭窄や閉塞がない場合」と「狭窄や閉塞がある場合」の生存率の差はたった2.7%で、狭窄や閉塞をなくす治療を施しても、その恩恵を得ることができるのは37人に1人です(Nunber Needed to Treat=37)。
以前につまっている場所を流れるようにするには入院費を含めて200万円以上の費用と、最低でも2時間、時間がかかると5時間にも及ぶ治療が必要になります。それだけ努力しても、その恩恵を得ることができるのは37人に1人ということなのです。
再びFIREBIRDさんのブログ風です。
K部長は5時間かけてようやく終わった心臓カテーテル治療室で患者さんに呼びかけるのだった。
K部長「Aさん、このモニターを見て下さい。おーい、前のやつ出して!(放射線技師に治療前の画像をモニターに映し出させる)」「ここが完全に詰まっていたのが、ほら今は流れていますよ。これでもう大丈夫!」
患者A「先生ありがとうございました。先生は命の恩人です」
F医員「さすがK部長ですね」(命の恩人っていっても、流れるようにして恩恵が得られるのは37人に1人だけって、この前論文に書いてあったけど・・・)と思いつつ、こう言うしかない自分をふがいなく思うのだった。
ところで、高血圧、糖尿病、喫煙の有無や、コレステロールのレベルで今後6年間の心筋梗塞の発症危険率を推測できるJ-LITチャートというのがあります。これを使って患者さんに説明をしていると「今のままでは今後6年間に3.5%の確率で心筋梗塞が起きるけれど、禁煙をすればそれが3.1%に下がりますよ」と、あまり危険率が下がらない事に、説明する私も拍子抜けしてしまう事がありますが、この研究の結果でも同様の事が言えるのではないかと思います。
やはり患者さんへの説明で「つまったままでは今後3年間の生存率は88.7%だけど、流れるようにしたので91.4%になった」と説明するべきです。そして、「命の恩人」といえるほどの効果がないことを知っていただく必要があると思うのです。
「なるほど、ためになった」と思われた方は、こちらから投票をよろしくお願いいたします
今は何位かな?
診療報酬削減で,医療側は,検査を増やしたくなるし,自己負担増大となると患者側は,安くて効果のあるものを希望する.
病院が潰れてなくなって,患者は困るし,なかなか難しいところにき来ましたね.
ただ,どういうのが無駄な心カテなのかというのは,患者や主治医にとって貴重な情報ですね.