そゆる日記

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『サラバ!』

2023年09月09日 | おすすめ

ランチのあと美容院の予約時刻まで時間があったので

書店に入り、あてもなく書架を眺めていると

文庫の棚の西加奈子さんの名前に目がとまりました。

 

西加奈子さんはうっちーさんがお好きということで

何冊か読んでみたことがあったな。

『サラバ!』というタイトルが気になって

上巻中巻下巻三冊まとめてお買い上げしました。

 

 

お話は主人公が生まれるところから始まります。

そうそう、西加奈子さんの小説ってこういう感じ。

細かな背景の描写から

登場人物の人となりが明らかになっていく。

『漁港の肉子ちゃん』とかもそうだった。

 

海外で生まれほんのりBL感を感じさせる

異国の美しい友人との出会いや

エキセントリックな母や姉との生活、

帰国後の青春。

なるほどねえ。。。と自伝を読むようなつもりでいると

お話は予想外の展開を見せ

ものすごく大きな命題、精神の物語になっていきます。

 

 

明治時代、

国がすべての子供に教育を受けさせることにしたのは

軍隊に良質な兵士を供給するためだった、

ということが今のみんなの不幸を作り出しているように

自分は常々思っているのだけど

「優秀でなければならない」

「明るくなければならない」

「積極的でなければならない」

「前向きでなければならない」

人にはいろいろな個性があるのに

こういう価値観を当然のものとして

当てはまるよう努力することを求められる。

頑張ってる人にはフラストレーションがたまるし

頑張らない人を責める気持ちも生まれる。

できない人は劣等感を感じる。

 

こどもたちのヒーローともいえる宇宙飛行士の方が

講演会でこどもたちに

「社会の役に立つ人になってください」

なんていってるのをきくと暗然たる気持ちになる。

「だれかの役に立ちたい」という自発的な気持ちは

もちろん美しいけど人に言われることじゃない。

別にいいんだよ、役に立たなくても。

 

ドラマ『日曜の夜くらいは…』のなかでは

イケメンのカフェプロデューサーが

イケメンだから仕事がうまくいってるみたいな評価に

「仕事だけで評価されたい」と言ったりするのだけど

『サラバ!』の主人公は美しい外見のおかげで

享受しているものを自覚していたのに

いざ、それが失われた時、

自分が思っていたよりずっと

その価値が大きかったことに愕然とする。

 

「優秀だったらこうなっているはず」

「あばずれだったらこうなっているはず」

そんな価値観を覆す友人たち。

そして「自分が中心であるはず」の人間関係さえ覆って

長い冬眠生活に入る主人公。

 

そして結末は「カインとアベル」

最も大きな価値の転換を迫る姉の存在。

 

 

自分って何?

一番大切にしなければならないものって何?

主人公の半生といっていいほどの

長い年月の物語に付き合ったあと

自分の中にある「誰かから受け取ってしまった価値観」を

丁寧にひとつひとつ取り除いて

シンプルな自分になりたい、と思わされるお話でした。







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