熊本の小泉八雲旧居館に「八雲の試験問題」という冊子がありました。明治26年(1893)作成の八雲自筆の英作文問題です。
上の画像は冊子の表紙とその中に収められている問題のコピーなのですが、正は英文それを翻訳した和文も収めてあります。八雲自筆の英文もあるのですが、ここには印刷したものを出しました。
下に和文のほうを文字を大きくして掲載します。
英作文
Ⅰ
1893年卒業生クラス用課題
カーライルは学生から「何を読めばよいのでしょうか。」と質問され、「永久なるものを読みなさい。」と答えた。この出来事についてコメントを述べ、良い書物における「永久なるもの」とは何かに関し自分の意見を述べなさい。なお、この時「永久なるもの」という語は、人類文明の全歴史、並びに予想される未来のみを言及しているものとして考えなさい。
Ⅱ
4年生クラス(英語Ⅱ)用課題
『ティソナス物語』を教師が話したように。
Ⅲ
予科クラスP・1・A・及びP・1・B・用課題
『1000年生きた男の物語』を教師が話したように。
Ⅳ
予科クラスP・2・A・及び2・B・用課題
シェイクスピア作『ベニスの商人』の中の3つの箱の話を教師が話したように。
「試験問題はこれで終わり」という意味の小泉八雲オリジナルのサインです。
印 櫻井房記
小泉八雲五高在任当時の教頭
印 佐久間信恭
小泉八雲五高在任当時の主席教授
上記の中、「卒業生クラス用課題」について学生たちの答案を翻訳した和文が別の冊子にありましたので、その一部を掲載します。往時の五高生のレベルは低くはなかったようです。
1.「真理と不滅とは、おなじものである。この二つのものは、漢語のいわゆる『円満』をつくるものである。」
2.「人間の生活と行為のうちで、宇宙の法則にしたがうものは、すべてみな、そうである。」
3.「愛国者の生態、及び、世界に至純な格言を与えた現代人の教え。」
4.「孝行と、それを教えた人の教義。秦の時代に、孔子の書は焚かれたが、その効はなかった。孔子の書は、今日では、文明世界のあらゆる国のことばに翻訳されている。」
5.「人名と科学の真理」
6.「善悪は、ともに不滅なものであると、中国の或る聖人が言った。われわれは、善なるものだけを読むべきである。」
7.「われわれの祖先の、偉大なる理想と観念。」
8.「十億世紀のあいだ、真理はねいぜんとして、真理である。」
9.「あらゆる倫理学の学派が、ひとしく認める正邪の観念。」
10.「宇宙の現象を正しく説明する書物。」
11.「良識のみが不滅である。したがってね良識にもとづいた人倫の書物は、不滅である。」
12.「崇高な行為にたいする理念。これは時劫のために変わることがない。」
13.「できうるかぎり最大多数の人々――すなわち、人類に、できうるかぎり大きな幸福をもたらす、最もよい道徳的な手段を書いた書物。」
14.「中国の五大古典である五経。」
15.「中国の聖賢の書と仏典。」
16.「人間のおこないの、清廉至直の道を教えたものは、すべてみな、そうである。」
17.「七たび生まれかわって、朝敵と戦わんと言った、楠正成のはなし。」
18.「道徳的情操、これがなければ、世界はただ一大穢土、あらゆる書物は、反古にひとしい。。」
19.「孝子道徳経。」
学生達の答案を読んで八雲は次のような感想をかいている。
「1893年(明治26年)の夏期考査のおりに、わたくしは、卒業組の作文の題に、『文学における不滅なるものは何か?』という題を出してみた。この問題については、それまでに生徒たちと、まだ一度も討論したことがなかったし、それに、西洋思想に関する学生の知識という点から見ても、たしかにそれは新しい問題だったから、わたくしは、ひそかに、生徒たちの独創的な答案がえられるものと期待していたのであった。果たせるかな、その答案のほとんどぜんぶが、おもしろいものであつた。例としてここには二十の回答を選び出して、お目にかけることにする。たいていは、ここに掲げる文句のあとに、長文の議論がついているものが多かったが、中には、本文の中に具体的に云いあらわされているものも、二、三あった。」
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