とっつきづらい哲学や心理学の内容を、出来るだけわかりやすく完結に お伝えすることを目的としたチャンネルです。
動画の書き起こし版です。
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最初に著者の紹介をします。 本作は、絵本のような構成を採用しており、 文章を担当するのが野矢茂樹さん。 絵を担当するのが植田真さんです。 野矢先生は立正大学文学部哲学科の教授です。 また、東大名誉教授でもあります。 主に、ウィトゲンシュタイン周りの研究をしていて、 【論理哲学論考】の翻訳もなさっています。 また、ベストセラーになった【論理トレーニング】も非常に素晴らしい本で これもそのうち紹介させていただきたいと思っています。 本書においては論理トレーニングでのきっちりした文体と打って変わって 小学生でも読めるような平易な言葉と柔らかい文体で 思考の核心に迫るような内容を紡ぎ出しています。 絵を担当された植田真さんは絵本作家として活動されています。 こんな感じの絵本を出版されていて、 力の抜けた、それでいて余白に考えさせるところがある絵が魅力的です。 この動画では、主に野矢先生が担当された内容の方に 焦点を当てて解説していきます。 【はじめて考えるときのように】は、タイトル通り『考える』ということ自体をテーマにしています。 『考える』という言葉は我々も日常的に使っていますよね。 しかし「考えるってどういうことですか?」と聞かれると答えに困ってしまいます。 例えば、お昼ご飯を牛丼にしようか、カレーにしようか選択することを 『考える』と表現することがあります。 では、蟻が目の前にあるクッキーとチョコレートのどちらを食べるかを選択することを『考える』と表現できるものでしょうか? なんとなく、そうなじゃない気がします。 このように考えていくと、当たり前のように使っている『考える』は とてつもなく難しい概念なのかもしれないということに気づきます。 このようなテーマから始まって、 『考えるって何?』『問題って何?』 『論理的って何?』『言葉って何?』 のように、哲学的領域で古くから命題とされてきた内容について、 かなり噛み砕いて解説をしてくれます。 例えば第1章の『「考える」って何をすることだろう』では、 ある質問を切り口に解説が始まります。 子どもがみんな欲しがる文房具ってなんだろう? ぜひ皆さんも考えてみてください。 きっとこの瞬間、頭の中では「考えている」という状態が生まれています。 でも、そうやって「うーん」と唸って悩むことだけが「考える」ことでしょうか? ちなみに問題の答えはクレヨンです。 子どもが「くれよ(ん)」というから。 というあんまり質の高くないなぞなぞですね。 仮にこの問題に『これはなぞなぞです』という前置きがついていたら 回答にたどり着く方の割合は増えるはずです。 でも、現実の問題はそのような前提条件がないものばかりなわけですね。 そして、例えばその問題の答えがいますぐに出ないで、 しばらくその問題を忘れていたとしましょう。 あくる日、文房具屋さんをプラプラしていたらクレヨンが目に入りました。 そこで急に『あ!答えはクレヨンだ』と閃いたとします。 その瞬間、きっと問題について云々と悩んでいたわけではありません。 ほとんどその問題については忘れてしまっていたと言っても良いでしょう。 でも、答えが閃いた。 ということは、考えるというのは問題を抱えること自体を表すとも言えますね。 こんな感じで、本来非常に難しいテーマを 日常のいろいろなことに置き換えて考えさせてくれます。 小学生にもわかる内容とは言え、扱っている内容としては、 アリストテレスの論理学だったりウィトゲンシュタインの写像理論だったり、 ソシュールの言語学だったり、はたまたAIのシンギュラリティ問題だったりします。 しかし、そのような固有名詞はほとんど出てきません。 あくまでも平易で日常的な言葉だけで これらの問題の導入を表現しています。 哲学書を一生懸命に読もうとしてもその硬い文体と、 見たこともない固有名詞のオンパレードで脳が受け付けない。 ということが良くあります。 しかし、この本においてはそれが全くありません。 これが、哲学入門にオススメしたい一番の理由です。 その上で、この本を読むことによって 『哲学的な問いの面白さ』『哲学がどんなことを問題にしているのか』 『論理とは何か?』『哲学と日常との関係性』 などについて興味を持つことができます。 この本のレビューを見ると、 基本的には称賛の意見が多い中で、 ポツポツと批判する意見も存在します。 それらの意見によく見られるのが、 『何を言いたいのかわからない』 というものです。 これ、ある意味で正しいんですね。 見方を変えると、この本ではほとんど何も言っていないし ある意味当たり前のことをこねくり回しているだけなんです。 しかし、それ自体を面白いと感じられるかそうでないかが 哲学に興味を持てるか否かの試金石だと思っています。 そういう意味でも、まずは試しにこの本を読んでもらいたいです。 難しい内容を簡単な言葉で表現するのってすごく大変です。 それを奇跡的なバランスで実現しているこの本と、 著者の野矢先生には感動を覚えるほどです。 1000円以下で手に入りますので、 ぜひチャレンジしてみてください。
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