あなたも社楽人!

社楽の会の運営者によるブログです。社会科に関する情報などを発信します。

2月15日は新聞休刊日

2016-02-15 05:20:14 | 社説を読む
今朝は新聞休刊日。

昨日の4紙のコラムからを見てみましょう。

毎日新聞

・ その施設を囲むヒイラギの垣根は3メートルほどの高さがあったという。人目を避けると同時に入所者が逃げ出さないようにするためだった。東京都東村山市にある「国立療養所多磨全生園(たまぜんしょうえん)」。かつてハンセン病患者がいわれなき差別を受け、隔離された場所の一つだ

▲垣根は患者と肉親を分かつ厚い壁でもあった。元患者の家族約60人が「家族も深刻な差別の被害を受けたのに国は対策を講じなかった」として、国に謝罪と賠償を求める裁判をあす起こす

▲一人の詩人がいた。塔和子(とうかずこ)さんは愛媛県に生まれ、戦時中の1943年、13歳で発病した。両親と引き離され、瀬戸内海の小島にある療養所に入所する。3年前に83歳で亡くなるまで詩を書き続けた

▲「痛み」という作品はこう始まる。<世界の中の一人だったことと/世界の中で一人だったこととのちがいは/地球の重さほどのちがいだった>。しかし生きることを諦めなかった

▲人は無の中から生まれ、無の中へ消えていく。その寂しさをいっそう深く感じているのは、孤独の中で生と死に向き合う療養患者ではないか。そう思った塔さんは心に決めた。「この存在しているさびしさを、どこへすがるべくもない生きているさびしさを、療養者という壁を、せいいっぱい生き抜くことによって克服したい」

▲今なおヒイラギのトゲのように差別や偏見は残る。それでも塔さんは詩と出合い、力いっぱい生き抜いた。そして無に返り、願い通り両親の眠る古里の墓に分骨された。家族に迷惑をかけぬようにと、70年にわたって本名を伏せてきた。墓碑にはその名「井土(いづち)ヤツ子」が刻まれたという。


日本経済新聞
・ リルケは愛の詩人である。欧州中を旅しながら詩を作った。「恋する女」では、心のざわめきや不安、苦悩を繊細な表現で切々と歌う。祭壇に捧(ささ)げるように、ひたむきな思いを詠んだ「献身」など、今日の聖バレンタインデーに似合いそうな詩句をいくつも残している。

▼ロマンあふれる抒情(じょじょう)的な作品がある一方、宇宙や世界を想像させる表現も多い。「木の葉が落ちる 落ちる…重たい地球があらゆる星の群れから寂寥(せきりょう)のなかへ落ちる われわれはみんな落ちる」(「秋」)。文字通り「重力」と題した詩も、物理学を連想させる。「重力が彼のなかを逆さまに落ちてゆく」(富士川英郎訳)

▼詩人が代表作を書いた1910年代、物理学の世界では革命的発見が相次いだ。アインシュタインが一般相対性理論を発表し、それまでとは宇宙や物質の見方が全く変わった。時間と空間は一体のものであり、星の周りでは空間がゆがんでいるという。当時の空気が、リルケの詩に宇宙的な広がりを与えたのかもしれない。

▼相対論が存在を予言していた「重力波」を米大などのチームが初めてとらえた。これまで観測できなかった天体現象や宇宙の成り立ちを解明できる可能性も出てくる。大発見という。予言から1世紀を経て宇宙は再び、新たな顔を見せ始めるのかもしれない。詩人が健在ならば、もっと斬新な表現を発見するにちがいない。


産経新聞
・ 〈へぼ将棋王より飛車をかわいがり〉と古川柳にある。飛車は盤面の縦横ににらみが利く。使い勝手がよい-と重宝するあまり、肝心の王将が丸裸になっていた。道理をわきまえぬ素人考えを、蔑(さげす)んだ一句である。

▼民の守りを放置し、武威を頼んで核・ミサイルの開発に寄りかかる。砲口を国際社会に向ける北朝鮮にはどの道、締め付けが必要だった。拉致問題は「特別調査委員会」を設置した一昨年7月から進展がない。この一事だけでも、日本の独自制裁には裏打ちがある。

▼「行動対行動」「対話と圧力」の原則を淡々と守った日本の指し手は、痛いところを突いたと見える。制裁を強めたことへの対抗措置として、北は拉致問題の特別調査委を解体するという。将棋は手詰まり、いっそのこと盤面を崩してしまえという素人考えに近い。

▼北は拉致被害者の情報を管理していよう。はなから調査は必要なかった。今回のご破算も、体裁を繕う口実だろう。兵器の開発が進む裏で、国力は衰運をたどっている。拉致被害者や自国民の苦悩を顧みない独善の愚かさを、国際社会は制裁で知らしめるほかない。

▼北と関係の冷え込む中国に「夸父(かふ)、日影(にちえい)を追う」の格言がある。夸父は地の果てまで太陽を追い、喉の渇きで力尽きた中国の古人という。身の程知らずの大事業を企て、未完のまま自滅することを指す。どんな野心があるにせよ、金正恩第1書記の末路は詰んでいる。

▼自身は太陽のつもりかもしれないが、先祖2代の七光に照らされた月が関の山である。〈月満ちては欠け、物盛りにしては衰ふ。万(よろず)の事、先の詰まりたるは、破れに近き道なり〉と『徒然草』にある。粛清と軍拡に明け暮れる独裁者が、いずれ身をもって知る戒めであろう。
  

中日新聞
・ イタリアの哲学者、作家ウンベルト・エーコさん(84)の名前を聞いてちょっと身構える方もいらっしゃるかもしれない。小説『薔薇(ばら)の名前』。その難解さにたじろいだ方もいるか

▼邦訳が出たのは一九九〇年。もうそんな前か。とっつきにくい上下二冊がよく売れた。当時の大人は知識の装い、たしなみにも気を使っていた

▼エーコさん、冒頭の何ページかはあえて難解に書いたという話を当時聞いた。あえて読み手を選ぶためというのだが、当方もその口で、ショーン・コネリーさん主演の映画を見て読んだふりをしてきたが、実は本棚でほぼ新品のまま眠る

▼こちらは子どもも読み通せるエーコ作品である。<爆弾づくりに熱心な将軍は、戦争をしたくなりました>。かつて、書いた絵本『爆弾のすきな将軍』(海都洋子さん訳、六耀社)。最近、復刊した。平和の意味を教え、戦争の愚かさを笑う

▼北朝鮮が日本人拉致被害者の調査を一方的に打ち切った。世界のやめてという声の中で「長距離弾道ミサイル」を発射した。その制裁に対しお門違いにも腹を立て約束を捨てた。もう一度会いたいと手を合わせる親がいる。その心までも瀬戸際外交の道具として掌(たなごころ)の上で弄(もてあそ)ぶ。爆弾に匹敵するおそろしさと悲しみである

▼怒りと失望を押し殺し、絵本をかの枕元にそっと置いてきたい。その人は、果たして最後まで読み通せるのか。

※ さて、いかがでしょう。 

こうしたコラムを読むときの視点は、「自分なら何を書くか」

今回では、塔和子、リルケ、ウンベルト・エーコと、教養がない人には出ない名前が出ました。

〈へぼ将棋王より飛車をかわいがり〉と北朝鮮をつないだ産経も秀逸です。

これだけ短い定型文に、主題を入れて、落ちも入れる。
入試問題としても使えそうなのが社説です。

しかし、採点者にも、それ以上の教養を求められるのが難点か・・・・。


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。