ヘラクレイトス【哲学の起源#6】
*1 エフェソスが他のポリスと連合を組んでペルシアと戦うのはそれから少し後のペルシア戦争においてです。そのヘラクレイトスの活動年代を考慮すると、彼はエフェソスのその姿を見ずにこの世を去ったものと思われます。 *2 ソクラテス以前哲学者断片集 〈第1分冊〉 岩波書店 *3 「私にというのではなく、その理(ロゴス)に聞いてそれを理解した以上は、それに合わせて、万物は一であることに同意するのが知というものだ」 ソクラテス以前哲学者断片集 〈第1分冊〉 岩波書店 ヘラクレイトスはアナクシマンドロスの「正義」には反論したが「無限定なもの」における万物=一理論には同意していたと言える。 *4 『哲学の起源』では「万物=火」の関係を「商品=貨幣」の関係に重ねて、交換様式によって説明を試みます。つまり「万物」と「火」は「商品=貨幣」と同様の交換関係にあると考えるのです。 マルクスは『資本論』においてこう言います。 「黄金が貨幣であるのは、それが黄金だからではなく、万物との交換を通して一般的等価形態の位置に置かれるからである」 「商品」と「貨幣」は交換様式という枠組においては同じレイヤーに位置します。物質的な観念で両者を見るともちろん別々のものではあるものの、交換という観念においては両者の質は同値なのです。 同様に「万物」と「火」も同じ関係を取ります。 「万物」も「火」も交換様式という枠組みにおいては同値の存在であり、「火」は「一者」でもあるし「一者」は「火」でもある。 このことをヘラクレイトスは『ソクラテス以前哲学者断片集』においてこう表現しています。 「万物は火と引き換えであり、火は万物と引き換えである。あたかも物品が黄金と、黄金が物品と引き換えであるようなものである。」 つまり万物は火から生じるし、火は万物から生じる、そしてそれらは一である。 この前提に立つとアナクシマンドロスの無限定なものを肯定しつつ、始原となる火も肯定できますし、その上でピタゴラスが想定した仮象と超越を退けることが可能になります。 (ですから、ヘラクレイトスのいう「一」は仮象の先にある超越的な「一」ではなく、実在としての「一」だということですね。) *5 『哲学の起源』では、ヘラクレイトスのこの姿勢を、死刑判決から逃げずに死んでいったソクラテスに重ねています。ちなみにヘラクレイトスの晩年から死後十数年の間「ペルシア戦争」が起こります。その戦争後半にエフェソスは連合軍に加わり(一時的ではあるものの)イオニア諸都市はペルシャに対して勝利をします。ヘラクレイトスの思想がどれほど影響を与えたのかはわかりませんが、何やらドラマチックなものを感じてしまいます。 □参考文献 哲学の起源 (岩波現代文庫) https://amzn.to/3gxFhEH 世界史の構造 (岩波現代文庫) https://amzn.to/3zbZB4X トランスクリティーク――カントとマルクス (岩波現代文庫) https://amzn.to/3z7KjhE □諸々のお知らせ 読んでみたい本やあると便利な機材や生活物資など。もしよろしければご支援いただけると幸いです! https://www.amazon.jp/hz/wishlist/ls/... Twitterやってます。フォロー嬉しいです。 / tetsugaku_ch noteでは不定期で哲学関連の記事を更新しています。 https://note.com/tetsugaku_ch サブチャンネル / @user-mg4yd4xr7c □哲学の起源シリーズ 世界史の起源【哲学の起源#1】 • 世界史の構造【哲学の起源#1】 イオニアとイソノミア【哲学の起源#2】 • イオニアとイソノミア【哲学の起源#2】 physisとnomos【哲学の起源#3】 • physisとnomos【哲学の起源#3】 タレス〜アナクシメネス【哲学の起源#4】 • タレス〜アナクシメネス【哲学の起源#4】 ピタゴラス【哲学の起源#5】 • ピタゴラス【哲学の起源#5】