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厳しい未来を予感 不安の芽を摘もう-1-

2011-04-15 06:49:10 | 日記
 政治家は歴史を創ります。そのはずです。

 歴史家も、本来はそのために歴史を研究しているはずです。

 しかし、私は、どの政治家よりも、どの歴史家よりも、この人の発言に注目してきました。

 高村 薫です。

 一般的には、『作家。1953年、大阪市生まれ。国際基督教大卒業後、商社勤務。「マークスの山」で直木賞。著書に「レディ・ジョーカー」「晴子情歌」など。』と紹介されています。

まだ、震災の全体像が分かっていない時に、次のように述べています。

毎日新聞 2011年3月17日 東京夕刊

----------以下引用-------------

特集ワイド:巨大地震の衝撃・日本よ! 作家・高村薫さん

<この国はどこへ行こうとしているのか>

 「1000年に1度」という東日本大震災から1週間。海辺をまるごとのみこんだ大津波に、原子力発電所では放射能漏れ事故など危機的な状況が続く。この国が直面する未曽有の被害。地震大国・日本は続発する「想定外」の事態にどう対処し、自然災害と向きあっていくのか--。

 ◇「人間サイズ」の勧め--高村薫さん(58)
 地震発生から5日目の15日、新たな大惨事に見舞われた。東京電力福島第1原発で火災や爆発が相次ぎ、原子炉付近で人体に影響する高濃度の放射性物質が漏えいした。高村薫さんは、災害対応の指揮を執る菅直人首相が発した国民へのメッセージに憤りを覚えていた。

「これまで全く原子力問題に関心がなかったのでしょうか。理解不足で発言にズレを感じる。いち早く原発を視察したのも、アリバイ作りに映ってしまう。これが日本と世界にどれだけ衝撃を与えるか。未曽有の被害が広がる津波に続く、最悪の事態かもしれません」。世界では安全性の検証を訴える動きが広がり、株価は過去3番目の大きな暴落となった。

 「いつも強く思うのは、原発の技術者と私たち一般人との認識の根本的なズレです。原発は実験室にあるわけではなく、一般社会のなかで住民の生命と隣り合わせで稼働している」。わが国の原発の歴史は約半世紀に及ぶ。「これほどの大事故がなかったのは奇跡です。安全性の根拠としていた格納容器に損傷の恐れが発覚した今回、私たちの社会常識の方が正しいことが明らかになった」。なぜ、「安全神話」は築き上げられたのか。「電力会社や国、政治家の責任は重い」と強い口調で訴える。

 東電の情報提供の遅さは、菅首相をもいら立たせた。07年に新潟県中越沖地震で被災した柏崎刈羽原発。「あの時も、国民は何より先に正確な情報をかたずをのんで待っていたのに、とにかく情報が遅かった。新潟の人にとって、福島の原発の事故は耐え難いと思う。つまり、過去の経験が何も生かされていない」と嘆く。

 「国民はおそらく、この人たちに原子力行政を任せておけないという思いを2度もしていると思う。計画停電の枠を広げてでも、日本中の原発を総点検しなければならない」。判断する主体は「国民」である。15日夜には静岡県東部で震度6強の地震が起きた。静岡には中部電力の浜岡原発がある。

  ■

 高村さんは今回の地震が発生した11日午後3時前、大阪・梅田の阪急デパートにいた。揺れを感じてすぐに「東北で地震が発生した」とのアナウンスが流れた。甚大な被害を直感した。

 大津波が東北の海辺を丸ごとのみ込んだ大震災。被害がどれほど広がるのか、見当もつかない。黒い濁流に建物や車がただのみ込まれていく大津波の現実を、日本人はどのように受け入れればいいのか。

 「経験してなければ、実際の恐怖や生々しさを想像するのは無理です。私は津波にのまれたことはないので、どんなにひどい映像を見せられてもその恐怖は理解できない。でも、津波に襲われたらどうなるか、理性で考えることができる」

 マグニチュード(M)9・0と世界の観測史上4番目の規模と判明したこの地震の死者は、万単位に及ぶという見方も出てきた。1896(明治29)年に発生した三陸地震津波は2万人以上の死者を出した。「約100年で万単位の死者が出る地震が2度あってはひどい。3度目の発生を考えれば、またこの入り組んだ海岸にまちをつくるのか、真剣に考えなければならない」。住民にとってあえて厳しい言葉を口にした。

 「人口減少に向かう今、都市を集約してコンパクトにしていかないと、住民サービスが受けられない事態が起こりうる。新しい土地の利用や暮らし方の価値観を考え直す時期に、この巨大地震が重なったと考えるべきではないでしょうか。決して防災が特別で、非日常にあるわけではない」。未曽有の大災害を現代日本にどう位置づけるか、高村さんは考えてやまない。

 「被災していない私たちに何ができるか、考えるのが重要です。未曽有の大地震ではあるけれど、一方で国の経済、社会や国民生活をできるだけ滞りなく続けていかなければならない。被災地の方は生きることで精いっぱい。私たちは今まで以上に冷静に頑張って働く。ぼんやりしている暇はないんですよ」。時は止まってくれない。

  ■

 大阪府吹田市の閑静な住宅街に高村さんの自宅はある。ここで高村さんは1995年、6400人が犠牲になった阪神大震災を体験した。以来、自然災害で失われた命について深く考え続けてきた。あれから16年。「教訓は、生かされていない。今、そう思います」

 阪神大震災では、高層マンションが建つ地域で、地面が軟弱化する液状化現象が見られた。だが、東京の湾岸地域をはじめ名古屋や福岡など大都市では、タワーマンションが新たにそびえている。大阪も例外ではない。高村さんは「大阪の中心部には活断層があり、その上に主要な都市機能がのっている。東京も当然、首都機能の分散が進むと思ったら、逆に集中に向かっている」と指摘する。

 国の地震調査委員会は首都直下地震について、阪神大震災(M7・3)と同規模の地震が今後30年以内に70%の確率で起きると予測、中央防災会議は最悪の場合は死者1万1000人と予想する。

 地下深く穴を掘り、建物を高層化する技術は日進月歩だ。「人間は、技術を開発すると必ず活用する。地下鉄もビルもその深さと高さを競ってきた。海抜0メートルのまちができたのも技術があるから。20世紀の文明はそのように進んできた」

 高村さんは「私にはタワーマンションに住む人の気持ちがわかりません。エレベーターが止まったら、どうやって水を持ち運びするんですか。それが日本の現状です。地震に対する備えは、次の100年の暮らし方を考える一部なんです。被災していなくても、自分のことのように考えなければならない」。日本人の防災意識に疑問をなげかける。

 <自分だけは大丈夫>

 被災していない日本人は、自然の猛威に直面してもまた、根拠のない楽観に逃げ込もうとしているのではないだろうか。

 「自然災害は人間の歴史の中では起こりうる。しかも、高齢化が進む21世紀という新しい時代は、高度経済成長期とは違う暮らしの価値観が必要だと思う。より人間のサイズに合った生活を選択する方が、より自然で無理のない社会ができる気がして仕方ない」

  ■

 その言葉を胸に、大阪から新幹線に乗り東京駅に着いた。都心では、計画停電で間引かれた地下鉄の車内ですし詰めとなった。電車を降り、節電のため止まったエスカレーターを眺めながら、長い階段を一歩一歩上った。

 活断層の真上で暮らす日本人が、震災を人ごとで済まされるはずがない。島国である日本列島の海底には、多くのプレートがひずみをたたえながら潜んでいる。日本という国が存在する限り、地震という難から逃れるすべはない。【鈴木梢】

-------引用終わり---------

 続きます。



 

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