朝鮮日報の特集、第3弾を紹介します。
http://www.chosunonline.com/
残業多い韓国の職場、保育園のお迎えに四苦八苦
育児、喜びから苦痛に
韓国の共働き夫婦が子どもを育てるに当たって抱える最も大きな問題は、相次ぐ残業と突然の食事会や飲み会だ。子育てに配慮しない職場の文化は今も改善されていないのが実情だ。
ある中堅企業の課長として勤務するシム・ヒジンさん(36)=女性=は7月5日夜、残業を終えて午後11時ごろに帰宅した。4歳と2歳になる2人の息子はすでに眠っていた。そしてシムさんは翌朝も、子どもたちが起きる前に自宅を出なければならなかった。
シムさんは「週に4日は残業があるため、平日は子どもの顔さえ見ることができない。母親に会えないと子どもたちは“保育園に行きたくない。お母さんを待つ”と駄々をこねる。子どもの世話をしてくれているおばにも八つ当たりしているようだ」と語る。大手企業に勤める夫も同じく残業ばかりで、子どもたちにとって父親は「週末にしか会えない人」という存在だ。
2歳の娘を育てながらある大手企業に勤務するイ・ウンジさん(32)=女性=は、週に2回は帰宅が夜9時以降になる。勤務時間は午前8時から午後6時までだが、イさんの会社ではほとんどの社員が午後8時か9時ごろまで、12時間以上働いている。イさんは「午後5時を過ぎてから、翌朝までに報告書を提出するよう求められることがよくある。そのたびに夜遅くまで誰かに子どもの世話を頼まなければならない。ベビーシッターが夜7時に娘を置いて帰ってしまったこともある」と話した。
韓国では女性の社会進出が増加している一方で、子どもを預けられる施設が少ないため、親たちの育児費用は膨らむばかりだ。しかし、このような悪条件の中でも、育児に配慮する企業はまだ少ない。サラリーマンたちは「今よりも少し早く帰宅し、1時間だけでも子どもと一緒に過ごす時間があれば、育児の問題の多くは解決するだろう」と話している。
フレックスタイム制(定められた時間の中で労働者が始業と終業の時間を決められる制度)を導入する企業も徐々に増えている。しかし、多くの職場では終業時間が近づくころになると、子どもを持つ女性社員が時計を見ながら「保育園の閉園時間に遅れないか」といつも焦って帰宅しているのが現実だ。
経済協力開発機構(OECD)の労働展望報告書(2010年)によると、加盟国の中では韓国の労働時間が最も長く、この傾向はここ数年間変わっていない。韓国では労働者1人当たりの年平均労働時間が2074時間で、日本の1733時間、米国の1776時間、ドイツの1309時間などに比べると数百時間も長い。一週間の労働時間が48時間以上という労働者の割合も、欧州では15%未満だが、韓国では31%だ。労働時間が長いということは、それだけ夜遅くまで残業するケースが多いことを意味する。
韓国労働研究院のペ・ギュシク研究員は「韓国は他の国に比べて労働時間が長いため、育児期だけでも労働者への配慮が必要だ。しかし現実には難しい」と語る。
広告業界で働くパク・ミンジンさん(34)は、今年初めに5歳の息子が電気炊飯器の蒸気で手にひどいやけどを負い、2週間ほど集中治療を受けなければ、指が癒着するかもしれないという深刻な状況だった。パクさんは「2週間は毎日病院に行かなければならなかったが、休暇を取ることもできず、仕方なく友人に頼んだ」「残業に加え、週末も忙しい夫には到底頼めなかった」と嘆いた。
米国や英国、日本などの先進国では、子どもに病気やけがなどの問題が発生した場合、親は必ず子どもを保育園に迎えに行かなければならない。これは職場でも当然の常識として認識されている。
韓国女性政策研究院のヤン・インスク研究員は「育児に関する問題は、企業と社会が協力して対策に取り組まなければならない国家的な課題だ。法律や制度を見直すだけでなく、育児に対する企業の認識を変えることが必要だ」と指摘した。
ママは残業、子供は留守番
ソウル市内にある中小企業のデザイン室長だったアン・ヘジンさん(37)=仮名=は今年6月末、解雇通知を受けた。残業を拒否したことに対する会社側の措置だった。アンさんの息子は今年小学校に入学、定時退社する必要があった。
アンさんは「無理な残業はできないと上司に抗議したところ、翌日に人事課から解雇通知を言い渡された」と話す。
韓国は労働時間が世界でも最も長い国の一つだ。「他国に比べ残業や仕事関係の飲み会・食事会が多く、若い共働き夫婦の子育てを困難にしている」と専門家は指摘する。
サムスン経済研究所が昨年、ワーキング・マザー1308人を対象にアンケート調査を行ったところ、職場生活で最も困ることという質問に対し「人事上の不利益」(42.4%)=複数回答=に次いで「慢性的な残業など、多すぎる業務」(32.3%)という回答が多かった。
育児政策研究所のソ・ムンヒ博士は「韓国の過度な残業・会食文化は、育児負担はもちろん、少子化の主な要因となっている」と分析している。
【萬物相】孫の世話に苦しむ祖父母たち
「ああ、かわいそうな大学講師よ。早朝から12時間の授業をこなし、家に帰れば子どもをおんぶしろと言われ、夜中にはろうそくの火をともせと言われる…」。国語学者のカン・シンハン成均館大名誉教授は、30代のころこのような歌を好んで歌っていたと、自身のエッセーに書いた。歌手ヒョン・インの『風林高』のメロディーに自身が作った詞を付けたものだ。カン・シンハン教授と鄭良婉(チョン・ヤンワン)教授の夫妻は共働き夫婦で、子どもは1歳から4歳まで4人だった。
カン教授が夜間講義を終えて午後11時ごろ帰宅すると、妻はすでに疲れ果てており、4人の子どもはひな鳥のように父親の帰宅を喜んだ。朝、子どもたちを他人に預けて門を出るときには、足取りが重かったという。カン教授夫妻は、子どもたちが身の回りのことができる年齢になると、田舎の祖母の元に預け、小学校入学まで田舎で過ごさせた。カン教授は「母は孫と過ごせて喜び、子どもたちは祖母の愛をたっぷり受けて喜んだ」と書いた。
1960年代前半の時点では、共働き夫婦は珍しかった。大家族制度の風習も色濃く残っており、幼い時期や学校の長期休暇を田舎の祖父母の家で過ごすことは珍しくなかった。都市の子どもたちは、人生の中で忘れられない「田舎体験」をし、礼儀や勤勉・節約のような大事なことを祖父母から学んだ。
今は、状況が大きく変わった。若い夫婦のうち共働きが大多数を占めるようになり、0‐3歳の乳幼児の70%、未就学児の35%が祖父母の元で育てられているという。生活に余裕がない中、1銭でも多く貯めようと思えば共働きするしかない。経済的な面や信頼できるという点を考えると、子どもは自分たちの両親に預けるのが一番いい。
しかし、長い間子どもを育てて結婚させ、ようやくのんびり過ごせるはずだった両親にとって、高齢になってからの孫の育児はあまりうれしいことではない。ハーバード大の研究チームが1週間に9時間以上孫の面倒を見る祖母1万3000人以上を4年間にわたり調査した結果、心臓病の発病率が、孫の面倒を見ていない祖母に比べて55%も高かった。体重が6‐7キロになる1歳くらいの子どもを抱くと、普通に立っている時に比べ腰に4倍の圧力がかかるという。
国内のある病院では、腰痛患者の25%が、育児によって症状が発生していることが分かった。目に入れても痛くない孫だが、言葉も通じない子どもを1日10時間以上見ていれば、ストレス、食欲低下、不眠症などの症状が現れる。孫には会いたいが、孫の育児が原因で病気になるのは怖い。韓国のおじいさん、おばあさんたちは、何かと憂鬱(ゆううつ)だ。
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残業多い韓国の職場、保育園のお迎えに四苦八苦
育児、喜びから苦痛に
韓国の共働き夫婦が子どもを育てるに当たって抱える最も大きな問題は、相次ぐ残業と突然の食事会や飲み会だ。子育てに配慮しない職場の文化は今も改善されていないのが実情だ。
ある中堅企業の課長として勤務するシム・ヒジンさん(36)=女性=は7月5日夜、残業を終えて午後11時ごろに帰宅した。4歳と2歳になる2人の息子はすでに眠っていた。そしてシムさんは翌朝も、子どもたちが起きる前に自宅を出なければならなかった。
シムさんは「週に4日は残業があるため、平日は子どもの顔さえ見ることができない。母親に会えないと子どもたちは“保育園に行きたくない。お母さんを待つ”と駄々をこねる。子どもの世話をしてくれているおばにも八つ当たりしているようだ」と語る。大手企業に勤める夫も同じく残業ばかりで、子どもたちにとって父親は「週末にしか会えない人」という存在だ。
2歳の娘を育てながらある大手企業に勤務するイ・ウンジさん(32)=女性=は、週に2回は帰宅が夜9時以降になる。勤務時間は午前8時から午後6時までだが、イさんの会社ではほとんどの社員が午後8時か9時ごろまで、12時間以上働いている。イさんは「午後5時を過ぎてから、翌朝までに報告書を提出するよう求められることがよくある。そのたびに夜遅くまで誰かに子どもの世話を頼まなければならない。ベビーシッターが夜7時に娘を置いて帰ってしまったこともある」と話した。
韓国では女性の社会進出が増加している一方で、子どもを預けられる施設が少ないため、親たちの育児費用は膨らむばかりだ。しかし、このような悪条件の中でも、育児に配慮する企業はまだ少ない。サラリーマンたちは「今よりも少し早く帰宅し、1時間だけでも子どもと一緒に過ごす時間があれば、育児の問題の多くは解決するだろう」と話している。
フレックスタイム制(定められた時間の中で労働者が始業と終業の時間を決められる制度)を導入する企業も徐々に増えている。しかし、多くの職場では終業時間が近づくころになると、子どもを持つ女性社員が時計を見ながら「保育園の閉園時間に遅れないか」といつも焦って帰宅しているのが現実だ。
経済協力開発機構(OECD)の労働展望報告書(2010年)によると、加盟国の中では韓国の労働時間が最も長く、この傾向はここ数年間変わっていない。韓国では労働者1人当たりの年平均労働時間が2074時間で、日本の1733時間、米国の1776時間、ドイツの1309時間などに比べると数百時間も長い。一週間の労働時間が48時間以上という労働者の割合も、欧州では15%未満だが、韓国では31%だ。労働時間が長いということは、それだけ夜遅くまで残業するケースが多いことを意味する。
韓国労働研究院のペ・ギュシク研究員は「韓国は他の国に比べて労働時間が長いため、育児期だけでも労働者への配慮が必要だ。しかし現実には難しい」と語る。
広告業界で働くパク・ミンジンさん(34)は、今年初めに5歳の息子が電気炊飯器の蒸気で手にひどいやけどを負い、2週間ほど集中治療を受けなければ、指が癒着するかもしれないという深刻な状況だった。パクさんは「2週間は毎日病院に行かなければならなかったが、休暇を取ることもできず、仕方なく友人に頼んだ」「残業に加え、週末も忙しい夫には到底頼めなかった」と嘆いた。
米国や英国、日本などの先進国では、子どもに病気やけがなどの問題が発生した場合、親は必ず子どもを保育園に迎えに行かなければならない。これは職場でも当然の常識として認識されている。
韓国女性政策研究院のヤン・インスク研究員は「育児に関する問題は、企業と社会が協力して対策に取り組まなければならない国家的な課題だ。法律や制度を見直すだけでなく、育児に対する企業の認識を変えることが必要だ」と指摘した。
ママは残業、子供は留守番
ソウル市内にある中小企業のデザイン室長だったアン・ヘジンさん(37)=仮名=は今年6月末、解雇通知を受けた。残業を拒否したことに対する会社側の措置だった。アンさんの息子は今年小学校に入学、定時退社する必要があった。
アンさんは「無理な残業はできないと上司に抗議したところ、翌日に人事課から解雇通知を言い渡された」と話す。
韓国は労働時間が世界でも最も長い国の一つだ。「他国に比べ残業や仕事関係の飲み会・食事会が多く、若い共働き夫婦の子育てを困難にしている」と専門家は指摘する。
サムスン経済研究所が昨年、ワーキング・マザー1308人を対象にアンケート調査を行ったところ、職場生活で最も困ることという質問に対し「人事上の不利益」(42.4%)=複数回答=に次いで「慢性的な残業など、多すぎる業務」(32.3%)という回答が多かった。
育児政策研究所のソ・ムンヒ博士は「韓国の過度な残業・会食文化は、育児負担はもちろん、少子化の主な要因となっている」と分析している。
【萬物相】孫の世話に苦しむ祖父母たち
「ああ、かわいそうな大学講師よ。早朝から12時間の授業をこなし、家に帰れば子どもをおんぶしろと言われ、夜中にはろうそくの火をともせと言われる…」。国語学者のカン・シンハン成均館大名誉教授は、30代のころこのような歌を好んで歌っていたと、自身のエッセーに書いた。歌手ヒョン・インの『風林高』のメロディーに自身が作った詞を付けたものだ。カン・シンハン教授と鄭良婉(チョン・ヤンワン)教授の夫妻は共働き夫婦で、子どもは1歳から4歳まで4人だった。
カン教授が夜間講義を終えて午後11時ごろ帰宅すると、妻はすでに疲れ果てており、4人の子どもはひな鳥のように父親の帰宅を喜んだ。朝、子どもたちを他人に預けて門を出るときには、足取りが重かったという。カン教授夫妻は、子どもたちが身の回りのことができる年齢になると、田舎の祖母の元に預け、小学校入学まで田舎で過ごさせた。カン教授は「母は孫と過ごせて喜び、子どもたちは祖母の愛をたっぷり受けて喜んだ」と書いた。
1960年代前半の時点では、共働き夫婦は珍しかった。大家族制度の風習も色濃く残っており、幼い時期や学校の長期休暇を田舎の祖父母の家で過ごすことは珍しくなかった。都市の子どもたちは、人生の中で忘れられない「田舎体験」をし、礼儀や勤勉・節約のような大事なことを祖父母から学んだ。
今は、状況が大きく変わった。若い夫婦のうち共働きが大多数を占めるようになり、0‐3歳の乳幼児の70%、未就学児の35%が祖父母の元で育てられているという。生活に余裕がない中、1銭でも多く貯めようと思えば共働きするしかない。経済的な面や信頼できるという点を考えると、子どもは自分たちの両親に預けるのが一番いい。
しかし、長い間子どもを育てて結婚させ、ようやくのんびり過ごせるはずだった両親にとって、高齢になってからの孫の育児はあまりうれしいことではない。ハーバード大の研究チームが1週間に9時間以上孫の面倒を見る祖母1万3000人以上を4年間にわたり調査した結果、心臓病の発病率が、孫の面倒を見ていない祖母に比べて55%も高かった。体重が6‐7キロになる1歳くらいの子どもを抱くと、普通に立っている時に比べ腰に4倍の圧力がかかるという。
国内のある病院では、腰痛患者の25%が、育児によって症状が発生していることが分かった。目に入れても痛くない孫だが、言葉も通じない子どもを1日10時間以上見ていれば、ストレス、食欲低下、不眠症などの症状が現れる。孫には会いたいが、孫の育児が原因で病気になるのは怖い。韓国のおじいさん、おばあさんたちは、何かと憂鬱(ゆううつ)だ。