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治安維持法 - なぜ政党政治は「悪法」を生んだか (中公新書)

2022-08-21 06:45:54 | MY BOOK

治安維持法 - なぜ政党政治は「悪法」を生んだか中澤 俊輔 (中公新書) 

商品の説明

内容(「BOOK」データベースより)

言論の自由を制限し、戦前の反体制派を弾圧した「稀代の悪法」。これが治安維持法のイメージである。しかし、その実態は十分理解されているだろうか。本書は政党の役割に注目し、立案から戦後への影響までを再検証する。一九二五年に治安維持法を成立させたのは、護憲三派の政党内閣だった。なぜ政党は自らを縛りかねない法律を生み、その後の拡大を許したのか。現代にも通じる、自由と民主主義をめぐる難問に向き合う。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

中澤/俊輔
1979年、新潟県生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。2010年4月より、日本学術振興会特別研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

以下、読者の意見です。

 

2012年9月4日に日本でレビュー済み

Amazonで購入
 著者は、なぜ自身も結社である政党が、自らを縛りかねない結社取締法たる治安維持法を生んだか、という問いを発する。
 大正一四年の護憲三派の加藤内閣による制定時、七条からなるこの法律は、「国体」と「私有財産制度」を暴力によって覆そうとする勢力、共産主義政党と無政府主義の結社を取り締まることのみを目的としていた。しかし、数年後にこの法律は、結社を取り締まるばかりでなく、国体と私有財産制の否定を目的にすると(司法当局が)みなした宣伝活動を取り締まることが出来るように改正される。これも政党内閣(政友会の田中内閣)の手によって。
 言論の自由を規制できるようになった法は、守るべき「国体」の定義も曖昧に、拡大解釈による膨張の一途をたどっていく、と本書は指摘する。警察による恣意的な法運用を許し、自由主義や反戦運動も適用の対象となり、「治安維持法はもはや、内務省(警察行政を所管する)と司法省のつくる治安維持のシステムに組み込まれ、膨大な要求に支えられた、顔の見えない怪物となっていた。」と著者はいう。
 言論の自由と社会の安定を暴力で覆そうとする勢力を規制する。このことに異を唱える人は少ないだろう。今のアル・カイーダと同じように、共産主義勢力は確かにそうした時期があった。漸進的に、議会制民主主義による立憲君主体制の道を歩んでいた戦前の日本を暴力から守ろうとして、政党政治は稀代の悪法を生んでしまった。
 治安維持法の何が問題で、我々は政治的自由と民主主義を暴力から守るためにどうしたらよいのか。戦前の政党政治から何を教訓として得るべきか。このことを真摯に考えさせられる好著。
 
2013年8月4日に日本でレビュー済み
 
「先行研究では、治安維持法が当初は『結社』の取り締まりを主たる目的としていたことは、
意外に重視されてこなかった。むろん、治安維持法が1925年に『結社』取締法として成立
したことについては認められている。しかし、これまでの関心は、治安維持法がその後、
適用の範囲を拡大していく過程であった。現在定着しているイメージは、1930年代後半から
太平洋戦争末期に偏重しているともいえる。
 本書は、治安維持法の成立から廃止に至るまでの経緯を、政党の役割に着目して再検討
することで、戦前日本の政党政治の特徴を描こうとするものである」。

 たぶん小中高の教科書では、全体主義的な狂気へと向かう里程標として取り上げられる
この治安維持法、しかし、現実を参照すればむしろ共産主義の脅威の中、護持されるべき
「国体」と保障すべき言論の自由の狭間から生み落とされた法律であったことを知らされる。
 吉田茂のレッド・パージと何が違うというのだろう? 戦後において対共産主義の最前線、
防波堤としての機能を担わされた過去を思うとき、異常な時代のシンボルではなく、逆に
歴史の連続性を象徴するものとしてこの法律の姿が浮上してくる。

 とはいえ同時に、治安維持法はやはりその狂乱を示唆するものとして横たわる。
 例えば1928年の法改正は議会の頭越しに枢密院の緊急勅令によって事実上可決された。
「国体」を震撼させたクーデター、2.26事件に直面しながらも、その陸軍勢力を治安維持法に
従って裁くことができるでもない機能不全を露呈する。
 最高の、あるいは最悪の歴史の皮肉は、大政翼賛会がひとつには「天皇親政を蔑ろにする
『幕府的存在』」であるがために、もうひとつにはその経済政策が「私有財産制度の否認」に
あたる虞を含むために、治安維持法の適用対象と見なされる可能性を孕んでいた、という
その点に存する。

 日本に「幽霊が出る。共産主義という幽霊である」。
 近現代史を振り返るとき不思議でならない問題のひとつは、ほぼ一貫して「不能犯」で
しかなかったこの「幽霊」になぜかくもうなされ続けたのか、ということ。妄想に右往左往
させられた末に、この治安維持法なるモンスターは生まれた。当初の目的に掲げられた
「結社」の取り締まりは結果として政党政治の基盤をも否定することとなった。
 戦後における自由主義勢力の戦略的拠点として規定された日本は、「幽霊」への慄きの
果て、アメリカに隷属する道を歩み続ける。
 そんなことを思うとき、太平洋戦争の敗北はすなわち「幽霊」への敗北であったことを
思い知らされる。
 日本史に少し違った見え方を与えてくれる、高品質のテキスト。
 
2019年9月30日に日本でレビュー済み
 
 本書は、昭和戦前期に思想や言論の取り締まり、左翼的な諸活動のみならず、自由主義的思想あるいは宗教団体の活動等にまで弾圧取り締まりの猛威を振るった治安維持法が、どのようにその適用範囲を拡大していったか、その成立から運用、廃止に至るまでの過程を歴史的に丹念にたどることで、治安維持法が果たした役割を、詳細な事実に基づいてわかりやすく叙述している。
 まず興味を惹かれたのは、普通選挙法の成立した1925年(大正14年)に治安維持法を議会に提出したのが、政党政治時代を象徴する護憲三派加藤高明内閣だったということである。大正デモクラシーの流れから、治安維持法という後に民主主義を圧殺することにつながる鬼子が生み出されたのはなぜか、という問題である。大正末期、関東大震災以後の社会秩序の建て直し、虎ノ門事件(摂政裕仁皇太子暗殺未遂事件)などを背景として、過激な社会運動を取り締まるための法律が検討されていた。著者の指摘によると、最初成立した治安維持法は「結社」取り締まりを主眼とし、言論の自由の制限につながりかねない「宣伝」活動を取り締まることには抑制的だったようである。1927年(昭和2年)共産党を全国一斉に取り締まった三・一五事件で、大量の検挙者千六百名余りを出したものの、実際の共産党員は限られた数だったため、「結社」に所属する者を取り締まる法は、さっそく実務上の破綻をきたしたとのことである。そこで1928年(昭和3年) 政友会田中義一内閣のとき、緊急勅令による改正が図られた。「結社」取り締まりから「宣伝」を含む様々な活動を取り締まれる法への性格転換である。「結社の目的遂行の為にする行為を為したる者」(第一条)という内容の極めて曖昧な「目的遂行罪」が導入され、これによって法の適用範囲が飛躍的に拡大する道が開かれた。死刑の導入など罰則も強化された。
 第二に注目される点は、政府の治安対策策定には、特高警察を管掌する内務省と、実際の裁判に携わる思想検事や判事を所掌する司法省という二つの潮流があり、その主導権をめぐっての二つの官庁の対立や同調の駆け引きが、時の内閣や議会を相手に展開され、治安維持法の成立、そしてその後の二度にわたる改正(1928年、1941年)でも、両者の綱引きが大きく関係していたという指摘である。治安維持法というと、とかく内務省の指導下にある特高警察の取調べ中の拷問などの問題に注目が集まりがちだが、思想犯の処遇をめぐって転向政策や予防拘禁などを推進したのが司法省だったことも見逃すべきでない。とはいえ両官庁とも法の拡張解釈から法改正へと、取り締まりをつねに強化するという方向性は同じだったと言えよう。
 三つ目は、法律と運用実務上の齟齬を埋めるために司法省と内務省による二度の改正(1934年、1935年)の企てが挫折した後、1941年(昭和16年)第二次近衛内閣時にようやく成立した二度目の改正の歴史的な意味である。1937年(昭和12年)に日中戦争が始まり、翌年国家総動員法が成立して次第に戦時体制への移行しつつある中、1940年7月第二次近衛内閣が成立した。その後のいわゆる近衛新党をめぐる新体制運動の過程で、政党解消、大政翼賛会成立という政治的混乱と政争の渦中にあった議会は、翌年2月新たに提出された治安維持法改正案への十分なチェック機能を果たさなかったようだ。それゆえ司法省、内務省の治安当局にとって実に都合のよい内容を盛り込むことができた。著者によると主な改正点の特徴は、例によってさらなる罰則の強化、検事に令状なしでの強制捜査権を認めるという刑事手続き上の特例、そして予防拘禁の制度化ということになる。取り締まり機能のいっそうの拡充がなされたわけである。そして改正治安維持法は、太平洋戦争(1941年12月開戦)の戦時体制下で、反戦、厭戦的な思想や言論の取り締まりを含め,目的遂行罪での検挙で再び猛威を振るった。さらに新興宗教団体の活動封じ込めや植民地朝鮮での民族独立運動の弾圧にも貢献したようである。横浜事件というフレームアップによる冤罪事件も、その安易な拡大適用のさなかに起こるべくして起きたのである。
 治安維持法のたどった歴史的経過を見ると、治安対策の法というものが治安当局の実務上の要請にひきずられ、常に法の拡大適用と改正を求められる宿命にあることを、本書は鮮やかに教えてくれる。

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