つまらないことを、引き受けたかもしれない。下手をすると、また鉄格子の中に逆戻りだ。出所てきた俺にできることは、まともな稼業ではない知り合いを頼ることだった。ひとり殺った男。それだけで幅が利くような世界だ。
二人、殺らないか、と持ちかけられた。ひとりも三人も、同じといえば同じだ。
北方健三「碑名」
第一弾「さらば、荒野」カドカワノベルズで書き下ろしで。
その後「野生時代」でシリーズ化。
大学生だった俺はと校内の図書館で読み漁った。
金なし車なし彼女なしの俺には時間だけはたっぷりあった。
二十代前半と五十代前半の感じ方は違う。
憧れも好みも正義の意味もまるで変った。
一線を踏み越えるか踏み越えられないか男は二つに分かれる。
踏み越えられるのが格好いいわけじゃない。
その一線の向こう側は死屍累々と荒野が広がっている。