新型コロナ禍、自宅待機中の初老男の妄想にお付き合いください。実は暇に飽かして仏教関係の本を読み漁っていますと、妄想が広がり、いろんなことを思いつきます。今回は帝釈天について。帝釈天は梵語でサクラ(正確には、シャックロー・デーヴァーナーン・インドラ)と言うとある本に書いてありました。そこで映画『男はつらいよ』に出てくる寅さんの妹さくらのことを思い出しました。映画の舞台は葛飾柴又の帝釈天(柴又 題経寺)。その帝釈天から「さくら」の名前がついたのではないかという妄想です。
世親の『倶舎論』の「世間品」には、宇宙の生成と形態、そこに住む生き物の種類が詳しく述べられています。宇宙は、(虚空)・風輪・水輪・金輪からなり、生き物が住む大地を支えているのが、風輪・水輪・金輪の三つの円輪体で、ヒトが住んでいるのは金輪の上の大地。その大地の中央には須弥山(スメール山)という高い山があります。中腹には持国天・増長天・広目天・多聞天の四天王が住み、頂上の正方形の広場には三十三天が住み、その主が広場の中央の殊勝殿に住む帝釈天です(『世親』講談社学術文庫より)。トップオブザトップの帝釈天。寅さんの妹「さくら」も見方によれば、帝釈天のような存在かもしれません。
さらに『華厳経』の「入法界品」は、善財童子が五十五所・五十三人の善知識(先生)を順番に訪ねて教えを求める物語です。悩める善財童子が寅さん、善知識が映画で毎回登場するマドンナではないでしょうか。実際に五十三人の善知識といっても、菩薩も居れば童子や童女、長者の婦人など女性もたくさん登場します。その一人一人に謙虚な気持ちで教えを乞うたのち、最後に普賢菩薩のとろで、究極の悟りを完成させます。渥美清さんが演じる『男はつらいよ』シリーズは48話まで撮影されましたが、もしお元気で53話まで続いたらどんな結末になったか。あり得ませんが勝手に妄想するだけで楽しいですね。余談ですが、東海道五十三次の五十三の宿場も華厳の考えによりつくられたとか・・・。
お釈迦様の教え、世親の教えなどは、心のあり方、人間の生き方をとことん突き詰め、道筋をつけようとしたものです。先日、哲学者の小川仁志先生が孤独になって自己存在を考えてみることのの大切さを語っていました。仏教を宗教として語ると信教の自由に反するなどの意見がでてきますが、哲学としてのゴータマ・ブッダや竜樹、世親らの思想にふれるのも良いかもしれません。