(角川文庫)を読む。
この人の何がすごいか。彼曰く、禅の訓えに従って、競争せずにどうやって生きるかを考え、習字の先生を辞めて(地方の競争が激しかった)、包装紙のデザインをするという仕事を見出し、自分で仕事を取ってきたことだ。これを「具体的に動く」と著者は呼ぶ。
つまり、営業ですね。十件まわって、すべて断られる。
理由は二つ。①無名で保証がない②当時、デザインに金をかけるという意識がなかった。
だそうだ。
それでも真剣にたずね続けていると、こういったやり取りに出遭った。
p159~
「私は、これこれこういうもんですが、お宅の包み紙のデザインの仕事をやらせてもらえませんか?」
と、いいつつ、肩書きなしの名刺を渡す。
「あなたはどんな経歴の方ですか?」
「経歴や肩書きは何もありません。立派な肩書きがあれば、ここまで注文を取りに来ません。ないからきたんです。」
「あなたはどこか、他の店の仕事をやっていますか?」
「いいえ、やっておりませんお宅が初めてです。」
「どうしてうちに来ました?」
「はい、お宅がこの町で一番良いお店のように思いましたので」
「何か、今までにやった見本の仕事はありますか」
「いいえ、ありません、こちらが初めてです」
「ほう、初めてですか?うちで今使っている包み紙はこれですが」
「これよりもいい仕事ができる自信はありますか」
「そんな自信はありません。あるのはうぬぼれだけです、そのうぬぼれもやってみなければ分かりません」
「うん、確かにそうだ。おもしろい、ここは一つ頼んでみるかね」
で、しかも、このあと、手付金として、前金までを受け取ってしまう。
すごい話だが、世の中にはいろいろな人がいるものなんですね。
で、デザインは気に入ってもらえて、30年以上が経つ。すごいですよね。
この話。