温故知新~温新知故?

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日の名残り カズオ イシグロ 訳土屋 政雄 読了〜すばらしい〜

2018-08-13 22:04:44 | 

日の名残り (ハヤカワepi文庫) | カズオ イシグロ, Kazuo Ishiguro, 土屋 政雄 |本 | 通販 | Amazon
内容(「BOOK」データベースより)
品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。

イシグロカズオ、2冊めを本日読了。昨日8割位を1日で読んでしまって、今日は1時間ほどで残りを読了。
すばらしかった。基本は執事と女中頭の話だ。しかし、たくみで、没頭して読んでしまった。執事の話は、まるでノンフィクションのようにリアル。執事にインタビューしているようにイギリスの歴史的な話が次々と出てくる。また、上手に過去にさかのぼった話が出てくる。私はイギリの歴史に詳しくないので、史実との違い、整合性など全然わからない、最後のあとがきで史実のとの不整合などが書かれているけど、イギリスの歴史にも興味が湧いて、それらの本も読んでみたい気にさせる。
以下の書評にもあるけど、彼の小説は他愛もないプロットで、深いというか重いテーマが書かれている。先に読んだ忘れられた巨人も記憶あるいは老いがプロットだったけど、この作品も私には記憶や老いが影のテーマのように感じられる。私の歳67歳になると、このようなテーマは非常に興味深い。また、このようなテーマに取り組んで、これだけ興味深く読める本は初めてだ。素晴らしい作品。カズオ・イシグロは、すでにノーベル賞までとったけど、今後歴史的にもっともっと大きな名を残す作家となる予感がする。
最後に、訳が素晴らしい。なんの違和感もなく日本語で読める。訳本で、これだけ文章を楽しめる作品はこれが初めてかもしれない。土屋政雄さん、すばらしい。
「日の名残り」めちゃ笑えるからみんな読んで - 未翻訳ブックレビュー
「日の名残り」めちゃ笑えるからみんな読んで
本人は笑わせるつもりゼロ、でも他人が見ると妙に可笑しい、そんな人って誰のまわりにもけっこういるのではないか。
ノーベル文学賞受賞を機に、長らく積ん読にしていたカズオ・イシグロ「日の名残り」を読んだら、笑えて感動する傑作だった。

『日の名残り』は「無駄にした人生」をテーマにした作品である。執事としての職業人生と愛や結婚という個人的な人生の両方だ - 株式日記と経済展望
『日の名残り』はイシグロ自身が何度か語っているように、「無駄にした人生」をテーマにした作品である。執事としての職業人生と愛や結婚という個人的な人生の両方だ。

インタビューもある。
カズオ・イシグロ「私はなぜ『日の名残り』を4週間で書けたのか」|世界的作家の「創作の秘密」 | クーリエ・ジャポン
当時私は32歳で、ロンドン南部のシデナムという地区に引っ越したばかりだった。この家で私は初めて専用の書斎を持った(最初の2つの小説は食卓で書いた)。
書斎とは、実は階段の踊り場にある大きな戸棚のようなもので、ドアもなかったが、好きなように資料を広げることができ、夜に片付ける必要がない場所があるというだけで嬉しかった。私は剝がれかけた壁一面に表やメモを貼り、執筆に取りかかった。
だいたいこのようにして『日の名残り』は書かれた。クラッシュ期間中は、文体も、午前中に書いたことが午後に書いたことと矛盾していないかといったことも気にせず、自由に書いていった。重視したのは、アイディアが浮かび、育っていくのを邪魔しないことだった。ひどい文章、お粗末な会話、どこにもつながらない場面。すべてそのままにして書き続けた。

5つ星のうち5.0深い余韻につつまれる見事な傑作
2カズオ・イシグロの3作目の長編である。素晴らしい作品だった。
英国の執事が主人公である。ソールズベリーの館。新しいアメリカ人の主人に仕える老いたスティーブンス。ミス・ケントンからの手紙。車で旅に出たスティーブンスは、長年仕えたかつての主人であるダーリントン卿の時代に想いをはせる。途中で立ち寄った地の人々との交流と過去の回想がクロスオーバーしながら、物語は淡々と進む。
登場人物たちの微妙な心の揺れをとらえた緻密な描写。2つの世界大戦と館での出来事。かつて執事であった父親。多くの使用人たち。出入りする人々。プロフェッショナリズム。ミス・ケイトンとのやりとり。作品を貫く品格。よく錬られた構成。美しい夕暮れ。
面白いとか、エキサイティングだとか、泣けるとか、そういうのではないかもしれない。しかし、読み終えて、静かだが、確かで、深い余韻に包まれた。1989年にブッカー賞を受賞したという。それだけのことはある。見事な傑作である。以前読んだ「わたしを離さないで」も、とても良い作品だった。この作家はいつかノーベル文学賞をとるだろう。

「信頼できない語り手」としてのスティーブンス
執事スティーブンスは長年、英国貴族ダーリントン卿に仕えていたが、卿の死後アメリカ人のファラディ氏がその邸宅を買い取ったため、新しい主人の下で働くこととなった。スティーブンスはある日、女中頭だったベン夫人(ミス・ケントン)から手紙を受け取る。有能なベン夫人に復帰してほしいと思ったスティーブンスは、彼女に会うべく旅に出る。旅をしながらスティーブンスは、ダーリントン・ホール華やかなりし頃の出来事を回想する。ミス・ケントンに対する淡い恋心や、ナチスに利用されて破滅するダーリントン卿の悲劇を思い出して涙を流すスティーブンスは、アメリカ人の主人のためジョークの練習をしようと気持ちを新たにする。本作品のあらすじはざっとこんなところか。
スティーブンスには、自分がナチス協力者のところで働いていたことなど、都合の悪い事実を歪曲する傾向が見受けられる。ミス・ケントンの手紙を自分に都合よく理解してしまうなど、記憶力にも問題がある。「執事の品格」にこだわるあまり、ミス・ケントンを冷たくあしらってしまったりもする。この作品は、そういう「信頼できない」スティーブンスの矛盾や自己欺瞞に留意して読むとおもしろく読めることだろう。

読み返して楽しめそう
ストーリーの展開というより、情景や心理描写が細やかで、(土屋政雄さんの訳も素晴らしいと言える)ゆっくり文章を味わいながら読めた。私にとっては、しばらくしたらまた読み返したくなる愛読書系小説に違いない。余談だが、執事のスティーブンスと女中頭のミス・ケントンの「ココア会議」の部分では、英国ドラマ「ダウントン・アビー」の執事カーソンと家政婦長ヒューズが一日の終わりに紅茶やワインを飲みながら語り合うシーンを思い出し、当時はそういった使用人同士の習慣があったのだと納得した。


「映画『日の名残り』 は何でカズオ・イシグロの原作といろいろ違うの?」問題にノーベル賞級の大胆さで迫る!|おかえもん|note
この『日の名残り(The Remain of the Day)』という作品は実に素晴らしい。実に僕の好みだ。なのに世間で正しく評価されていないことが残念でならない。
映画もあるようだ、映画もぜひ見てみたい。
そういうわけで、この際、原作と映画の両方をきちんと解説しておこうと思ったんだよね。