この本も、朝日新聞の書評で読みたくなって借りた。
皮膚とは何か。これが本書をつらぬく問いである。皮膚科の医者であり、研究者でもある自然科学者の語る皮膚論だが、皮膚の実践哲学ともいうべき人文学的豊かさを湛(たた)えている。 わずか一ミリに満たない皮膚の表皮には、死んで硬化した細胞の層があり、日々更新されている。無数の常在菌が住み、免疫細胞と健全な相互関係を築いている。そうした「サファリ」のような皮膚が、有害な攻撃や刺激のバリアーとなる。真皮に住む免疫細胞は、それらが連携して侵入してきた細菌を攻撃する。皮膚の各部位の連携で、繊細な触覚も構成している。
目次は以下の通り。
第1章 マルチツールのような臓器 皮膚の構造とはたらき
第2章 皮膚をめぐるサファリ ダニやマイクロバイオームについて
第3章 腸感覚 身体の内と外のかかわり
第4章 光に向かって 皮膚と太陽をめぐる物語
第5章 老化する皮膚 しわ、そして死との戦い
第6章 第一の感覚 触覚のメカニズムと皺
第7章 心理的な皮膚 心と皮膚が互いに及ぼす影響について
第8章 社会の皮膚 刻んだ模様の意味
第9章 分け隔てる皮膚 ソーシャルな臓器の危険な側面──疾病、人種、性別
第10章 魂の皮膚 皮膚が思考に及ぼす影響──宗教、哲学、言語について
以下のアマゾンの感想にもあるけど、まず改めて考えてみると皮膚ってすごいなということ。改めて考えてみると、人間の臓器のうちで一番外側にあり、あらゆる外敵にさらされていて、内部の臓器を鎧のように守っているのだ。
以下に、いくつか、この本で書かれている皮膚にかかわる不思議な現象の例を示す。
外気温が何度であろうと、人間の体温は摂氏36度から38度の狭い範囲で調整されなければならず、42度を越えれば命に関わる、それを実現しているのが皮膚だ。
また、直接、皮膚ではないけど、女性が自分とは異なる主要組織適合遺伝子複合体(MHC)を持つ男性のにおいに強く惹かれる傾向をはっきり示すそうだ。
一卵性双生児でも指紋は同じではない。
外の世界に出てくる時の赤ちゃんのぬるぬるとした肌は、ほぼまっさらなキャンバスのようで、微生物の定着を待ち受けている状態だ。人間には腸内など、細菌や微生物は必要なのは周知のこと。
痛みを感じなかったら、人間は危険な状態の検知に対して無防備だ。痛みを感じるのは皮膚だ。
皮膚と心の相互作用は驚くほど見過ごされている。心→皮膚の作用、皮膚→心の作用、皮膚に症状が現れる精神疾患
心の奥底の動きが瞬時に体の表面に現れる、人類共通の体験がひとつある。赤面だ。
いかがですか?皮膚って、頑張っていますね。大事な機能を担っていますね。でも、皮膚の病気は命に関わることはないと一般的に思われ、重要視されていませんね。わたしも、皮膚が弱く、湿疹や乾癬に悩まされているけど、皮膚科に行くと決まって処方されるのはステロイド。処方箋がないと買えないので、医者に行くけど、またステロイドくれるだけか?原因を追求して元から直してはくらないのだといつも思っている。しかし、この本を読んで、皮膚に関して、まだ医学では分からないことだらけのようで、普通の皮膚科の医者はステロイドを処方するしかないということがわかった。上にあげた心と皮膚との関係がありそうなのだけど、しっかり解明できていないようだ。
この本の終わりに、その他のエピソードとして、「肌の色により差別や、ハンセン病や天然痘など皮膚に異常が現れる病気は差別を受け、患者は社会から阻害されること。」
あるいは、「刺青は、動物は絶対にしないが、人間は古来いろいろな形で宗教的な意味などで入れ墨をする風習がある。これは皮膚で人間は何かを周りに伝えようとする行為だ。皮膚でとても大事なことを伝えようとしている。他の内部の臓器ではできないことだ。」などが紹介されている。
いかがですか、皮膚を見直したでしょう。私は見直しました。しかし、私は今日からなにか特別なことをするわけではないですね。しかし、新しい、視点を得た感じがする。良い本でした。
あ、ただし一つ難点を挙げると、しょうがないことだけど、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)のような医学用語がいっぱい出てくるの読みにくいですね。私はほとんど読み飛ばしていきました。
以下にこの本に対する紹介や感想のリンクを貼っておきます。
「自分」が皮膚の内側に隠れていると思ったら大間違い。皮膚こそ、自分そのものであり、つねに私たちを語っている。とくに、アイデンティティとの関連では皮膚の色に格別の関心が置かれがちだが、皮膚はもっとずっと多彩なやり方で私たち自身を形作っている。そして、健康、美容といった生活面はもちろんのこと、「哲学や宗教、言語にまで、単なる物質的なあり方をはるかに超えた影響力を及ぼしている」と著者はいう。 本書が提供するのは、著者の専門である科学・医学はもちろん、社会・心理・歴史などの領域を含む、広大な皮膚の世界を巡る旅だ。ポケットから鍵を取り出してドアを開けるという動作一つとっても、皮膚がどれほど精妙に機能しているか、もしあなたが意識したことがなかったなら、きっとこの本の随所に発見が待っている。 卓越した案内人である著者とともにこの大きな旅を終えたときには、知りたかったことすべてを見て回ったように感じられるだろう。自分の皮膚の実力を知るだけで、私たちは小さな支えを得る。なぜなら、「それはつまり、私たちが何者であるかを理解すること」だからだ。 米英で大好評を得た2019年《英国王立協会科学図書賞》最終候補作の、待望の邦訳。
θ 意識されざる皮膚の世界
本書は、皮膚の医療の専門家による皮膚の本である。 皮膚は我々に見えるほぼ全てであるにもかかわらず、同時に他の体の部位と比べてほとんど無視・軽視されている存在でもある。 本書は、その皮膚の話を豊富なトピックスから多角的に語ってくれる。 体系的に皮膚の科学を展開しているのではなく、エッセイ集に近い。 話題は、皮膚に宿る細菌、紫外線の影響、老化、触覚、さらには皮膚が持つ様々な社会的機能(時にはスティグマ)にまで及ぶ。 興味があるところから読んでみることもできる書き方だと思う。