この本は、いろいろメディアで取り上げられているのだが、やはり朝日新聞の書評で興味を持ったのだろう。
「万物の黎明」 [著]デヴィッド・グレーバー、デヴィッド・ウェングロウ 数年に一度、人類史の全体像を提示する本が現れ、国際的なベストセラーとなることがある。
原書が2年前に英語で刊行された本書も、その一冊だ。
副題を見て『サピエンス全史』のような本を思い浮かべるかもしれないが、その印象は裏切られるだろう。人類学者と考古学者の手で書かれた本書は、このジャンルの前提に正面から挑戦する。
その前提とは、人間社会が一定のパターンに沿って進化するということだ。典型的には、小規模で平等な狩猟採集社会が、定住農耕による生産力の向上を経て、階級格差を伴う大規模な国家へと発展する。
本書によれば、こうした思考は西洋人の偏見にすぎない。近年の考古学は、農耕が始まる前に巨大な都市が築かれたことを示す遺跡など、従来の先史時代のイメージに反する事例を数多く発掘してきた。
また、人類学は、一般的には「未開」だと見なされる人々の暮らす社会が、実は極めて豊かな多様性を持つことを明らかにしてきた。
中身は、下に見開きページを撮った写真を紹介するが、2段、全約640ページというヴォリューム、かつ下の写真の左側にあるように、随所に脚注が小さな文字である。借りて手に取った途端、これは2週間では読了できないなと諦めていたが、毎日50~100ページというペースでなんとか読了できた。しかし、脚注は無視したし、随所に出てくる人物名や地名、遺跡、歴史的人物のなんたるかは追求しないことでやっと読了できた。本来は購入して、手元におき、じっくりと史実や説明を熟読して読むべきだろう。
さて内容だが、以下のAmazonのある方の書評が簡潔に集約したものだろう。古代についての現在の常識がくつがえる内容だ。
ゲームチェンジャー
私たちが頭までどっぷりと浸かっている西欧中心的な歴史観、社会観が、ガラガラと崩れ落ちる体験をした。
今2度目の精読をしている。一番の強みは考古学や文化史の事実の見直しに基づいていることだ。社会科学のゲームチェンジャーといえる。既存の学説に依存している権威者には是非論争を起こしてほしい。
内容が膨大なので、本書の内容を詳しく紹介したり、要約することは大変難しい。よって、いかにいくつか私がポストイットをつけた内容について紹介する。
すなわち、古代の人類は原始的な未開の民だという常識がいくつかの例でそうとは限らないことが述べられている。
古代は、戦闘にあけくれ平等主義とは遠い世界と考えられていたが、そうではないようだ。古代に対して、なぜヨーロッパ人は競争心がかくも強いのか、なぜヨーロッパ人は食べ物を分かち合わないのか?なぜヨーロッパ人は競争心がかくも強いのか?なぜヨーロッパ人は他人の命令に服従するのか?という形で色々な例示が示されている。
そのなかで、我々は現代社会の常識で古代の生活や社会様式を説明してしまいがちであるが、一つの例を挙げると、シェイクスピアの時代の事柄を恐竜に例えてしまったりするが、シェイクスピアの時代にはだれも恐竜の存在を知らなかったはずなので、あたかもそれが当時の人たちの考えと叙述してしまうのは危険だろう。
アメリカインディアンについても、西部劇で描かれ、そこから我々はある既成概念を持ってしまうが、下のポヴァティポイントの例をみても、もしかしたら、彼らは我々より進んだ社会形態を実現していたかもしれないのだ。
ポヴァティ・ポイントの記念碑的土塁群
ポヴァティ・ポイントの記念碑的土塁群は、ルイジアナ州ウェスト・キャロル・パリッシュにあるアメリカ先住民族の遺跡です。
2014年に世界遺産に登録されました。ポヴァティ・ポイントの名は、遺跡の近くにある19世紀のプランテーションか名付けられました。
ミシシッピ渓谷の中の小高く狭いところにあります。
ここは紀元前1500年から紀元前700年の間、狩猟採集民が居住や祭礼の場として数百年間使っていたと考えられています。
周囲は森林と湿地で、これらを利用して都市が造られたと考えられています。中心部は6つの同心八角形から成り、最も外側の直径は約1.3km。1つずつ土を盛った畝で出来ています。
農耕の発達がブレークスルーとなって世界は大きく変わったという考えが主流だが、いいかえると、世界は、コムギ、コメ、キビ、トウモロコシによって養われているのであって、これらのない現代生活を想像することは難しい世界となって、それによる制約に縛られる世界となっている。
日本でも弥生時代に農耕文化が成立して、進化した弥生時代の農耕民と進化前の縄文時代の狩猟採集民という考えが主流となっているが三内丸山遺跡の発見で、その考えの修正が必要ではないかとなっている。
三内丸山遺跡とは
三内丸山遺跡では、平成4年(1992年)から始まった発掘調査で、縄文時代前期~中期(紀元前約3,900~2,200年 現在から約5,900~4,200年前)の大規模な集落跡が見つかりました。
たくさんの竪穴建物跡や掘立柱建物跡、盛土、大人や子供の墓などのほか、多量の土器や石器、貴重な木製品、骨角製品などが出土しました。
青森県は遺跡の重要性から、平成6年(1994年)に遺跡の保存を決定しました。
平成7年(1995年)から遺跡の整備と公開を行い、平成9年(1997年)3月には史跡に指定され、さらに平成12年(2000年)11月には特別史跡に、平成15年(2003年)5月には出土品1958点が重要文化財に指定されました。
また、令和3年(2021年)7月には三内丸山遺跡を含む「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録されました。
青森県では、縄文時代の「ムラ」を体験できる場所として、三内丸山遺跡の保存・整備・活用をこれからも進めていきます。
その他、現代選挙に金がかかるので政治には裏金が必要だという話題がメディアを賑わしているが、古代には真に民主的である役職の選出方法はくじ引きであると考えられていた時代もあったようだ。私も、公平な選挙あるいは金のかからない選挙のためには抽選も一つの選択肢になりうると思う。古代にこのような考えがあったというのは大変驚きであった。
その他、不消化だが気になったキーワードを挙げておく。
ー 三つの原理(暴力の統制、情報の統制、個人のカリスマ性)が社会的権力の三つの可能な基盤である
ー 南北アメリカのいくつかの地域では、競技スポーツが戦争の代理として機能していた。e sportsなどでゲーマーが職業となっているが、人間は本来戦うのが好きだ。戦争をなくすには、それをゲームに置き換えることができれば戦争で犠牲者が発生するのをなくすことができるのではと思う。
ー 「バンド」、「部族」、「首長性」、「国家」という進化の過程は?
ー 古代は農耕を離脱する動きが選択の自由としてあった。フレキシブルな社会であった。
ー 女性のリーダーは古代にもあった。新石器時代の社会における革新は、ある天才的な男性が孤高のヴィジョンを実現するというものではなく、主に女性たちによって、何世紀にもわたって蓄積されてきた知識の集合にもとづいており、そこには一見すると地味であるものの実際にはきわめて重要な発見が延々と繰り返されていた。例:酵母という微生物を加えることでパンを膨らませることを最初に考えたのはだれだったのだろう?それは女性であることはほぼ間違いない。
ー 社会が複雑化すれば国家が形成されるし、国家が形成されているところは社会が複雑であるという常識。
膨大な内容で、原書は英語特有の関係代名詞が使われているのか、単語の説明的な部分が多いので、非常に読みにくいが、じっくり読むべき本だと思う。現状の打破にむかうヒントがいろいろあると思う。