硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

記憶と忘却。

2018-03-11 22:13:41 | 日記
90歳を超えたお婆ちゃんは、認知症を患っていて、自身で持ってきたカバンを一度どこかに置いてしまうと、どこに置いたか分からなくなってしまうほどの短期記憶障害で毎日が新しい一日なのです。しかし、そのお婆ちゃんの記憶は少女の頃、そして、母になった頃の記憶のある一部分が鮮明に残っていて、そのお話は幾度となく繰り返されるのです。

少女の頃の記憶は戦中の話。お婆ちゃんの住む町にB29がやってきて、焼夷弾を沢山落としていき、街はまる焼けになってしまったけれど、お婆ちゃんの住む家は川を挟んでいたので空襲の被害を免れました。でも、お婆ちゃんの記憶は空襲時ではなく、その後の話なのでした。

まだ幼かったお婆ちゃんは、普段からの遊び場だった川向こうの焼け野原になった街に行くと、その中に呆然と立ちすくむ人達を観ました。野原の前に立つ人は、そこに住んでいた家族。お婆ちゃん幼いながらも、なんと声をかけてよいのかと思案したそうですが、ついには言葉にすることが出来なかったそうです。

そして、母になったお婆ちゃんは、旦那さんの仕事の都合で引っ越し、大きな川の近くの社宅に住むことになりました。
ある日の事、びっくりするくらいの大雨が降り、普段は穏やかな川が今にも溢れそうになりました。そんな状況下、旦那さんは地域を護る為に家には戻れないので、お婆ちゃんは子供たちを連れていつでも逃げられる準備をしながら川の様子をうかがっていた所、対岸はお婆ちゃんの住む社宅より低地になっていたので、そちら側に氾濫しました。そして、川上の街も洪水によって押し流され、沢山の家財道具や車、倒壊した家の材木を濁流の中に観たといいます。

翌々日の新聞で、水害による死者数がとても多かったことを知り、濁流の中に人もいた事を想うと居た堪れなくなったと言います。

お婆ちゃんが体験した半世紀以上も前のお話で、認知症であるのに忘却できない記憶なのです。