歌人・辰巳泰子の公式ブログ

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弥生三月の事

2012-04-02 02:55:15 | 日常
肌寒き朝となりたる尽日のいかに生きしや弥生三月   窪田政男


この歌は、素人が横綱を、技量なしで、切実さだけで、転がしたような歌です。

まず、「尽日のいかに生きしや」ではなく、「弥生(三月)をいかに生きしや」……と、つなげるのが常道。
それから、「弥生」と「三月」のトートロジー。どちらか一つにすべき。

……と、朱の入るところ。

しかし、そうか、この人は、三月の、カレンダーの終わる日に、このひと月をいかに過ごしたか、噛みしめつつ、自問しているのだなぁ……。
しかも、弥生と三月、畳みかけるまでして、きっと何か、大変なことのあったひと月だったのだなぁ……。

説得されます。
朱を入れさせない、勢いがあります。
説得されない人もあるでしょうが、それは、その人が、鈍感です。
技あり、正しければいいというものではない。

この歌は、窪田さんの、素が出ているし、地力をも忠実に表現している。紛れなく、窪田さんの、いま、いたはるところやなって。

本人すら、直してはいけない歌です。
直したら、曲がります。

何より、順調のご回復、お慶び申し上げます。ご退院まで、あともう少しですね。
本復が待たれます。

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