一晩にして
大事なビワの実が全部なくなっているのを見たとき、
思わず悲鳴をあげました。
まるで魔法にかかったかのようです。
昨日まで見ていたあのオレンジ色の実がいっぱいなったビワの木が、
実は幻想だったかのような錯覚に見舞われました。
そしてその後すぐに思い出したのです。
実はこれと同じことを過去に二回経験しています。
桃とイチジクがそうでした。
明日は収穫というその晩に
後も残さず全部食べつくしてありました。
この絶妙なタイミングで根こそぎかっさらって行く手法は
あいつに間違いありません。
ハクビシンです。
この間温泉の帰りに家の近くのカーブを曲がるとき、
ヘッドライトに照らされ立っている桜の木の股に
赤く光る目を見つけました。
かなりの大木でちょうど股になっているところに尻尾を垂らし
ちょんと座っているハクビシンは
まるで木の妖精のような可愛らしさでした。
可愛い、と思ったのですよ。
その思いは今や憎たらしい、に変わりました。
その幾晩か前にやはり夜に帰宅したときは
下から上がって行く車の前を
ヘッドライトに照らされてお尻を振りながら逃げるハクビシンを見かけています。
全部同じハクビシンでしょう。
ハクビシンが戻ってきました。
三十年近く前にこちらに引っ越してきた頃は結構多かったので
皆警戒していたような気がします。
トウモロコシを作る人とかね。
でも最近あまり姿を見かけなかったので油断でしていました。
困ったわね。
ハクビシンが住み着くようになったんじゃ。
迂闊に美味しいものが作れません。
対策は頭脳較べ。
手ごわい相手にない知恵を絞らなければなりません。
今更ながらですがとても美味しいビワだったのです。
まだ五、六個食べただけでした。