仕事に追われて星の事もみかんの苗も、ろくに思い出せないまま、気が付くとひと月が過ぎていた。この連休にはなんとしても丘に上がりたい。そう心に決めて天気図を眺め、今日夕方、やっと竹取庵の鍵を開ける。昼間かなり有った雲も、日暮れにはすっかり消え、綺麗な夕日が空を染めていた。
星仲間から急かされていた金星の撮影。一ヶ月も経っている。まだ夕空に有るだろうか。そう思いながら観測デッキのパソコンを開いた。天文シミュレーターでは太陽との高度差わずか15度ながら何とか撮影が出来そうだ。双眼鏡で見つけて8センチ屈折に導入する。山の端からわずか10度余り。モニター上の金星はまるで布で出来ているようにはためいている。いくらなんでもこれが形になるだろうか。そう思いながらも40枚撮影。その中からやっと選び出した7枚を重ね合わせる。
宵の明星はしばらく見ない間に大きく、そして三日月のように形を変えていた。
内惑星と呼ばれる金星と水星は、地球と太陽の間を通るため大きさを変えながら形が大きく変化する。それだけにうまく撮影出来れば面白い。ただ、標高わずか74メートルの竹取庵。出来の良い画像をいくら重ね合わせても陽炎の影響は拭えない。金星の撮影もこれで最後かなと思う。