「イメージすることは誰にでもできる。それを実行するかしないかの間に大きな差がある」というのは、いつも思います。柿沼康二
柿沼:僕自身が書のあり方として重視している「吸って、吐く」ことを基本にしたものでした。
書の世界には、古典を手本に模倣する臨書というのがあって、これはすなわち先達の世界を吸い込む行為。
でも臨書の本当の意義は、最終的には、吸ったものを自らの表現として吐き出すことにあるんです。
『一:Bose ver.』(2011年)
『おまえはだれだ』(2002年)
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本展キュレーター・金沢21世紀美術館館長 秋元雄史
柿沼康二は、1970年生まれ。
現在東京を拠点に活躍する書家です。5歳から筆を持ち、父である柿沼翠流、手島右卿、上松一條に師事しました。
「書はアートたるか、己はアーティストたるか」との命題を立て、既存の書に収まらない新たな書の地平に挑み続けてきました。
柿沼康二の作品の特徴は、書の古典に立脚した今日的な表現にあります。
書の原理を問いつつ今日の美術として書を捉えていこうとしています。
「吸って吐いて、自由な書!」とは、柿沼康二の目指す書の在り方です。
表現スタイルには、いくつか代表的なものがあります。
古人や能筆家との対話の場である臨書。
臨書から形式発展させ、他者の言葉を柿沼流に作品化する「エンカウンター(出会うこと)」。
書の原理である墨を使って絵画的に展開する超大型の作品群。
あるいは、大型の作品での例が多い制作プロセスを観客と共有するパフォーマンス。
ひとつの言葉にこだわり、それを執拗に繰り返す「
トランスワーク」。
書を時間的、空間的に発展させて、巨大なスケールで展開したインスタレーション。
このように、柿沼康二の書は、書、現代アート、サブカルチャーと関連して展開した今日的な表現です。
それは、明日へと向かう希望の書であり、自由で、未来に向かって開かれた、可能性としての書です。
本展では、代表作約700点で柿沼康二の書の世界を紹介します。