蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

食事作法の起源、番外BonSauvageとは

2019年01月17日 | 小説
(1月17日)
北米先住民Arapaho族「月の嫁」神話(M428、同書177頁)に地上に降りた月がArapahoの一村落を遠望するくだりがあります。
<<un vaste campement anime de bruits et d’aboiements. L’air etait embaume, la vue magnifique. Une eau limpide reflectait les arbres et le ciel. Les habitans se depensaient en jeux et en travaux divers.>>
訳;人の声、犬の吠えが遠くからも聞こえる活発な、大きなキャンプ地だった。そよ風は芳しく、心奪われる見目だった。池は透明で木々、空が水面に繁栄されている。人々は遊びに、仕事にいそしんでいた。

この状景をレヴィストロースは後の頁(181)で以下に説明しています。
<<En approchant du village ou il souhaite trouver une epouse, Lune a les yeux et les orailles charmes par la beaute du paysage, les rumeurrs joueuses qui s’elevent, les chants et cris des humains et des animaux. Ce tableau embelli de la vie montre que l’idee du <<bon sauvage>> n’etait pas etrangre aux sauvages!
訳;その村で配偶者を捜すと決めた月は、近づくにつれ、あまりの美しさに目に視野が奪われ、耳もうっとり聞き惚れた。快活な声は湧きたち、人、動物の叫び吠えさえうれしげだった。美しいこの光景こそ<bon sauvage>この(かつての)表現は原住民sauvageにbonが奇妙でない証左である!
 
御大にしては力のこもった数行です。その理由は置いてbon sauvageについて。
<sauvageは野蛮人が正しい訳。Non domestique, sans cultive, farouche, insociable などが属性として説明される(robert micro)。教育をうけていない、文化を持たない、残忍で社会性のない。すべてが人性の否定です。それをbon(良き)で形容している。「あり得ない意味の連結」はoxymore(=oxymoronとも)です。その義を辞書に尋ねるとallier deux mots de sens imcompatible(両立しない2の語を結ぶleGR)とあります。日本語で矛盾形容語法(白水社仏語大辞典)となります。文学表現としては許されるものの、時には物議をかもす。小筆で思い起こすのは「Lune noire brillante」輝く黒い月。たしかこの題名の小説が「奇をてらい過ぎ」と批判された(誰かは今思い出せないが)。

Bon sauvageはレヴィストロースがTristesTropiques悲しき熱帯で用いた。世間は哲学者ともあろう彼がこんな(いい加減な)表現をつかうなんて、大いに批判された。TristesTropiquesのBororo族BonSauvageをめくると(249頁から)、bororoの集落を求めマトグロッソを彷徨するレヴィストロース、目の前の崖、精根尽き果てた希望叶わぬとあきらめかけて
<<mais ce vertige est tout illumine par des perceptions de formes et de couleurs; habitation que leur taille rend majestueuse…
訳;目眩に襲われたが、天啓というか、とある形と色を認めた。住まいである、彼らの技法としてはとても大きな高さ…..
bororo族の村を発見したのだ。彼らはbon sauvageだった。

Arapaho村に月が見とれた。その幾千年の後、レヴィストロースはbororoに良き野生人を発見した。BonSauvageはoxymoreではないと力説したワケです。

写真:もう一つのBonSauvage(ネットから、肖像権などに違反があれば乞うご指摘)

食事作法の起源、番外BonSauvageとは の了
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