(1月31日)
本書前半の基準神話「狩人モンマネキの冒険」(M354)はアマゾン上流に今も居住するTukuna族が伝承する。同名主人公は幾度か婚姻を試みすべてが未成立の果て、「理想の伴侶」探しにカヌー(piroque)で川(Solimaesアマゾンの支流)を下った。
同支流は(今は大都市)マナウスでアマゾンに合流する。舟足急ぐも川旅は下り、流れに舳先を任せれば舵取りオール漕ぎが楽ちん、艫に一人の戻りなしも苦にならぬ。辿った村々、村長部民めらに己の来し方を語り「同盟が大事」と悟らせたりしたから、今も(1930年当時)彼の語りの節々が村の伝承とつながった。それらがモンマネキの派生神話だとして民族学者がメシの種に今も再利用している。
しかし、モンマネキの果敢な冒険ぶりと民族誌学者の成果でこそ、カヌー冒険の旅程も解明できるというものだ。

写真:アマゾンとオレノコの下流域に大陸海洋にまたがる居住域を持つ部族が記録されている。カリブもその一族。
アマゾン下流に居住する有力部族Arawakには、モンマネキ神話の派生とおぼしき(M420a月と太陽の起源)が口伝されている。また、彼の化身とおぼしき叔父(Okoni)と甥の美青年(Waiamari)がカヌーで川下り冒険の途中、とある停泊村でアサワコ嬢に出会った経緯がArawakに隣接するWarrau族に伝わる(M406麗しきAssawako、本書111頁、投稿子はホメロス・オッデッセイのカリプソの段と比較した。2018年11月2日投稿の食事作法の起源4回目に詳細)。ArawakもWarrauも、またそれらの居住に隣接するCaribにしても、南米のみならずカリブ海、アンチーユ諸島をへてフロリダに進出していた。
南端とはいえ北米大陸に足がかりをつかめば、見渡す視界のその先は平原と草原。ミシシッピーの穏やか流れを遡りミズーリに至る舟のりにしても、モンマネキだったら一気呵成に行き着く。カエル結婚を断念した我らの英雄はなんとアンデスを出発してカナダに足を伸ばしていた。
(以上は、尊師レヴィストロースが本書において力説する南米神話北上説の紹介です。なお、途上のアンチーユ列島弧、カリブ海諸島、プレーリ南部(アラバマ、ミシシッピ、テキサスなど)での神話が残されていると聞かない。このミッシングリンクが残された背景には、先住民族の衰退の速さ、民族学者の活躍以前に絶えた、と関係があるのか。投稿子には門外なのでこれ以上は言及できない)
前回前々回(1月25日、28日)投稿に添付した「新大陸文化創造パラダイム」をご参照あれ。右の3は北米神話(M425,426星々の嫁Arapaho族、170~172頁)の主題である周期性の確立をsyntagmeに取り上げている。星々(astres)とは太陽と月を特定していて、太陽はカエルを嫁に選び、月は人(Arapaho族)の娘を選んだ。周期性とのつながる下りは表の赤線にあります。
太陽と月は兄弟、狩人。それぞれが不定の地で不規則に狩りにでていた、すなわち地上にも周期性が無かった。二人が生家で出会う機もが少ないながら、ある頃、獲物を持ち帰る日が重なった。二人は「そろそろ身を固めよう」と決めて父母に申し出た。これが文中の嫁を迎え規則性を…の下線。月が選んだ人の娘は、雌カエルとの食べ方比べに勝ち、天上家屋の正妻の座を得る。そこで家事、月経、出産など、女の規則、すなわち月に支配される周期性を獲得した。その段がArapaho娘の下線。
地上にこれらの周期性を移転する契機とは太陽の横恋慕、近親姦を嫌ったArapaho妻は逃避を試み、その途中で墜落死する。
一方、太陽はカエル妻には目もくれないうえ、妻選びに失敗した原因が「しかめ面」にあると逆恨みして、周期性(年の)を人に与えるものの過酷さ、乾燥と不作、飢饉と天変地異で仕返しを繰り返す(下端の赤線)
Bororo族の英雄Baitogogoは火と狩猟をジャガーから伝授された。村に戻って近親姦はびこる母系社会を洪水で滅ぼした。その承継者なるモンマネキは、周りには人が消えてしまった世なので、カエルなどと苦心惨憺するも同盟を結成できず、アマゾンを下り北米に到着した。狩人の腕は確かなモンマネキは月に変身してArapaho娘一人の別嬪を理想の妻と見とれ、ヤマアラシに変身して木上に誘う(Bororo神話でBaitogogoが木の上に放逐された経緯の意匠返し)。両の新大陸をつなぐ文明創造、ヒーローの名こそ変われ、死と転生の繰り返しに中、文明の新大陸規範を形成したのだ。それ故我ら(先住民)はカエル混血でもないし、この世がカエル王国でもないのだ。
パラダイム表でのsyntagmeとは「共時性の因果」と申しました(1月25日投稿)。ギリシャ神話は「火」(プロメテウス)が文明の濫觴とし、旧約聖書では「アダムの知恵」こそ源としています。近世でのそれは「デカルトのCogito」であるかもしれません。いずれも単成のsyntagmeであると言える。一方、南米北米の先住民、アメランディアンは文化創造の提題にたいし「分断」「同盟」「周期」を共時因果と答える。
レヴィストロース「食事作法の起源」を読む(続き) 9の了
(次回2月3日予定)
本書前半の基準神話「狩人モンマネキの冒険」(M354)はアマゾン上流に今も居住するTukuna族が伝承する。同名主人公は幾度か婚姻を試みすべてが未成立の果て、「理想の伴侶」探しにカヌー(piroque)で川(Solimaesアマゾンの支流)を下った。
同支流は(今は大都市)マナウスでアマゾンに合流する。舟足急ぐも川旅は下り、流れに舳先を任せれば舵取りオール漕ぎが楽ちん、艫に一人の戻りなしも苦にならぬ。辿った村々、村長部民めらに己の来し方を語り「同盟が大事」と悟らせたりしたから、今も(1930年当時)彼の語りの節々が村の伝承とつながった。それらがモンマネキの派生神話だとして民族学者がメシの種に今も再利用している。
しかし、モンマネキの果敢な冒険ぶりと民族誌学者の成果でこそ、カヌー冒険の旅程も解明できるというものだ。

写真:アマゾンとオレノコの下流域に大陸海洋にまたがる居住域を持つ部族が記録されている。カリブもその一族。
アマゾン下流に居住する有力部族Arawakには、モンマネキ神話の派生とおぼしき(M420a月と太陽の起源)が口伝されている。また、彼の化身とおぼしき叔父(Okoni)と甥の美青年(Waiamari)がカヌーで川下り冒険の途中、とある停泊村でアサワコ嬢に出会った経緯がArawakに隣接するWarrau族に伝わる(M406麗しきAssawako、本書111頁、投稿子はホメロス・オッデッセイのカリプソの段と比較した。2018年11月2日投稿の食事作法の起源4回目に詳細)。ArawakもWarrauも、またそれらの居住に隣接するCaribにしても、南米のみならずカリブ海、アンチーユ諸島をへてフロリダに進出していた。
南端とはいえ北米大陸に足がかりをつかめば、見渡す視界のその先は平原と草原。ミシシッピーの穏やか流れを遡りミズーリに至る舟のりにしても、モンマネキだったら一気呵成に行き着く。カエル結婚を断念した我らの英雄はなんとアンデスを出発してカナダに足を伸ばしていた。
(以上は、尊師レヴィストロースが本書において力説する南米神話北上説の紹介です。なお、途上のアンチーユ列島弧、カリブ海諸島、プレーリ南部(アラバマ、ミシシッピ、テキサスなど)での神話が残されていると聞かない。このミッシングリンクが残された背景には、先住民族の衰退の速さ、民族学者の活躍以前に絶えた、と関係があるのか。投稿子には門外なのでこれ以上は言及できない)
前回前々回(1月25日、28日)投稿に添付した「新大陸文化創造パラダイム」をご参照あれ。右の3は北米神話(M425,426星々の嫁Arapaho族、170~172頁)の主題である周期性の確立をsyntagmeに取り上げている。星々(astres)とは太陽と月を特定していて、太陽はカエルを嫁に選び、月は人(Arapaho族)の娘を選んだ。周期性とのつながる下りは表の赤線にあります。
太陽と月は兄弟、狩人。それぞれが不定の地で不規則に狩りにでていた、すなわち地上にも周期性が無かった。二人が生家で出会う機もが少ないながら、ある頃、獲物を持ち帰る日が重なった。二人は「そろそろ身を固めよう」と決めて父母に申し出た。これが文中の嫁を迎え規則性を…の下線。月が選んだ人の娘は、雌カエルとの食べ方比べに勝ち、天上家屋の正妻の座を得る。そこで家事、月経、出産など、女の規則、すなわち月に支配される周期性を獲得した。その段がArapaho娘の下線。
地上にこれらの周期性を移転する契機とは太陽の横恋慕、近親姦を嫌ったArapaho妻は逃避を試み、その途中で墜落死する。
一方、太陽はカエル妻には目もくれないうえ、妻選びに失敗した原因が「しかめ面」にあると逆恨みして、周期性(年の)を人に与えるものの過酷さ、乾燥と不作、飢饉と天変地異で仕返しを繰り返す(下端の赤線)
Bororo族の英雄Baitogogoは火と狩猟をジャガーから伝授された。村に戻って近親姦はびこる母系社会を洪水で滅ぼした。その承継者なるモンマネキは、周りには人が消えてしまった世なので、カエルなどと苦心惨憺するも同盟を結成できず、アマゾンを下り北米に到着した。狩人の腕は確かなモンマネキは月に変身してArapaho娘一人の別嬪を理想の妻と見とれ、ヤマアラシに変身して木上に誘う(Bororo神話でBaitogogoが木の上に放逐された経緯の意匠返し)。両の新大陸をつなぐ文明創造、ヒーローの名こそ変われ、死と転生の繰り返しに中、文明の新大陸規範を形成したのだ。それ故我ら(先住民)はカエル混血でもないし、この世がカエル王国でもないのだ。
パラダイム表でのsyntagmeとは「共時性の因果」と申しました(1月25日投稿)。ギリシャ神話は「火」(プロメテウス)が文明の濫觴とし、旧約聖書では「アダムの知恵」こそ源としています。近世でのそれは「デカルトのCogito」であるかもしれません。いずれも単成のsyntagmeであると言える。一方、南米北米の先住民、アメランディアンは文化創造の提題にたいし「分断」「同盟」「周期」を共時因果と答える。
レヴィストロース「食事作法の起源」を読む(続き) 9の了
(次回2月3日予定)