蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

関西弁は神の声、奇跡の換喩 読み切り

2023年10月16日 | 小説
(2023年10月16日)部族民はかつての住まいの関係で柏市(千葉県)に知古が多い。本稿に登場する方をY氏としよう、非認可団体「柏市関西弁普及協会」の代表を務める奇特な奉仕家からメールを頂いた。その趣旨を以下に ;

ネットでは書き込み、レスポンス(ネット用語でカキコ、レス)は関西弁が標準化している。理由を探るに複雑な思考、言い回しを一語一語に凝縮できる壮大さにあると確信する。余分な言い回しを避けるナニワ的文法構造に根源が潜むのだ。
これに対局する無意味な言葉の用例として、東京山の手ハイソのざぁます挨拶を挙げる。こねくり回しの並ばせの空疎な語法が特徴です。
「奥様なんてお素敵なドレスなんざぁますかぁ」「タカシマヤの限定下見会にお呼ばれされましたのよ、お行きましたら気に入って、ふとお衝動買いしてしまったんざぁます」「妾=ワラワ=もあやかりたいわぁ、でイカほどだったんざぁます」…白金台とか南青山を歩く時は耳栓したほうが身のためです。いたるところでこんな、どうにでもなれ!会話が耳に飛び込んできます。

白金台マダムのタワマン会話を関西弁で言い換えると―
「マイド、変った服着とる」「ユニクロや」「なんぼしたん」で済んでしまう。

大阪市南部、堺、岸和田などディープ関西弁辺境地に今も、協会派遣で出張するY氏が観察するに、関西弁の単純化への進化は今もとどまりのスキを見せていない。よりラジカルにさらに凝縮、へと邁進している(ラジカル関西弁と伝わる)。

「この流れとはや、関西弁地域の文明進化に繋がるのや。よって短縮化 « Abréviation » と規定するのはそぐいませんでぇ~、« Métonyme » 換喩の神域を侵す勢いでっせ」
ベェベェ語圏に生息する北関東土人だが、頻繁に関西弁に移るのは耳障りだ。しかしY氏は普及協会の代表、これも職務であろう。
« Métonyme » 換喩は修辞をこねくり回す文章ではかなりの頻度で出くわす。複雑思想を形状が見えるモノに喩える「言い換え」。我らが尊師レヴィストロースはその用法に手練れの高みに達していた(訳ワカメの文に出くわす文章難解の真実がその換喩にある)。

「実は岸和田駅前のスタバでこんな言い方を聞いた」
隣席に陣取る御仁は中年の3人組、競輪新聞を片手に赤鉛筆で下線を引くなどメイメイが、勝手な所作に耽っていた。左の男が思い出したかの様で、
「藤井聡太ってすごい棋士ヤンケ、8冠や。賞金も総取りや」に続けた決め言葉「ドヤ!」がスタバに響いた。
中央のメガネ氏が「セヤ」、最後に右のボサ頭は「ホンマヤ!」でもとの競輪新聞に戻った。
8冠の偉業、天才の艱難辛苦の21年間が「ドヤ、セヤ、ホンマヤ」に凝縮された。

その後Y氏は大阪に戻って梅田南のコメタ喫茶店に腰掛けていると、隣席にドシドシと座り込んだ3人の若者。座ってすぐにスマホを開けてYoutubeを再生する、3人共に「青歯」イヤホンを耳にして、画面に見入っている。しばらく見入って聞き入って、一人が画面から離れイヤホンを抜いた。残る2人も外した。聞くわけでもなく、流れくるままに彼らの会話耳にすると、演奏を評しているようだ。3人共に楽器ケースを膝に置いていた。大きさからバイオリン。バイオリン演奏をYoutubeで共にして感想を確かめあっていたようだ。こんな風だった、
「最年少でカーティス音楽院に入ったノヤ」
「生徒としてでっか」
「決まっとるやろ」
「ワイは最年少の教授で入ったんやと勘違いしとた」
「ワーッハッハ」
一人がYoutube一場面を再生した。「このカデンツアのとこや、よう聞くんや」で3人の目と耳が釘付けになって、そして顎をコックリ一緒に頷いた。誰からともなく、

「ドヤ」
「セヤ」
「ホンマや」


妃鞠嬢の演奏会風景(スクショを部分に加工、肖像権には抵触しないかと)
2021年11月、コバケン日フィル、妃鞠嬢のチャイコン風景。終わって満足表情でコバケンを見上げる妃鞠、にっこりコバケン。ブラバー歓声の観客。これをして
「ドヤ、セヤ、ホンマヤ」としているのではありません。


ヨーロッパの音楽コンクールを総なめにして演奏旅行では「モーツアルトの再来」と絶賛された吉村妃鞠嬢をかく評していた。数百年に一度、モーツアルトの次に人類が出会った天才は「ドヤ、セヤ、ホンマヤ」ラジカルに換喩された。

ホテルに帰ってテレビニュースに接すると「イスラエルのガザ侵攻」決定を伝えていた。
ナタニエフ首相「テロリストは許さない…」
バイデン大統領「…一定の理解」
ハマスの誰か「アブドラナジッムカバッヤカム、バッタラクッタラ、アクバルアッラーッ」

建国から70年余。3000年前からその地に住んでいたイスラエルの民が、2000年前から住んでいるアラブ人を「無断占拠」として追い出した。正義はユダヤかアラブか、どちらにあるかの判定はY氏に不能。約束の地を追放されたユダヤの悲劇も、パレスチナを追い出されガザに押し込められたアラブの民の苦しみも、ラジカル関西弁なら簡単に翻訳できるとふと思いついた。

ナタニエフ「ドヤ!」
バイデン「セヤ」
ハマス「ホンマヤ」
 
森羅万象を3語で表すラジカルナニワ弁。

Y氏メールの部族民(渡来部)による翻案 了 
コメント
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