蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

Mythologique神話学「裸の男Homme Nu」神話学4巻を読む 2

2023年10月06日 | 小説

(2023年10月6日)「M529 Klamath-Modoc族 naissance du héros英雄の誕生」(本書25頁)
Une jeune femme 若い女Letkakawashは子を背に負い、燃えさかる薪火の前に立った。因縁浅からぬ一人の魔女の死骸を焼かむと熾した業火であった。真っ赤な炎の噴き上がりにたじろがず、背に負うこの子を道連れてと、


北米先住民は子をオンブする。写真はあるYoutube動画のスクリーンショット


見入る火炎に飛び込めば、果てる命の宿命は地獄火であった。Letkakawashの動きを怪しみ空から見張っていた俗神Kmukamchが、飛び込まんとすんでのところ後ろから、二人を跳ねとばした。母の勢いはそぐに能わず、彼女だけが炎に真っ逆さま、焼け死んだ。助けられたのは背の子のみ(北米インディアンは東アジア諸民族と同じく子を「オンブ」する)。しかしKmukamchの跳ね飛ばす手の勢いが強すぎて、子の手足も胴もばらけ四散してしまった。子を生きかえらせむと身体破片をKmukamchはつなぎ合わせる。
« Embarrassé du petit être, il l’introduisit dans son genou, rentra chez lui et se plaignit à sa fille d’avoir contracté un ulcère qui le faisait beaucoup souffrir. La fille essaya d’extraire le plus. À sa grande surprise, un enfant sortit de la plaie »
この子を如何にせん、俗神は己の膝に埋め込んだ。自宅に戻って娘に潰瘍が腫れて痛くてたまらないと訴え、娘が膨れあがりを切り除くと切り口からなんと子が跳び出てきた。子は泣きやまない。「父親」は名を与えれば泣き止むか、いろいろ名を呼び上げるも一向に止まない。 « Aishilamnash » その意味「体の中に隠された者」が発せられたら泣きを弱め、愛称にAishish(以下イシス)と呼んでやっと泣きを止めた。「父」のもとで育ち立派な若者にイシスは成長した。賭け事に天分を持ち誰にも負けない手練れ者ぶりを発揮し、富たるは人もうらやむ豪華装束を着するに至った。賭では父にも手加減せず、それが元で諍いに発展する。
イシスの母Letkakawashが自殺を選んだ経緯には説明がない、後に「奇跡的に」老語り部から前半部が採取となり壮大なイシスの冒険が構築できた(この前半は後述)。
M530a Klamath族 鳥の巣あらしle dénicheur d’oiseux(26頁)
養父(俗神)Kmukamchとイシスは動物を創造した、特に魚類にはそれらの創造のみならず、漁労を上手く運ぶための簗場を作るなど漁労技術を確立した。
イシスは複数の妻を持つ。妻の一人に義父が懸想した。イシスを放逐しようと画策した。 « Il prétendit que des oiseaux nicheraient sur une plante étaient des aigles, et il ordonna à son fils d’aller les capturer après s’être défait de sa tunique, de sa ceinture et de son bandeau frontal. Le héros mis à nu grimpa et ne trouva que des oisillons d’espèce vulgaire »
Kmukamchは鷲が巣を作ったと主張し、イシスによじ登って木の頂点の巣から雛を捕らえよと命じた。登るさいには上衣(tunique)、ベルトそして額飾りを脱げとも(身軽にならねば、巨木には登れぬとの示唆)。イシスが樹上に見たのはありふれた鳥の巣と価値のない雛だけだった。それら雛を放り投げるやいなや、木がどんどんと生長しイシスはもはや木から下りられないほどの高さになった。
« Kmukamch s’appropria le costume de son fils et prit son apparence physique. Seule la belle-fille qu’il convoitait fut dupe de la supercherie ; les autres le rebutèrent, convaincues qu’il n’était pas leur mari »
根元に脱ぎ捨てられていた イシスの服を着こしめし、顔つき体つきを真似してイシスになりすましたKmukamchが何食わぬ顔でイシスの妻達に迫った。ただ一人、彼が首っ丈の「可愛い娘」は騙されたが、他の妻らは化け姿を訝しみ夫イシスではないと決めつけた。
樹上で独り、骨と皮だけになったイシスは二匹の蝶に救われ快復し、村に戻る。息子が彼に気づいて、第一妻、二妻、三妻と続いた。Kmukamchが一瞬も手放す事のないパイプを息子に取り上げさせ、火に投じた。こうしてKmukamchを殺害し、家族は元に戻った。Kmukamchはイシスらに復讐せむと燃えさかるヤニを降らせた。地上は熱で溶けるヤニで被われた、イシスらは小屋に籠もって熱気に耐えた。
近親相姦の重なり
Klamath族のイシス神話M529、M530aはCurtis(Edward 1869~1953年、Klamath民族誌写真家) 、Stern(Theodore 著作KlamathTribe)、Gestchet(ネット検索できず)らの貴重な採取であるものの、母親自殺の前後が不明であった。« La geste de Aishish , dont Gestchet, Curtis et Stern n’ont recueilli que des fragments, était apparue vers 1955, miraculeusement préservée dans la mémoire d’une informatrice »(41頁)とある老齢の女語り部の口述から、Letkawash(英雄Aishishイシスの母親)の焼身自殺にいたる道筋が明らかとなった。かつアビ(水鳥)とイシス両の神話を統合する長大な物語としてのまとまりが1955年に明らかとなる。
M538 Klamath族、geste de Aishishイシスの冒険 (42~45頁)
(イシスの前半のみの引用) 末弟の美少年ぶりは近隣に響き渡り、母は滅多なことで外には出さず、家の中でも地下の穴蔵に住まわせていた。さほど遠くはない村に嫁いだ姉は幾人かの子を持つ母。しかし何かにつけては実家に戻る。姉の狙いは弟であった。
実家にたち寄り嫁ぎ先にすぐに戻る。弟が旅の供となることになった。太陽は中空にかかる、今出立して夕べ前には戻る旅程、なればと母は同行を許した。道すがら何故か日がとても早く暮れてしまった、この季節ではもっと遅いはずであるのに(別バージョンでは太陽に早く沈めと姉が脅した)。野の窪みに二人は宿る。寝入った弟の脇に姉が滑り込む。 « La femme vint se glisser près de son frère endormi. Il s’éveilla et fut choqué de la trouver contre lui « Quelle folie ! Vouloir devenir l’épouse de son propre frère !»
女は身をすべらし弟は目覚めた。姉を己の上に見て、ただならぬ衝撃を受けた。なんと愚かな行い、血を分けた汝の弟の妻になろうとはとなじる。姉は寝入り、太い幹を身代わりに置き弟は逃げ出した。村に戻るやつぶさに出来事を語る息子、その一部始終を聞く母は大惨事を予兆しおののく。姉の目覚めは昼下がりとなった(早く隠れろと命じた分、翌日にも太陽周期は速まっていた。太陽周期律を乱した罪のしっぺ返し)。
Mythologique神話学「裸の男Homme Nu」神話学4巻を読む 2 了(10月6日)
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