(2023年10月11日)M538(イシスの冒険、第4巻での基準神話)の罪とは;
母親が末弟を床下に閉じこめる背景はあまりにも「美少年」であるから。長姉が婚家と夫をないがしろにして、足繁く実家に戻る狙いが末弟。その二人が旅程の途中で野営する不都合におちた。この晩に起きた姉弟の出来事には2の解釈が立つ。1は同衾のみ 2交合に進み近親姦が発生した。
文の流れでは不明確、レヴィストロースは断定していない。一次資料に言及がなかったからであろう。
褥での二人の位置関係。少年が目覚めると姉はcontre lui=彼に対抗=していた。寝ている者との対抗ならば馬乗り、se glisserと前文に記されるので姉が脇に滑り込んだかと思いきや、それならà côté de lui彼の脇に、この表現が妥当。少年は目覚めたがこの目覚めをse réveillerではなくs’éveillerとしている。後者は春の目覚め、性の目覚めなどに使われる。突発、最初の事象であるとの意が強い。
姉は身代わりに置いた木の幹を弟と騙されて、抱き込みながらすっかり寝込んでしまう。姦淫に至らなければ「まんじりともせず」眠るのであろうから、男の生身と枯れ幹との区別など判別できる。さらには太陽を脅し日夜の周期律の錯乱まで起こしたあげく、なにも起こらなかったでは後の筋道の解釈が難しくなる。これらの状況証拠からしても姦淫は「あった」とする描写が濃厚である。レヴィストロースは奥ゆかしく原文の関係図に(=)括弧付きの関係を載せる。
怒りの姉の火付けで集落が壊滅した。弟一家でも嫁が皆死に、母が焼け焦げた嫁の腹を割って子(男と女の双生児)を取りだした。その子達が夫婦となって暮らす。第2の近親姦の発生。文面通りです。この神話では近親姦の禁忌破りが村落破滅を導きます。M1とはinverse、逆立です。
2)罪と罰
イシス神話においての近親姦の罪と罰を以下に解釈します。
(原典には叙述されていないが)相姦を犯した姉弟の母にすでに禁忌破りがあった。理由は彼らの母(イシスには曾祖母)のただならぬ警戒心。長姉が実家に帰る頻度から、末弟への邪心を見抜いた。婚家に戻るお供に姉は末弟を指名した、危ういと警戒するも許した。
腹から取りだした双生児を一体化して、男子に影を見てはならないと戒めた理由は、分身したら近親姦が発生すると知るから。戒めを破って二人は分身し、祖母は毎日泣きくらす。兄妹は愛し合い、子(英雄イシス)をもうける。母(双生児からは祖母)は己が犯した禁忌破りの咎に怖れるから、子の代孫の代に伝わる悪弊を泣いていたのだ。詰まりはイシス養父と嫁の姦淫。起点は禁忌破りの罪、それを罰(殺戮)で乗り越えても新たな罪の発生。罪と罰を繰り返し文化創造の英雄イシスが誕生する。
娘は水鳥アビに化け、闇に隠れ夜な夜な奇怪な啼声をたて近隣住民を怖れさせる。この奇怪さも禁忌破りの罰。首を狩り取られる。兄に「私はあなたの誰」を問いつめた妹、彼女は太陽に矢を射かけ知る必要のない真実を言わしめた、これらも罪となります。
罪と罰をまとめよう。南米M1では罪は主人公バイトゴゴの上下婚、罰は彼が父を殺害する、村落が洪水壊滅されるーの2回。北米イシス神話ではイシスの曾祖母が近親姦破り(神話本文では語られない、状況証拠でそれがあったと判断)、その娘が弟との水平婚、イシスの父母は兄妹の夫婦、ここでも水平婚が発生。そしてイシス義父がイシス嫁と姦淫する。4度の禁忌破りが発生した。
罰を数えると曾祖母は孫娘に殺される、その姉は村落を焼き尽くしアビ(水鳥)に変身するも殺される、兄妹夫婦の妹は自殺、兄は熊に食われる、その息子イシスは義父に嫁を寝取られる、義父は(パイプを奪われ)殺される、村落は焼失する。8度の罰が族民を覆う。
レヴィストロースは神話伝播の過程で筋道が「複雑化」すると主張する。まさに天地創造神話の比較は神話北上論を強力に裏打ちする査証と受け止める。
近親姦の南北比較図
左はM1ボロロ族、右は北米Klamaths族(イシスの冒険)姉弟露営中の関係に(=)カッコをつけている。北米神話では近親姦の発生は多くかつ複雑になる。
Mythologique神話学「裸の男Homme Nu」神話学4巻を読む の了(10月11日)
母親が末弟を床下に閉じこめる背景はあまりにも「美少年」であるから。長姉が婚家と夫をないがしろにして、足繁く実家に戻る狙いが末弟。その二人が旅程の途中で野営する不都合におちた。この晩に起きた姉弟の出来事には2の解釈が立つ。1は同衾のみ 2交合に進み近親姦が発生した。
文の流れでは不明確、レヴィストロースは断定していない。一次資料に言及がなかったからであろう。
褥での二人の位置関係。少年が目覚めると姉はcontre lui=彼に対抗=していた。寝ている者との対抗ならば馬乗り、se glisserと前文に記されるので姉が脇に滑り込んだかと思いきや、それならà côté de lui彼の脇に、この表現が妥当。少年は目覚めたがこの目覚めをse réveillerではなくs’éveillerとしている。後者は春の目覚め、性の目覚めなどに使われる。突発、最初の事象であるとの意が強い。
姉は身代わりに置いた木の幹を弟と騙されて、抱き込みながらすっかり寝込んでしまう。姦淫に至らなければ「まんじりともせず」眠るのであろうから、男の生身と枯れ幹との区別など判別できる。さらには太陽を脅し日夜の周期律の錯乱まで起こしたあげく、なにも起こらなかったでは後の筋道の解釈が難しくなる。これらの状況証拠からしても姦淫は「あった」とする描写が濃厚である。レヴィストロースは奥ゆかしく原文の関係図に(=)括弧付きの関係を載せる。
怒りの姉の火付けで集落が壊滅した。弟一家でも嫁が皆死に、母が焼け焦げた嫁の腹を割って子(男と女の双生児)を取りだした。その子達が夫婦となって暮らす。第2の近親姦の発生。文面通りです。この神話では近親姦の禁忌破りが村落破滅を導きます。M1とはinverse、逆立です。
2)罪と罰
イシス神話においての近親姦の罪と罰を以下に解釈します。
(原典には叙述されていないが)相姦を犯した姉弟の母にすでに禁忌破りがあった。理由は彼らの母(イシスには曾祖母)のただならぬ警戒心。長姉が実家に帰る頻度から、末弟への邪心を見抜いた。婚家に戻るお供に姉は末弟を指名した、危ういと警戒するも許した。
腹から取りだした双生児を一体化して、男子に影を見てはならないと戒めた理由は、分身したら近親姦が発生すると知るから。戒めを破って二人は分身し、祖母は毎日泣きくらす。兄妹は愛し合い、子(英雄イシス)をもうける。母(双生児からは祖母)は己が犯した禁忌破りの咎に怖れるから、子の代孫の代に伝わる悪弊を泣いていたのだ。詰まりはイシス養父と嫁の姦淫。起点は禁忌破りの罪、それを罰(殺戮)で乗り越えても新たな罪の発生。罪と罰を繰り返し文化創造の英雄イシスが誕生する。
娘は水鳥アビに化け、闇に隠れ夜な夜な奇怪な啼声をたて近隣住民を怖れさせる。この奇怪さも禁忌破りの罰。首を狩り取られる。兄に「私はあなたの誰」を問いつめた妹、彼女は太陽に矢を射かけ知る必要のない真実を言わしめた、これらも罪となります。
罪と罰をまとめよう。南米M1では罪は主人公バイトゴゴの上下婚、罰は彼が父を殺害する、村落が洪水壊滅されるーの2回。北米イシス神話ではイシスの曾祖母が近親姦破り(神話本文では語られない、状況証拠でそれがあったと判断)、その娘が弟との水平婚、イシスの父母は兄妹の夫婦、ここでも水平婚が発生。そしてイシス義父がイシス嫁と姦淫する。4度の禁忌破りが発生した。
罰を数えると曾祖母は孫娘に殺される、その姉は村落を焼き尽くしアビ(水鳥)に変身するも殺される、兄妹夫婦の妹は自殺、兄は熊に食われる、その息子イシスは義父に嫁を寝取られる、義父は(パイプを奪われ)殺される、村落は焼失する。8度の罰が族民を覆う。
レヴィストロースは神話伝播の過程で筋道が「複雑化」すると主張する。まさに天地創造神話の比較は神話北上論を強力に裏打ちする査証と受け止める。
近親姦の南北比較図
左はM1ボロロ族、右は北米Klamaths族(イシスの冒険)姉弟露営中の関係に(=)カッコをつけている。北米神話では近親姦の発生は多くかつ複雑になる。
Mythologique神話学「裸の男Homme Nu」神話学4巻を読む の了(10月11日)