蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

ムルンギン族の親族体系・続き 限定交換一般化交換(その序文)

2021年06月20日 | 小説
(2021年6月20日)表題を始めるにあたり前文として。
クロード・レヴィストロース著作の「親族の基本構造Les structures de la parente 初版1947年改訂版1963年」の紹介を続けます。本年初頭(1月5日)に本題を取り上げ、39回の投稿を重ねた。この主題との寝起きに半年を共に過ごした。いまだ飽きが湧いてこない。6月7日(2021年)には本書「限定交換」部の最終章「ムルンギン族の親族体系」を投了した(全8回、ブログ39回投稿の内訳は本稿末尾に)
それでもなお、改めてのムルンギン族再登場を企てた理由:

同族の女交換は限定交換であると。では、限定交換なる意味から始める。その形態は:
「ウチのサブセクションから娘を出すから、お前の方からも出せ」の形式を取る。交換相手を相互に「限定する」を意味する。族内ではサブセクションa1がb1と対峙、以下a2b2、c1d1、c2d2に対峙が認められ、この組み合わせでのみ嫁を交換している。これをして同族での標準(normal)の婚姻結び方とする(下写真)。
同族はA1~d2までサブセクション8に分かれるが、8が4の階層クラス(セクションに当たる)を形成し通婚し、結果、2通りの族外婚集団(男系と女系)に分割される。レヴィストロースが説くところの「限定交換echange restraint」対峙相手との嫁の交換、これを教科書通りに見せている。
しかしa1とb2の交換も発生する。a1b1は図表で水平なのでこちらはたすき掛けの交換。たすきの角度には限定があって、a対c、b対dの交換は発生しない。前述の4の階層クラス(セクション)間の交換に限られる。これはそれぞれaなりbなりでのサブ記号(1,2)が消えたかの交換となる。これをしてoptionel(選択的)婚姻としている。この語「選択」はa1のb1との水平的通婚をpreferentiel(優先的)、ないしprescrit(前もっての取り決め)とする規則を見比べた用語である。


ムルンギン8のサブセクションの女交換の図、左が標準、右が選択的。本書から。



実は当初、部族民蕃神(ハカミ)は「選択」の意味合いを軽んじていた。というのも;

サブセクシションはhorde(小規模移動集団、本書から)の形態をとる。規模としてバンドbandeの10~20人よりは大きいけれど、生活に「移動」が入るから構成人口100人はありえない。移動生活で100人を抱えるは難しい。30~40人の集団と勝手に割り出した(こうした民族誌的記述が本文に無い)。であれば嫁を貰いたいが差し出す年頃娘が集団内に売り切れてしまった。こんな危機は当然あり得る。a1b1の婚姻を優先、取り決めておいても実行できない。
そこで、
a1は若者に嫁を取りたいが交換財(女)が欠如した、そこで近隣のa2に掛け合って「a2娘をあたかもa1娘として」差し出す絡繰りを仕組む。身分差を解決するため嫁入りの前に「上級の家系に養女に入って、その家系を名乗って嫁に出る」かつて日本での慣習であったから、こうしたやっつけ間に合わせ状況を想定した。a1とb2の婚姻はやっつけ….ならばこちらには重点を置かず、標準の水平交換だけ焦点を絞ればよろしい。過去投稿(1~8回)をその流れでまとめた。
これが部族民の至らなさだった。読み進めるにつけレヴィストロースの論点は:

1 そもそも、ムルンギンは他のアボリジニと同様に、4の階層で「echange generalise一般化交換」の規則で婚姻制度を実行していた。
2 8のサブセクションで限定交換による嫁のやり取りは観察できる(explicite、目に見える)制度であるが、4のセクションを囲い込む一般化交換がその背後に隠れている。こちらはimplicite、見えないけれど(2の語は本書から)基盤構造として規則となっている。
3 これを裏付ける例が「水平に対峙するサブセクションを外す、たすき掛け交換」である。文を進めるなかでoptionelなる語(報告者のWarnerらの用語)をaltere「交替する」制度と替えている。altereの意味合いは2の事象が交互に入れ替わるとなる。option「選択」には人意が含まれるが、その恣意を排除し規則での運用、それをこの仕組に発見したのだ。すると意味するところは「交替、相互」が正しい。レヴィストロースが用語を替えた背景である。

ムルンギン族は一見「複雑な」親族体系をもつ。サブセクションの顕在、父系と母系族外婚集団、用語の多様化など。それらをして他アボリジニ部族との特異を強調した観察者は多い。本書における元報告はWarnerらであるが、彼にしても親族呼称の広がりなどを挙げ、ムルンギンの位置を特別枠に置いた。しかしレヴィストロースは8サブセクションの立ち位置は重要ではないと解析し、4セクション(階層)の効能を明らかにした。
彼の思弁の行程は外観から組織を捉えるのではなく、内部の繋がり、隠された有機性を暴く演繹となる。
この進め方をして「構造主義による解析」と評価しても正しいと思う。


しかしながら構造主義とは何たるか、その理解にして未達は蒙昧、部族民蕃神は、
ムルンギン親族投稿の8回において、一般化交換をすっかり無視してしまった。ここで一言の弁を許せ。
それであっても8回投稿、更には本投稿への接近者の関心あふれる読みかえしは決して無駄でない。ムルンギン体系、まずはこの、族民精緻を結実させた限定交換にあり。そう断定しても誤りではない。限定交換の背後、見えない(implicite)一般化交換の構造を突き止めるにはそこに見える(explicite)構造を存分に観察しないとならない(冷や汗が出る)。

レヴィストロースの主張を説明する;
1 見えている限定交換による婚姻を支配する見えない背後、一般化交換 2 隠れ有機体暴くは構造主義の手口 3 ムルンギンはけっして特異部族ではない。族民理性を働かせ、限定交換をして一般化交換の隠れ蓑とした。
次回から族民における一般化対限定交換の葛藤、レヴィストロースの分析を語ります。


アボリジニの有力部族Aranda.親族体系は女の一般化交換を運用する4の階層を特徴とする。これがアボリジニに共通の体系、「特異」のムルンギンもその系統であると力説するのが本章である。

若干の説明:ムルンギン族はアボリジニと総称されるオーストラリア先住の一族民、大陸北部アーネムランド、カーペンタリア湾を臨む地に居住していた)。本書にて「他部族」とするのはAranda、Carieri族など。Warnerらの元資料の発表は1930年代。
(小筆はWanerなど原典には接近していない。他部族の婚姻制度の知識も本書をとおしてのみ、紹介するには知識不足は否めない)

「親族の基本構造」これまで当ブログ投稿39回の軌跡
1近親婚の禁止(1月5日~2月12日 全10回)
2本朝たはけ(1月25日~2月3日 5回)
3抱き合い心中クロワッサン(2月17日~24日 4回)
4禁止の社会学的説明(3月1日~8日 4回)
5限定交換(4月23日~20日 4回)
6族外婚族内婚(5月12日~20日 4回)
7ムルンギン族の親族体系(5月21日~6月7日 8回)

ムルンギン族体系の続き 一般化交換の前文 了
(2021年6月20日)

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