蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

親族の基本構造ヴェイユの証明 第2部 2

2021年12月03日 | 小説
(2021年12月3日)ヴェイユ、レヴィストロースともに原報告(民族誌)の限定交換から出発して一方は全交換の一般化(ヴェイユ)、他方は限定交換を背後に隠すレヴィストロース型とした(これをハイブリッド融合と言えまいか)。意識の底の理念の辺り、そこで判断が分化して全く別個のモデルに行き着いた。知の巨頭、二の博学のそれぞれ理由とは向かう対象を見つめる眼差しというか、分析解析など思弁を超えた処、それが思索の起点とすると景色の巡りに異界を見たのだろうか。
数学者と人類学者が分かち合う同じ風景なれどその風情に違いを見る。こんな経緯は部族民(蕃神)が勘ぐるしかないけれど、勘ぐれないほど興味が深い。本連続投稿の最終回に数学者と哲学者の違いに取り組みたい。
さて1~4の過程(前回投稿)でMurngin体系を分析した過程の4に入る。レヴィストロースのMurngin思索過程の最終点である。

下写真はAranda族の系統図(214頁)。色付き垂直線と2の斜め線は部族民蕃神の加筆。





垂直線を見るとP,R,P,R,P,RとPとRが繰り返され、下に(D1/A2)と括弧注釈が置かれる。その右側も縦に記号を取れQ,S,Q,S,Q,Sの2、下にはC2/B2の括弧。更に右縦列はR,P,R,Pとなる。括弧はD2A1。
斜め線にも規則性が認められる。P,Q,R,S,P…(青線)、Q,R,S,P,Q…(黄色)。こちらは構成する記号は同じ、列にしても同順である。この系統図を展開図に書き直した図を下に載せる。

(スライドは既投稿(Murngin族の親族体系)の一部、http://tribesman.net/MurunginWmodel1.pdf にて全容が閲覧できる)
婿は隣接の支族に出される。4順回って一周する一般化交換。しかし一つ飛ばしで子が贈られる。青斜め線で実際を見るとP がq婿をとる。その婚姻で生まれる子は隣接のSを飛ばしてRに贈られる。故に養子R子はPqの実子である。Pqの下、親子系統にrRと記号付けされる理由が子の交換にある。子は限定交換となる。系統図の垂直線は子の交換を表し、斜め線は婿の交換である。

留意点は
1 婿の交換は周回、一般化
2 子の交換は周回を見せるが実際は垂直線と水平の交換であり限定。
この仕掛は限定を隠す一般化交換と認められる。この二重性をしてアボリジニの親族体系の骨格とする(アボリジニ民族誌の原典に接していないが本書の情報からかく判断した。蕃神)。

もう一つの写真(本書202頁)はMurngin族の系統図である(色線は部族民の加筆)。



(縦線の左)はD1,A2,の繰り返し、右の縦線はC2B2、更にD2A1とC1B1の都合4通りの組み合わせでの繰り返しが認められる。斜め列を見るとD2,B2,D1,B1,(=以下は見えてないがこの構成での繰り返し。オレンジ線)、青線においてはC1,A1,C2,A2(以下同様)青線の右隣はD2,B2,D1,B1の順、もう一列はC2,A2,C1,A1となる。オレンジ線と青線の組み合わせが繰り返されている。 
これを展開図に広げる。系統図の左垂直線から;



d1がc2から婿を貰う(図の赤③)、子はa2に帰属する(赤④)。a2はb2から婿を貰い、その子はd1に戻る(黒の⑤⑥)。子のやり取りでd1とa2が繰り返される。右縦線ではc2がd2から婿を貰い、その子はb2にもどる。ここではc2,b2の繰り返し。 
ややこしくなったからまとめると;
系統図の縦流れはd1a2、c2b2、d2a1,c1b1の4系統。これを展開図では子のやり取りを示す(弧の破線)。d1a2の他にc2b2、c1b1、d2a1と子の流れの4系統を図に展開して、系統図と流れを同じくする。

では系統図の斜線は何を意味するのか;
青斜線はc1がd1から婿を取る、その子はb1に移ってb1婿はa1に。この流れが継続してd2婿はc2に、b2婿はa2に。これを展開図になぞるとc1がd1からの水平婚を起点としてb1a1、d2c2、b2a2の水平婚(これが下スライド図の左)。



水平交換ならば標準、系統図で最上欄にnormalと置かれる注釈に合致する。

オレンジ斜線を同様に分解すると;

c1婿がd2に、a1婿はb2に、c2からd1、d1からc1、c1からd2に。
これはたすき掛け婚での婿のやり取りを表す(スライド図の右)。Murnginモデルの婿と子の交換周回を1図にまとめると下スライドとなる。婿の交換は一般化、子の交換には限定を形成している。これが前回(12月1日)に引用した;
<derrière le système explicite (double système d’échange restreint à huit classes), ce que nous appelons plus haut le système implicite ( le système d’échange généralisé à quatre classes), qui constitue pour nous la lois du système Murngin(215頁)
訳:覚知出来る(explicite)体系は8の階層=サブセクション=と2重の限定交換、その背後に覚知出来ない(implicite)体系が潜む、それは4の階層(classes)による一般化交換の体系でありMurngin体系の法則を形作っている。

8の階層2重の限定交換、4の階層と一般化交換の図


説明は次回(6日)


親族の基本構造ヴェイユの証明 第2部 2の了(2021年12月3日、次回は6日)
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親族の基本構造ヴェイユの証明 第2部 1

2021年12月01日 | 小説
(2021年12月1日)アンドレ・ヴェイユ(数学者、1906年パリ生~98年アメリカプリンストン没)はレヴィストロース著「親族の基本構造Les structures élémentaires de la parenté、1963年第2版Mouton発行」に向け小論文「代数学による婚姻の解析Sur l’étude algébrique de certains types de lois de mariage, Système Murngin」を寄稿している(257~265頁)。部族民通信はGooGlogにてこの紹介の第一部を連載投稿した(2021年11月~)。本章内容を投稿子ごとき数学無知が論ずるなどは無謀の誹り免れず汗額の至りであるが、その内容たるは平明にして精緻、大数学者の片鱗が窺えるまさに珠玉の小論といえる。
今回、主題を同じにして第2部の投稿を始める理由は、Murngin族体系に関して数学者ヴェイユと哲学者(レヴィストロース)の両者の解釈において、論考の核心で顕著な相違が認められるからである。論の進め方をなぞり両論の差を明らかにしたうえで、単純な構造である部族社会の婚姻制度、その解釈でなぜに意見の分かれがあるか、私見を開陳したい。

アンドレヴェイユ(著作表頁)「志村谷山の予測」がフェルマー最終定理を証明する鍵となることを世界数学界に広めた。一時期ヴェイユの名を入れた予測とされていたが、今は日本人2氏の名だけ。1955年9月に訪日し、奈良の山村に侘住居を極めている岡潔を訪ねている(数学界では本当に岡潔なる個人が存在するのか、ブルバキと同じく集団ではないのかを疑い調査したかったらしい。話がそれた)


レヴィストロースの論建てから始める。
Murngin族の親族構造を解析するに当たりそれまで「複雑かつ特殊」と説明されていた(Webb、Warnerなど民族誌)報告を否定し、アボリジニ(オーストラリア先住民)多くに見られる婚姻制度から逸脱していないとレヴィストロースは解いた。その論拠とはアボリジニ制度の原型である限定交換(échange restreint)と一般化交換の融合の解明に至る軌跡となるわけで、これを「Murngin体系の章」から探る と;

1 8のサブセクション間での婿の交換。これは対として向かい合うサブセクションとで婿をやりとりする、婿を貰い相手に贈り返す(限定交換)。民族誌家から報告されている体系となる。
2 「奇妙な=aberrant, absurde」として報告者が例外扱いした斜め(本投稿ではたすき掛け)婚姻について。これは交換規則に遵じないとされる。しかし奇妙でも例外でもない。optionnel予備でありnormal(標準)水平の婚姻と交互に(alterné)実行されるとレヴィストロースは指摘する。
3 両の交換形体を交互に実践すると「一般化交換」の婚姻、婿と子を交換する制度が形成される。8サブセクションを巡り周回方向を替えてもう1周する16回の交換体系となる。
  
ここに限定交換から離れる均整の取れた親族構造が解明された。しかし一方で;
限定交換を基本とするアボリジニの一般的制度からもかけ離れる。ArandaなどMurnginに隣接部族と孤立して同族だけが新たな仕組みを取り入れているとは考えにくい。「たすき掛け」が制度破りではなく、それを奇妙と決めつける報告者が実態に迫っていないだけ。論をこのように進めレヴィストロースは、

4 限定交換と一般化交換を融合した体系、これがMurngin族「奇妙な婚姻」に隠された構造であるとした。

(「限定交換」「一般化交換」なる聞き慣れない用語が突然でてくる。本ブログに初めて訪問される方にそれら定義を補遺として説明している、本稿末尾)

本章は1から4の順に論を進めている。1,2,3の説明にも多く頁を費やしている。 André Weilがモデルとして取り組んだMurngin体系は3の段階を反映している。これを本ブログでは。「8回交換を2周回する16回交換」の一般化交換を「ヴェイユモデル」として紹介している(2021年11月)。嫁を(アボリジニでは婿の交換となるが、ヴェイユは嫁を交換財に採用している)貰ったら、そのサブセクションに贈り返すのではなく、相手に隣接するサブセクに返す。子のやり取りにしても、贈りの返しは対峙ではなくその隣接サブセク。計16回のやり取りがかく巡る。

レヴィストロースに戻る;
<derrière le système explicite (double système d’échange restreint à huit classes), ce que nous appelons plus haut le système implicite ( le système d’échange généralisé à quatre classes), qui constitue pour nous la lois du système Murngin(215頁)
訳:覚知出来る(explicite)体系は8の階層=サブセクション=と2重の限定交換、その背後に覚知出来ない(implicite)体系が潜む、それは4の階層(classes)による一般化交換の体系でありMurngin体系の法則を形作っている。
(8のサブセクションを4の階層に造り直す仕組みが限定交換、4のクラスが相互に交換する形体が一般化であると理解する)
<Ces particularités s’expliquent si on accepte de voir dans le system Murngin une structure primitivement asymétrique , et ultérieurement reproduite(218頁)
訳:この特殊性は、ムルンギンの親族体系はかつての非対称的仕組みを後に再構築したと理解してこそ明確になる。(かつての非対称を2種の交換原理、限定と一般化、の並立と読む)

補遺:限定交換とは>à côté et au-delà, de l’échange entendu au sens restraint― c’est-à-dire où deux partenaires interviennent exclusivement … (270頁)訳:限定的とされる交換とは2の対峙者が排他的に代わる代わる交換するやり方であるが、これに付随してあるいはそれを越して…(この後文に一般化交換の原理を説明入る)。一言で当たればそれは対峙する同士が「貰ったら贈り返す」である。一般化交換は対峙を越えたより大きな単位での交換の形体であるとしている。交換とは構成単位(員)をすべて平等に巻き込むを旨とするから、一般化は多くで「周回」をとる。婚姻制度では娘を嫁に出せば、いずれめぐり回って息子の嫁が貰える。出さなければ貰えない。
限定交換の身近な例をレヴィストロースは上げる。
>La situation de deux étrangers qui se font face, à moins d’un mètre de distance, des deux côtés d’une table de restaurant à bon marché大衆食堂で相席となった見知らぬ二人。テーブルを挟んで対面する距離は1メートルもない<
フランスでは(多くのヨーロッパで)人と成り(職業、社会地位など)を知らない他人には無視を礼儀とする。はじめは言葉もかわさないが、さらなる30分1時間を気まずい無言で食べるも肩が疲れる(レヴィストロースはそうした食べ方をà la suisseスイス人のやり方とあえて注釈する)。こんな状況で一人が、飲み干した相手のグラスに己のボトルの取って置きを注ぐ。すると会話の緒が掴める。相手はsorbet(シャーベット)位をお返しにする(69頁)。
2の極で贈った側に贈り返す、これが限定交換。こんな場でも交換の原理、不等価不均衡のやり取り(全く同じものを即座に返すは無礼)を如実に実行する。

ヴェイユの証明第一部で用いた図式(パワーポイントで作成)のPDF版を部族民通信ホームサイトに掲載している。http://tribesman.net/MurunginWmodel1.pdfを検索窓にコピペしてクリック。(昨日11月30日にも案内した。ちらほらながら訪問者は数えられる)

親族の基本構造ヴェイユの証明 第2部 1の了(2021年12月1日)

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