鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

山椒図三所物 古金工

2010-02-02 | その他
山椒図三所物 古金工



山椒図三所物 無銘古金工

 時代の上がる諸金工の分類は、未だ深く為されていない。深彫の特徴のある美濃様式や太刀金具師などは別として、その他については特徴も何も分類の対象とせず、大きく古金工として捉えているのが現状である。作者はもちろん金工群についてすら記録がないということが理由で、美濃彫については、江戸時代中頃に「美濃住○○」などと銘された作品が存在することから、その流れを遡る金工を「古美濃」と呼び慣わしているに過ぎない。即ち、「古美濃」の「美濃」は江戸時代中期の「美濃住○○」と同じ美濃国という意味ではない。もちろん桃山時代以前の美濃の国に栄えていた金工という意味でもない。それが故に時代の上がる系統の不明な諸金工の作品は、興味深く面白いのである。
 そのような中で、数少ない伝承とも言いうる記録の残されている金工の作品が、この山椒図三所物である。作者は、この趣の山椒図を得意として幾つかの作品を残していることから「山椒太夫(さんしょだゆう)」とも呼ばれた与右衛門(よえもん)。記されているのは、武家金工の名流として知らぬ者のない後藤家の記録『後藤家彫亀鑑』で、活躍の時期は室町時代後期から桃山時代初期と推測され、山城国京都。これも伝説的な面が強く、正確な記録とは言い難い。とはいえ、このような記録が残り、伝承されるほどに特徴を強く示した金工が存在したことは想像の存在という以上に確実に近い存在と言え、古金工の分類研究の大きな指標となることは間違いない。
 赤銅魚子地を美濃彫風に肉高く彫り出し、山椒の実を実体的高彫にし、光沢のある種は赤銅を球状に磨きだし、種を包んでいる皮は素銅で、その割れた様子まで正確に彫り描いている。金銀素銅の色絵を施した葉や枝は、唐草状に構成して古典の風合いを強く残している。魅力はその風合い。独特の樹質や種、皮の質感描写に他ならず、江戸時代の作品群の基礎が、すでにこの頃にあったとは驚きである。これまでのような時代の上がる作品は稚拙であるという意識は捨てるべきである。本作が三所物で伝えられたことも大きな魅力である。時代の上がる三所物は少なく貴重である。
 作品の表面が微細な点の連続で、しかも揃っているためにモアレが生じ、モニタによっては見難い場合があります、ご容赦下さい。