鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

秋草に虫図鐔 美濃

2010-02-11 | 
秋草に虫図鐔 美濃

 
① 秋草に虫図鐔 無銘美濃

 
② 秋草に虫図鐔 無銘美濃

 江戸時代中頃の美濃彫の様式になる、秋草に虫図鐔Photo①を紹介する。赤銅地を木瓜形に造り込み、切羽台に比して耳際を厚く仕立て地を深く彫り下げて魚子地に仕上げ、耳を地面と見立てたものであろうか鐔の中央へ伸びているように秋草を高肉に彫り描き、虫は正体、所々に金の露象嵌を散し、花には素銅の色絵を加えている。草むらを覗き込んでいるようなこの図は、江戸時代に間々みられる構成の一例である。古美濃極めの笄と比較して、彫際に肉が付いて枝や薄の葉先の線が少し幅広く感じられる。高彫の際を削ぐように仕立てた古美濃と異なる点である。もちろん高彫の高さ(彫り下げの深さ)も異なる。このような耳の周囲を地面に想定した構成は、単純に下から上へと構成する、時代の上がる作とは異なり、風景の文様化という美意識をより強くしたもの。即ち琳派の美観に影響を受けていると思われる。
 Photo②も江戸時代中期から後期にかけての鐔で、色金を多用して華やかな画面を演出した作。秋草の意匠に洗練味があり、虫の表現にも高度な手技、技術の進化が覗えよう。秋草の中で気になるのが朝顔。時代の上がる作品には少ない植物で、江戸時代に流行した新種の朝顔栽培の影響を受けてのものであろうか。高彫は古美濃のそれに比して穏やかであり、極端な描写をせずとも自然味ある景観の表現が可能となってきたことを意味するものでもあろう。濃密な構成は美濃の伝統を受け継いでいるが、この時代になると、果たして美濃彫と呼んで良いものであろうか。多くの金工が美濃様式を下地に新たな表現を試みているわけで、確かに美濃住○○と銘された作品の風合いを受け継ぐも、明らかに変化がみられるのである。