鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

秋草図鐔 吉岡因幡介

2010-02-16 | 
秋草図鐔 吉岡因幡介

 
秋草図鐔 無銘吉岡因幡介


秋草に虫図鐔 無銘美濃

 幕府の御用を勤めた金工は、後藤家の他にもある。赤銅魚子地に家紋などを高彫金色絵で表わす手法を専らとした金工が、吉岡因幡介(よしおかいなばのすけ)家の各代である。活躍期は江戸時代を通し、末は明治期に至っている。多くは無銘、あるいは吉岡因幡介と切るのみで個銘は入れない。
 吉岡因幡介には、Photo①のような秋草図を題に得た作品が間々みられる。家紋散し図にしても、赤銅地の黒と金の組み合わせながら華やかに過ぎる装飾はせず、どちらかというと、しっとりと落ち着いた感があるのは家康好み。この鐔では耳(鐔の外周部)の際に秋草を配しており、表からの鑑賞では空間を大きく残して引き締まった感もある。それに比して耳には秋草の高彫と濃密な金色絵を施しており、このような装飾性は、鐔を拵に掛けた際の美観を考慮したもの。
 この趣で思い浮ぶのは、京都の高台寺に残されている、秀吉の正室北政所が用いた厨子や調度類に施された高台寺蒔絵と呼ばれる秋草図蒔絵であろう。木瓜形に造り込んだ赤銅魚子地を平滑に仕上げ、秋草の典型ともいうべき菊、薄の葉、萩を組み合わせて文様に仕上げ、葉に朝露を散らしている。古美濃や江戸初期の美濃に比して肉の低い高彫ながら立体感に溢れ、まさに控えめで繊細な趣が充満している作。この美点は、彫刻の写実性や正確さというより優れた構成にあると断じて良い。
 別の視点からだが、耳の美観を追求する手法の一つとして覆輪がある。古い時代の覆輪はわずかに可動式とされているところに特徴があるも、時代が下ると、色絵を施すなどPhoto①の例のように装飾性のみの理由となる。Photo②も同様に金色絵の覆輪を設けた美濃極めの鐔。赤銅地を古作の再現を意識して深彫にし、図柄部分には色絵を施さず、耳と櫃穴のみに金を配している。しかも色絵に魚子を施して印象を高めている。耳、あるいは耳際の装飾については後に作例を紹介して説明する。