バチカン:カネと権力めぐるスキャンダルで激震
毎日新聞 2012年06月03日 11時42分
【ジュネーブ伊藤智永】ローマ法王庁(バチカン)がカネと権力を巡るスキャンダルで激震している。5月24日、法王庁の財産管理組織「宗教事業協会」(バチカン銀行)のゴティテデスキ総裁が「不適切な業務の遂行」を理由に突然解任された。翌25日には法王 ベネディクト16世の執事の一人が、法王宛ての私信や大量の機密文書を、バチカン内の自宅宿舎に隠し持っていた容疑で逮捕された。イタリアのメディアは 「バチリークス」(バチカン機密漏えい)事件と呼んで大騒ぎだ。
発端は1月。法王庁のナンバー2だったカルロ・マリア・ビガーノ氏(現駐米大使)が法王宛ての私信でマネーロンダリング(資金洗浄)があった可能性を示唆していたと、バチカン通のジャーナリスト、ジアンルイジ・ヌッツィ氏がテレビで暴露。以来、さまざまな 疑惑が報じられるようになった。
ヌッツィ氏は先月、他の汚職や腐敗、陰謀も明かす同様の私信や文書を基に暴露本を出版。激怒した法王庁は出版後の先月19日から本格的に捜査を開始した。
今のところ当局は、総裁解任と資金洗浄疑惑との関連性、執事の文書隠匿事件との関係を否定している。執事は拘束され、容疑の認否や動機などのコメントは明らかでない。それでもメディアは、法王庁がわずか1週間で予想外に大胆な「内部処分」を断行したと受け止め、他の疑惑への関心を強めている。暴露された文書の中には、有力枢機卿が中国を訪れた際、複数の密談相手に年内に法王が暗殺される可能性を伝えたり、 85歳と高齢の法王はミラノ大司教への禅譲をもくろんでいるといった際どい権力闘争の内部事情が記されているからだ。
解任されたゴティテデスキ氏は、09年と10年の2度、マネーロンダリング疑惑でイタリア司法当局に捜査され、2300万ユーロ(約22億3000万円)の資産を押収された。地元メディアによると、「法王を困惑させたくないので、何も話さない。法王は私自身の身の潔白より大事だ」とだけ語ったという。
バチカン銀行は1978年から82年にかけて、マフィア絡みの不正や汚職が噴出。改革に乗り出したヨハネ・パウロ1世が在位33日で暗殺を疑われる急死 を遂げ、資金洗浄先に使われて破綻した銀行の元頭取ら関係者が次々に暗殺されるなど世界的スキャンダルになったことがある。