無人の街、カメラで監視 原発避難5町村、独自に導入
根岸拓朗、高橋尚之
2014年7月16日05時16分
東京電力福島第一原発の事故で住民が避難して無人になった福島県沿岸部の街に、防犯や車のナンバー読み取りのカメラの設置が広がっている。原発事故から3年以上が経っても、空き巣狙いなどの被害が後を絶たないためだ。
■空き巣や不審車が横行
全住民が避難する福島県浪江町。電柱から横に伸びる支柱の先のカメラが道路を見下ろす。近くのガソリンスタンドには草が生え、歩く人の姿はない。
カメラは町が2月に設置した。車のナンバーを読み取り、不審な車の出入りを把握する狙いだ。窃盗などの犯罪防止につなげ、週に数台あるという「興味本位で町内のバリケードを突破する車」(町担当者)への対策も兼ねる。全国の警察は、幹線道路に設置したナンバー読み取りカメラを運用しているが、自治体が独自に取り組むのは異例だ。
浪江町をはじめ、ナンバーの読み取りや防犯のカメラの設置を決めたのは双葉、大熊、富岡の各町と葛尾村。いずれも全住民が避難しているこの5町村では昨年、計212件の窃盗被害が確認された。うち空き巣狙いなどの侵入盗は192件で、原発事故前の2010年の4倍以上だ。今年も6月までに107件の被害があった。避難中の住民が被害に気づかないケースもあり、実際の件数はさらに多いとみられる。
政府は、福島県沿岸部を通る国道6号の通行を一部制限しているが、今後解除する方針だ。車の出入りの増加が見込まれ、各町村はカメラ導入に踏み出した。
住民の96%がいた地域が帰還困難区域になった大熊町。年内にも町中心部や主要道路の40カ所に防犯カメラ、18カ所にナンバー読み取りカメラを設ける。
カメラの運用は警備会社に委託し、不審者らが見つかれば警備員が出動し、町の許可を得ていない車が町内に入れば警察に知らせる。今年度予算で約7億2500万円を計上。費用は全額、復興事業のための国の金を充てる。
町の担当者は「町内は放射線量が高く、人の目で車の出入りをチェックしきれない。カメラで『見られているかも』と思わせて被害を防ぎたい」と話す。避難中の町民から防犯の充実を求める声も多く、警察や復興庁、警備会社と話し合って導入を決めたという。
富岡町も町内44カ所に防犯カメラとナンバー読み取りカメラを設け、8月中にも稼働させる。葛尾村も村内11カ所に防犯カメラを年内に取り付ける予定。双葉町も年内の整備を目指す。
■「誰もいなくて盗みやすかった」
住民が避難した地域では、窃盗容疑で逮捕される事件が相次ぐ。そのうち、福島県富岡町のアパートで空き巣狙いをしたとして、常習累犯窃盗罪に問われた福島県田村市の建設作業員の男(34)に対する初公判が15日、福島地裁いわき支部で開かれた。
男は4月、アパート2カ所から衣類など計約3万2千円相当を盗んだとの起訴内容を認めた。捜査段階の取り調べに、「誰もいないから盗みやすかった。100件以上やった」などと供述。男の実家などから貴金属や腕時計、パソコンなど約3千点が押収された。
「(窃盗は)弱者に追い打ちをかけ、許せない」。避難指示区域の家の片付けなどをボランティアで手伝う富岡町の平山勉さん(47)は憤る。訪れる家の7割程度が被害に遭っているという。「カメラの設置は良いと思うが、画像やデータは自治体ごとにバラバラではなく、一括して管理した方が効果があるのではないか」と話した。(根岸拓朗、高橋尚之)