猿八座 渡部八太夫

古説経・古浄瑠璃の世界

猿八座 稽古寸景 「山椒太夫」初段の稽古

2013年05月29日 11時25分03秒 | 猿八座

昨年の忘れ去られた物語シリーズ9で紹介した山本角太夫板とされる「山椒太夫」を床として

http://blog.goo.ne.jp/wata8tayu/d/20120224

以前から演じてきた「鳴子挽き・親子対面の場」の発端部分の作曲が終わったのは、今年の

3月でした。昨年10月頃から約半年もかかったのは、この角太夫本の筋書き通りに再演する

ことに躊躇があったからでした。山椒太夫のテキストは比較的多く残っていますが、その中

で、この角太夫板は、特異な筋書きを持っています。唯一、佐渡に安寿を渡らせるこの本を、

どうしても使いたいのですが、その特異さ故に、古説経の雰囲気にそぐわない部分があるの

も事実です。

 角太夫板では、岩木判官正氏の失脚を、かなりあくどいやり方で描きますが、浄瑠璃的な

筋立てを感じます。そこで、発端の筋書きを、オーソドックスな筋立てに依ることとして、寛

文後期に出版された「さんせう太夫物語」(新日本古典文学大系90古浄瑠璃説経集:岩波書

店)から発端部分である「信夫の里」を作りました。初段は、この発端部分と、角太夫板から

起こした「直井の浦」とを繋げたものとなり、ようやく落ち着いたのでした。

発端「信夫の里」

 ある日、厨子王は、ツバメを眺めていて、ツバメには父も母も居るのに、どうして僕には居

ないのと、母親に尋ねます。母が、お父さんは、築紫の国に流罪となって生きていると教えま

すと、厨子王は、父の汚名を晴らして、本領を安堵するために、上洛すると言い出します。そ

うして、人々は、京都へと旅だったのでした。

「直井の浦」

会津街道から、越後へとやってきた一行は、直江津の扇の橋で、人買いの山角の太夫にだ

まされてしまいます。母と姥竹は佐渡島に売られ、安寿と厨子王は丹後由良に売られて行く

のです。

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人買いの山角の太夫が、人々をだまして、船上で売り飛ばす場面。Dscf3390

しかし、山角は、お供の小八が強うそうなので、海へ突き落としてしまいます。怒った小八

は、猛然と反撃しますが、その間に、御台様や姉弟を乗せた舟は、行方不明となってしまうの

でした。小八は山角を引っ捕らえて、姉弟や御台様の捜索に向かいます。

 新しい演目に、座員一同、本格的に取り組み始めました。乞うご期待。

初演は、10月20日(日)新潟県村上市塩谷 塩谷山円福寺を予定しています。


忘れ去られた物語たち 21 説経毘沙門之本地⑥終

2013年05月29日 09時16分25秒 | 忘れ去られた物語シリーズ

毘沙門の本地 ⑥終

地蔵菩薩の導きに従って、金色太子は、見も知らぬ山道を、ひたすら走り続けますが、やが

て日は暮れ、夜になってしまいました。まだ月も出ず、道は真っ暗になってしまったので、

ある岩陰で休むことにしました。やがて、十五夜の満月が昇り、辺りを照らし始めますと、

その由旬(ゆじゅん)の光は、まるで昼のような明るさです。犍陟駒から飛び降りた金色太

子は、七曜(しちよう:北斗七星)に向かって、尋ねました。

「地蔵菩薩の教えによって、ここまで辿り着きました。つついの浄土へ行く道を、教えて下さい。」

すると、貪狼星(どんろうぼし)(大熊座αドーブェ)は、こう答えました。

「この道を、更に遙かに進みなさい。すると、天の河という大河があり。その河の辺

に、女が一人いるであろう。その女に詳しく聞いて見なさい。旅人よ。」

金色太子は、喜んで、更に犍陟駒を進ませました。そして、とうとう、天の河までやって来

たのでした。貪狼星の教えの通り、女が一人居るのが見えます。急いで近付くと、太子は、

「つついの浄土への道を教えて下さい。」

と、尋ねました。女は、しげしげと金色太子を見ると、

「不思議なことですね。あなたは、有漏の身で浄土を目指しているのですか。」

と怪訝な顔です。太子は、

「はいそうです。私は、クル国の姫宮と一夜の契を込めましたが、死んでしまいました。そ

して、つついの浄土を尋ねよとのお告げを受けて、ここまで、やって来たのです。どうか、

哀れと思って、お教え下さい。」

と、太子は涙ぐみました。女は、これを聞くと、

「恋路と聞くならば、一層辛さが増しますね。私は、七夕の星の精です。この河を隔てて年

に一度、恋しき人と、一夜を契ることができますが、もし、一滴でも雨が降るのなら、洪水

が、私の涙も押し流し、逢うこともできずに、空しく帰るのです。さぞや、あなたも、焦が

れ果てていらっしゃるのでしょうね。そのやるせなさを十分に分かっていますから、教えて

あげましょう。この河を渡れば、男が一人、通ることでしょう。それこそ、私の恋人、七夕

です。七夕に会って、詳しくお尋ねなさい。」

と、言い残すと、やがて去って行きました。金色太子は、犍陟駒を励まして、天の河を渡り

切りました。対岸に渡り着きますと、犬を連れた男が河の辺に立っているのが見えました。

太子は、駆け寄って、つついの浄土への道を尋ねました。男は、

「この道を、遙かに進んで行きなさい。きっと沢山の僧達が居る所に着くでしょう。そこで、

詳しくお聞き下さい。」

と答えました。それは、川上に向かう道でした。金色太子は、犍陟駒を更に進め、野を横切

り、山を越えて、先を急ぎました。すると、教えの通り、僧が沢山居る所にやってきたのでした。

太子は、馬から飛んで下りると、つついの浄土への道を尋ねました。輿の中に居る僧が、