日本農業新聞2011/12/22 第2面万象点描 (全文掲載です)
東京大学大学院教授 鈴木宣弘 氏
[もう〝うそ〟は許されない]
■情報操作の大罪
政府による一連の情報操作は深刻である。水素爆発直後に人の命に直結する放射能情報を隠蔽(いんぺい)したことは「殺人罪」にも匹敵する。炉心溶融も飯舘村の高線量も、外国からはすぐに指摘されていたのに、日本側は2ヶ月もたってからようやく認め、その間、多くの子どもも被ばくした。セシウム汚染牛問題が拡大したが「農家が稲わらの危険性を予見しなかったのが問題だ」と言うのは責任転嫁も甚だしい。さらには「冷温停止」で事故が収束したとはどういうことか。放射能の漏出も止まったわけでもないのに、そのことも知らせない。
原発も「大丈夫、大丈夫」と言って、取り返しのつかない事故を起こした。なのに「想定外」だったと言って、前と同じ「専門家」がまた今後のプランを作成している。これほど悲惨な事故を招いたことを反省もせずに、この期に及んで自らを正当化しようとしている。
環太平洋経済連携協定(TPP)情報を意図的に隠し続けた事も、国の将来を誤らせかねない大罪である。「大丈夫、大丈夫」と言って、あとで大変なことになっても責任を取る気はない。こうした行為に刑事責任を問う仕組みがないと、恐るべき事が簡単に繰り返されてしまう。
大震災によって6月までの参加表明の決断は先送りだが、情報開示も国民的議論もしないまま、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)ハワイ会合に滑り込ませればよいと言う声が、震災直後から官邸周辺の主流だった。
農業が問題なのだから「農業改革をすればTPPに入れる」という議論に矮小(わいしょう)化して、他の分野は国民に不安を与えるから情報を出すなという方針で、すでに締結されていてTPPのベースになるP4協定も、米国が参照してくれと言っている米韓自由貿易協定(FTA)も、米国が医療についてTPPに意見書を出したことも説明しようとしなかった。
APEC後、米国の高官が来日して牛肉、自動車、簡保などに言及したというものも米国の報道で明らかになったが、「従来の2国間の懸案事項にたまたまふれただけでTPPとは関係ない」と日本政府は言う。TPPと関係ないわけがないことは3歳児でも分かるのに、世間なら通用しないうそを平気で言い続けるのが政治・行政と言うものでは、あまりにも情けない。
米国議会が日本のTPP参加を承認するかどうかの手続きが始まったが、従来からの日米間の山のような懸案事項がTPPに入る前提条件として「念押し」される。そこでうなずいてしまえば、交渉参加後に例外を確保したり、途中離脱など考えられない。政府は国民に知らせずに、米国には何でもやると確約して入ってしまいかねない。「日本の医療制度と美しい農村を守り抜く」は「うそも方便」では済まされない。今度こそ、国民は許すわけにはいかない。
東京大学大学院教授 鈴木宣弘 氏
[もう〝うそ〟は許されない]
■情報操作の大罪
政府による一連の情報操作は深刻である。水素爆発直後に人の命に直結する放射能情報を隠蔽(いんぺい)したことは「殺人罪」にも匹敵する。炉心溶融も飯舘村の高線量も、外国からはすぐに指摘されていたのに、日本側は2ヶ月もたってからようやく認め、その間、多くの子どもも被ばくした。セシウム汚染牛問題が拡大したが「農家が稲わらの危険性を予見しなかったのが問題だ」と言うのは責任転嫁も甚だしい。さらには「冷温停止」で事故が収束したとはどういうことか。放射能の漏出も止まったわけでもないのに、そのことも知らせない。
原発も「大丈夫、大丈夫」と言って、取り返しのつかない事故を起こした。なのに「想定外」だったと言って、前と同じ「専門家」がまた今後のプランを作成している。これほど悲惨な事故を招いたことを反省もせずに、この期に及んで自らを正当化しようとしている。
環太平洋経済連携協定(TPP)情報を意図的に隠し続けた事も、国の将来を誤らせかねない大罪である。「大丈夫、大丈夫」と言って、あとで大変なことになっても責任を取る気はない。こうした行為に刑事責任を問う仕組みがないと、恐るべき事が簡単に繰り返されてしまう。
大震災によって6月までの参加表明の決断は先送りだが、情報開示も国民的議論もしないまま、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)ハワイ会合に滑り込ませればよいと言う声が、震災直後から官邸周辺の主流だった。
農業が問題なのだから「農業改革をすればTPPに入れる」という議論に矮小(わいしょう)化して、他の分野は国民に不安を与えるから情報を出すなという方針で、すでに締結されていてTPPのベースになるP4協定も、米国が参照してくれと言っている米韓自由貿易協定(FTA)も、米国が医療についてTPPに意見書を出したことも説明しようとしなかった。
APEC後、米国の高官が来日して牛肉、自動車、簡保などに言及したというものも米国の報道で明らかになったが、「従来の2国間の懸案事項にたまたまふれただけでTPPとは関係ない」と日本政府は言う。TPPと関係ないわけがないことは3歳児でも分かるのに、世間なら通用しないうそを平気で言い続けるのが政治・行政と言うものでは、あまりにも情けない。
米国議会が日本のTPP参加を承認するかどうかの手続きが始まったが、従来からの日米間の山のような懸案事項がTPPに入る前提条件として「念押し」される。そこでうなずいてしまえば、交渉参加後に例外を確保したり、途中離脱など考えられない。政府は国民に知らせずに、米国には何でもやると確約して入ってしまいかねない。「日本の医療制度と美しい農村を守り抜く」は「うそも方便」では済まされない。今度こそ、国民は許すわけにはいかない。