5協賛金等の負担の要請(1)考え方
委託者が催事、広告等を行うに当たり、受託者に対し、その費用の一部として協賛金等の負担を要請することがある(注12)。
このような要請は委託者が流通業者である場合に行われることが多いが、流通業者が商品の納入業者に協賛金等の負担を要請する場合には、当該費用を負担することが納入商品の販売促進につながるなど受託者にとっても直接の利益となる場合もある。しかし、役務の委託取引においては、販売促進活動につながるなど自己の協賛金等の拠出額に見合った直接の利益を受託者が受けることは少ないので、取引上優越した地位にある委託者が、受託者に対し、その一方的な都合で協賛金等の負担を要請する場合には、不当に不利益を受託者に与えることとなりやすく、優越的地位の濫用として問題を生じやすい。
(注12)代金の減額に代えて協賛金等の負担の要請が行われる場合があるが、その場合についての考え方は、前記2のとおりである。
(2)独占禁止法上問題となる場合
取引上優越した地位にある委託者が、受託者に対し、協賛金等を負担させることは、次のような場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を受託者に与えることとなり、不公正な取引方法に該当し、違法となる。
①協賛金等の負担額及びその算出根拠、使途等について、委託者と受託者の間で明確になっていない場合であって、受託者にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合
②次のような方法により協賛金等を負担させ、受託者に不利益を与えることとなる場合(注13)
a委託者の決算対策など、損益が悪化したことを理由として、協賛金等の負担を要請する場合
b商品の納入業者など他の事業者に対しても協賛金等の負担の要請を行っていることを理由として、受託者が受ける直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えて協賛金等の負担を要請する場合
c一定期間に一定程度以上の委託取引がなされた場合に、協賛金等を徴収することをあらかじめ定めていた場合において、当該取引量に至らないにもかかわらず当該協賛金等の負担を要請するとき
(注13)②の場合は、協賛金等の負担の条件について委託者と受託者の間で明確になっている場合であっても違法となるケースである。
6商品等の購入要請(1)考え方
委託者が、受託者に対し、役務の委託取引関係を利用して自己の販売する商品又は役務のほか、委託者の関係会社や取引先事業者が販売する商品又は役務の購入を要請することがある。
取引上優越した地位にある委託者が、受託者に対し、商品又は役務の購入を要請する場合には、受託者は、当該商品又は役務の購入を希望しないときであっても、今後の役務の委託取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ないこととなり、優越的地位の濫用として問題となる。
なお、このような商品等の購入要請は、いわゆる相互取引(それぞれ相手方がその事業遂行上必要な商品又は役務を販売している場合において、取引の相手方からの商品又は役務の購入と、相手方への自己の商品又は役務の販売が関連付けられている取引をいう。)の申出として行われる場合があり、このような相互取引についての考え方は、流通・取引慣行ガイドライン第1部第5(不当な相互取引)記載のとおりである。
(2)独占禁止法上問題となる場合
取引上優越した地位にある委託者が、受託者に対し、自己又は自己の指定する者から、次のような方法により受託者がその事業遂行上必要としない商品又は役務を購入させることは、正常な商慣習に照らして不当に不利益を受託者に与えることとなり、不公正な取引方法に該当し、違法となる。
①委託取引担当者等の役務の委託取引に影響を及ぼし得る者が購入を要請する場合
②受託者に対し、組織的又は計画的に購入を要請する場合
③購入する意思がないとの表明があった場合又はその表明がなくとも明らかに購入する意思がないと認められる場合に、重ねて購入を要請し、又は不必要な商品を一方的に送付するとき
④購入しなければ今後の役務の委託取引に影響すると受け取られるような要請をし、又はそのように受け取られるような販売の方法を用いる場合
7情報成果物に係る権利等の一方的取扱い(1)考え方
情報成果物が取引の対象となる役務の委託取引にあっては、受託者が作成した成果物について、受託者に著作権が発生したり、受託者にとって特許権、意匠権等の権利の対象となることがある。また、受託者が当該成果物を作成する過程で、他に転用可能な成果物、技術等を取得することがあり、これが取引の対象となる成果物とは別の財産的価値を有する場合がある。
このような役務の委託取引において、取引上優越した地位にある委託者が、受託者に対し、当該成果物が自己との委託取引の過程で得られたこと又は自己の費用負担により作成されたことを理由として、一方的に、これらの受託者の権利を自己に譲渡(許諾を含む。以下同じ。)させたり、当該成果物、技術等を役務の委託取引の趣旨に反しない範囲で他の目的のために利用すること(二次利用)(注14)を制限する場合などには、不当に不利益を受託者に与えることとなりやすく、優越的地位の濫用として問題を生じやすい(注15)。
しかしながら、このような場合に、成果物等に係る権利の譲渡又は二次利用の制限に対する対価を別途支払ったり(注16)、当該対価を含む形で対価に係る交渉を行っていると認められるときは、優越的地位の濫用の問題とはならない(注17)。
ただし、このような場合であっても、成果物等に係る権利の譲渡等に対する対価が不当に低い場合や成果物等に係る権利の譲渡等を事実上強制する場合など、受託者に対して不当に不利益を与える場合には、優越的地位の濫用として問題となる(注18)。
(注14)二次利用としては、例えば、以下のような場合がある。
①委託者からの発注により、受託者が地上放送用に制作したテレビ番組を、ビデオ化して販売する場合
②委託者からの発注により、受託者が劇場映画用に制作したアニメーションを、インターネットにより配信する場合
③委託者からの発注により、受託者が委託者の自社使用のために制作したコンピュータープログラムを、他の事業者のために使用する場合
④委託者からの発注により、受託者が特定商品のために制作したキャラクターについて、他の商品に使用する場合
(注15)この(1)「考え方」及び下記(2)「
独占禁止法上問題となる場合」において示されている考え方は、情報成果物の作成に伴い、受託者に権利が発生・帰属していることを前提としたものである。
しかし、受託者が情報成果物を作成するに当たっては、役務の委託取引に基づき受託者が自己の有する技術、人員等により作成する場合だけでなく、委託者から提供された技術、人員等をも使用して作成する場合がある。
委託者が役務の委託取引を行うに当たり,受託者に自己の有する技術を提供した場合は,役務の委託取引と技術取引とが同時に行われたものとみることができる。このため,情報成果物に係る権利の取扱いについても委託者が提供した技術との関係を考慮して判断されることとなるが,知的財産のうち技術に関するものの利用に係る制限行為に関する独占禁止法上の考え方については,「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成十九年九月二十八日公正取引委員会)のとおりである。
また、委託者が技術、人員等を提供するなどにより、情報成果物を受託者と共同で作成したとみることができる場合においては、当該成果物に係る権利の譲渡、二次利用及び労務、費用等の負担に係る取決め内容について、委託者と受託者の間で著しく均衡を失し、これによって受託者が不当に不利益を受けることとなるときには、優越的地位の濫用又は共同行為における差別的取扱い(一般指定第五項)として問題となる。
(注16)二次利用の制限に対する対価には、二次利用による収益配分の条件として定める場合を含む。
(注17)当該対価を含む形で対価に係る交渉を行っていると認められるためには、取引の当事者双方が成果物等に係る権利の譲渡等が取引条件であることを認識し、委託者が成果物等に係る権利の譲渡等に対する対価が含まれることを明示した委託費用を提示するなど、取引条件を明確にした上で交渉する必要がある。
また、違反行為を未然に防止するなどの観点からは、可能な場合には、委託者が委託費用を提示する際に権利の譲渡等に対する対価を明示していることが望ましい。
(注18)「対価が不当に低い場合」の判断に当たっては、本指針の「第2 3 著しく低い対価での取引の要請」に記載される考え方が適用される。
また、「事実上強制する場合」の具体例として、例えば、受託者が権利の譲渡を伴う契約を拒んでいるにもかかわらず、今後の取引を行わないことを示唆するなどして、事実上、権利の譲渡を余儀なくさせる場合が挙げられる。
(2)独占禁止法上問題となる場合
情報成果物が取引対象となる役務の委託取引において、取引上優越した地位にある委託者が、当該成果物を作成した受託者に対し、次のような行為を行う場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を受託者に与えることとなり、不公正な取引方法に該当し、違法となる。
ア情報成果物の権利の譲渡
①受託者に権利が発生するにもかかわらず、当該成果物が委託者との委託取引の過程で得られたこと又は委託者の費用負担により作成されたことを理由として、一方的に当該成果物に係る著作権、特許権等の権利を委託者に譲渡させる場合
②受託者に権利が発生する場合において、二次利用による収益配分を条件として、著作権等の権利を委託者に譲渡したにもかかわらず、二次利用の管理を行う委託者が受託者からの二次利用の要請・提案に対して、合理的な理由がないのに応じない場合
イ情報成果物の二次利用の制限等
①受託者に権利が発生し、委託者には権利が発生しないにもかかわらず、委託者が、自らに又は自らにも権利が発生すると主張しこれを前提として、受託者との間で、一方的に当該成果物の二次利用の収益配分などの取引条件を取り決める場合、又は二次利用を制限する場合
②受託者に権利が発生する場合において、委託者が、当該成果物が委託者との委託取引の過程で得られたこと又は委託者の費用負担により作成されたことを理由として、受託者に対し、一方的に当該成果物の二次利用の収益配分などの取引条件を取り決める場合、又は二次利用を制限する場合
③受託者に権利が発生する場合において、受託者が、委託者が提示する成果物作成の対価に加えて、当該成果物の二次利用による収益配分の条件も考慮して当該成果物の作成を受託したにもかかわらず、二次利用の管理を行なう委託者が受託者からの二次利用の要請・提案に対して、合理的な理由がないのに応じない場合
ウ受託者が情報成果物を作成する過程で発生した取引対象外の成果物等の権利の譲渡及び二次利用の制限等
受託者が取引対象である情報成果物を作成する過程で生じた当該成果物以外の成果物等について、受託者に権利が発生する場合において、委託者が上記ア及びイと同様の行為を行う場合
転載元:公正取引委員会 独占禁止法 役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の 指針