近年、クルマの安全性に対する意識は世界的な高まりを受けています。そんな中、事故後の受動的な安全性(パッシブセーフティ)として、エアバックや衝突安全対応のボデー構造の採用等が進められています。一方、事故の発生を防止する積極的な安全性(アクティブセーフティ)として、ESC(スタビリティコントーロール)やプリ・クラッシュセーフティ機構の数々が高級車を中心に採用され出しています。
しかし、これらクルマの安全性のために、金に糸目を付けない対応というのも、これもできないことであろうと思います。クルマを選択購入するユーザーも、何が何でも安全でさえあれば、例え燃費が悪かろうが、維持管理費(事故修理費含む)が増えようが構わないなんて方は、少ないのだろうと思います。
もし、現在の衝突安全ボデーやエアバック類の装備を除外したとしたら、車両重量は100kg程度軽量化でき、燃費向上による省エネルギーと共に車両価格も30万円程度安くできるのかもしれません。現状の世界の意志としては、それも止むないこととして一応の認容がなされているのでしょう。しかし、近く登場されると報じられるインドのタタ自動車の超安価車では、その様な安全装備については、相当に割り切っているはずです。それでも、現地を含め受け入れたいとする国や人々が大勢いるのも確かなことと思います。
ところで、クルマの衝突事故によりエアバック等のパッシブセーフティ装置が働くと、そのクルマの修理費は、それら装置のコスト分は確実にアップします。従って、使用年数を経過した中古車では、そのクルマの価値を修理費が上回る、いわゆる全損状態になるケースが増えています。
また、現実の交通事故は、これらパッシブセーフティ装置が働かない様な小さな事故が大多数を占める訳ですが、クルマの使用部品のコストや構造によって、随分と上下の開きが生じることを経験します。
一般に同程度の大きさの損傷であっても、より高級車になる程、修理費が高くなることは、誰にも理解されるところと思います。これは、使用されていて交換しなければならない部品の価格が高いと云うことが大きな理由でしょう。しかし、同クラスのクルマの同程度の損傷であっても、取替部品が高価な設定であったり、取替なければならない損傷を生じ易かったり、高価で壊れ安い部品が損傷部位に配置されていたり、構造上の問題から、修理工数が増加しがちであったりという問題が残ります。
例えば、さもない衝突であっても、ヘッドランプのブラケット部分が割損してしまうなんていうケースは良くあることです。この様なことに配慮して、最近ではヘッドランプのブラケット部分のみ、単品補給部品を設定するメーカーも増えては来ています。しかし、この様な比較的軽度な事故の際の修理費を低減化させようとする配慮がメーカーに十分かと問えば、現在の対応は不十分との思いを禁じ得ません。
これらのことをクルマメーカーへ牽制したいとの意味も持って、自研センターでは「修理費アセスメント」というのを次年度(本年4月以降)にスタートさせるとアナウンスしていましたが、最近の同社HPでは、同アセスメントの案内ページが削除されてしまっており、本当にスタートするのか疑問です。もしかしたら、何らかの圧力により、頓挫してしまったのだとしたら大変残念なことと思います。