リチウムイオン電池とはどんな電池? EV普及で需要急増、発火が多発する原因も解説
7/26(金) 6:50配信 ビジネス+IT
スマホやタブレット、EVなど、身の回りの多くの製品に使用されているリチウムイオン電池。リチウムイオン電池とは、リチウム化合物を使用した二次電池を言います。小型化、軽量化しやすく、大容量の電力を備えられるため、二次電池の主流は鉛蓄電池からリチウムイオン電池となりました。一方、誤った廃棄方法などによって火災が多発するといった危険性が問題視されています。本稿では、リチウムイオン電池の仕組みや種類に加え、発火の原因や正しい廃棄方法まで、押さえておきたい基本をわかりやすく解説します。
リチウムイオン電池とは何か
リチウムイオン電池とは、電極にリチウム化合物を使用した蓄電池(二次電池)のことです。
以前までは、二次電池と言えば鉛蓄電池が主流でしたが、時代のニーズや技術の進歩によって、リチウムイオン電池が二次電池の主流となってきました。1990年代初めに登場して以来、目覚ましい発展をし続け、今日の電池市場を席巻しています。
経済産業省の機械統計によると、2023年のリチウムイオン電池の国内販売金額は8,997億円でした。このうち車載用途は7,795億円であり、年々増加傾向にあります(冒頭の図1)。
今後もEVや再生可能エネルギーの普及拡大に伴い、蓄電池への需要が高まり、ひいてはリチウムイオン電池の需要が今後さらに増加していくものと予想されます。
リチウムイオン電池の特徴
リチウムイオン電池が普及してきたのは、他の二次電池にはない優れた電池性能を持つためです。一方、安全性や価格面などの観点からまだ課題は残されています。主なメリット・デメリットとしては以下の3つが挙げられます。
■メリット
・小型化しやすい
・軽量化しやすい
・大容量の電力
■デメリット
・安全性の問題
・資源の問題
・価格の問題
詳しく解説します。まず下の図2を見てみると、リチウムイオン電池の重量または体積当たりのエネルギー密度が、いずれも他の電池よりも大きいことがわかります。
これは元素周期表のとおり、リチウムは原子番号3番の元素で、最も小さくて軽い上に、イオンになりやすい金属(「イオン化傾向」が最大)であるためです(図3)。これらの特性から、昔から優れた電池材料としてリチウムは活用されてきました。
一方、リチウムイオン電池は、安全面で問題を抱えていることが大きなデメリットに挙げられます。リチウムは、水と激しく反応するなど、発熱や発火しやすい特性があります。充放電を繰り返すリチウムイオン電池に、金属のリチウムではなく化合物のリチウムが使用される理由は、安全性を高めるためです。
また、資源の問題もあります。リチウムは南北アメリカ大陸やオーストラリア、中国などの一部の地域に偏在し、埋蔵量も限られています。さらに、需要が急増することで価格が高騰しやすくなるリスクがあります。
リチウムイオン電池の用途
リチウムイオン電池は、スマホやノートパソコン、タブレット、EV、産業用機器、ゲーム、モバイルバッテリーなど、幅広く利用されています。
リチウムイオン電池の小型化・軽量化・大容量のメリットを生かし、今後も、モバイル機器をはじめ、さまざまな製品に用いられていくでしょう。
リチウムイオン電池の発火が多発する原因
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高いほど安全性へのリスクが高まる傾向にあります。安全対策の施された製品を適切に使用していれば、問題が発生することは多くありません。
一方、強い衝撃を与えた場合などは、発火の原因となってしまいます。
リチウムイオン電池に使われる電解液は、引火性のある有機溶媒です。そのため、衝撃や損傷によって、電極物質同士が触れ合うと化学反応が起きて熱が発生し、電解液に引火することで発火する危険があります。
特に廃棄時は、発火の危険が多く潜んでおり、近年で見ても廃棄の時に往々にして発火が発生しています。ゴミの分別ルールを守らず、リチウムイオン電池を含む製品を誤って廃棄した場合など、ゴミ収集車やゴミ処理施設で発火や爆発が起こる事故が多発しているのです。
環境省の調査によると、リチウムイオン電池を含むリチウム蓄電池起因の火災事故件数は、年間1万件以上も発生しています。
事故原因の多くが、「不燃ごみ」として混入していたことによるものです。不燃ごみは処分場のスペース確保のため、細かく砕いてから処理することがあります。その時にリチウムイオン電池が混ざっていると、発火などにつながる危険があると容易に想像できるかと思います。
その1つの対策として、担当者が不燃ごみなどから手作業で選別、抜き取りしていることもあるようです。
ではどのような製品が発火の原因として多いのでしょうか。具体的な製品としては「モバイルバッテリー」が最も多く、次いで「加熱式たばこ」「コードレス掃除機」が多くなっています。
火災事故は、処理施設等の従業員に危険を及ぼすことはもちろん、施設の損傷により膨大な修復費用がかかったり、清掃工場の稼働停止によって日常生活に大きな支障を与えます。火災事故による損害は甚大で、損害額は数億円にも及ぶと言われます。
リチウムイオン電池は、使用時だけでなく、廃棄時も発火の危険性が潜んでいること、そして事故による被害が甚大になりやすいことを常に認識しておくことが重要です。
では、使い終わったリチウムイオン電池やその製品を廃棄する場合は、どうすればいいのでしょうか。
リチウムイオン電池の廃棄方法
事業所や工場から排出される場合は、分別して、処理が可能な産業廃棄物処理業者に委託します。一方、家庭で使用していた場合は、自治体の分別ルールを確認した上で、確実にルールに従わなければなりません。
リチウムイオン電池など小型で軽量な二次電池は「小型充電式電池」と呼ばれ、資源有効利用促進法により回収やリサイクルが義務付けられています。自治体によって分別ルールが異なるため、各自で確認してください。各自治体名と「リチウム蓄電池」「捨て方」で検索すると、各自治体のページがヒットするので、まずは検索してみると良いでしょう。
なお、電器店、スーパーマーケット、ホームセンターなど一般社団法人JBRCのリサイクル協力店には、回収ボックスが設置されているので活用すると良いでしょう。
リチウムイオン電池の仕組み
リチウムイオン電池の基本的な仕組みとしては、一般的に、正極にリチウム化合物、負極に黒鉛(炭素)、電解液に有機溶媒といった材料で構成されます。
充電や放電が行われる原理は、他の二次電池とほぼ同じです。充電時は、電流によって正極側にあるリチウムイオンが、電解液の中を移動して負極側に蓄えられます。逆に放電時は、負極に蓄えられたリチウムイオンが正極側に移動し、その際に電子が移動して電力が発生します。
リチウムイオン電池の種類
リチウムイオン電池の種類は、一般的に材料や形状によって分類されます。ひと口にリチウムイオン電池と言っても、使用する材料によって、エネルギー密度やコストなどが異なります。代表的なリチウムイオン電池の種類とその特徴について解説します。
・コバルト系
正極材に「コバルト酸リチウム(LiCoO2)」を使用したもの。モバイル機器を中心に最も普及したリチウムイオン電池です。ただレアメタルであるコバルトを使用するため、資源枯渇や価格面の問題があります。また熱暴走のリスクもあるため、車載用には不向きとされています。
・マンガン系
「マンガン酸リチウム(LiMn2O4)」を正極材に使用したもので、マンガンは豊富に存在しているため安価な点が特徴です。また熱安定性に優れているため、安全性が高いとされ、車載用電池としても使用されています。
・ニッケル系
正極材に「ニッケル酸リチウム(LiNiO2)」を使用し、大容量であることが特徴です。ただし充電時の熱安定性が悪いなど安全性に課題があると言われています。
・NCA系
ニッケル系の課題を改善したものがNCA系です。正極材にニッケル・コバルト・アルミニウムを使用したことで安全性が改善され、プラグインハイブリッド車などに使用されています。
・三元系(NMC)
正極材にニッケル・マンガン・コバルトを使用したもの。コバルト系よりも安全性が高く、エネルギー密度も高いため、車載用として主流の電池です。
・リン酸鉄系
安価で安全性が高い「リン酸鉄リチウム(LiFePO4)」を正極材に使用したもの。エネルギー密度が低いですが、改良が進んでおり、車載用に使用されています。
・チタン酸系
負極材に「チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)」を使用するチタン酸系があります。黒鉛よりも寿命や急速充電に優れるものの、エネルギー密度が低いという課題があります。
上記とは別に、形状によって「円筒形」「角形」「ラミネート形」にわけることもできます。さらに電解液をゲル状にすることで液漏れしにくくした「リチウムポリマー電池」もあります。
まとめ
リチウムイオン電池をはじめとする蓄電池は、今や我々の生活には欠かせず、多くの人が利用するものです。
今後も新たなリチウムイオン電池が開発されたり、新しい製品に使われたりすることもありますが、「使い終わった後」のことも考えることが重要です。
以前から、生産者には、製品の廃棄後においても責任を持ち、リユースやリサイクルしやすい開発を行うという、「拡大生産者責任」の考え方があります。
さらに昨今はサーキュラーエコノミーの時代。サステナビリティの観点から、行政、生産者、消費者の理解や協力がより求められてくるでしょう。執筆:元技術系公務員ライター 和地 慎太郎(わち・しんたろう)
#リチウムイオン電池とはどんな電池?
7/26(金) 6:50配信 ビジネス+IT
スマホやタブレット、EVなど、身の回りの多くの製品に使用されているリチウムイオン電池。リチウムイオン電池とは、リチウム化合物を使用した二次電池を言います。小型化、軽量化しやすく、大容量の電力を備えられるため、二次電池の主流は鉛蓄電池からリチウムイオン電池となりました。一方、誤った廃棄方法などによって火災が多発するといった危険性が問題視されています。本稿では、リチウムイオン電池の仕組みや種類に加え、発火の原因や正しい廃棄方法まで、押さえておきたい基本をわかりやすく解説します。
リチウムイオン電池とは何か
リチウムイオン電池とは、電極にリチウム化合物を使用した蓄電池(二次電池)のことです。
以前までは、二次電池と言えば鉛蓄電池が主流でしたが、時代のニーズや技術の進歩によって、リチウムイオン電池が二次電池の主流となってきました。1990年代初めに登場して以来、目覚ましい発展をし続け、今日の電池市場を席巻しています。
経済産業省の機械統計によると、2023年のリチウムイオン電池の国内販売金額は8,997億円でした。このうち車載用途は7,795億円であり、年々増加傾向にあります(冒頭の図1)。
今後もEVや再生可能エネルギーの普及拡大に伴い、蓄電池への需要が高まり、ひいてはリチウムイオン電池の需要が今後さらに増加していくものと予想されます。
リチウムイオン電池の特徴
リチウムイオン電池が普及してきたのは、他の二次電池にはない優れた電池性能を持つためです。一方、安全性や価格面などの観点からまだ課題は残されています。主なメリット・デメリットとしては以下の3つが挙げられます。
■メリット
・小型化しやすい
・軽量化しやすい
・大容量の電力
■デメリット
・安全性の問題
・資源の問題
・価格の問題
詳しく解説します。まず下の図2を見てみると、リチウムイオン電池の重量または体積当たりのエネルギー密度が、いずれも他の電池よりも大きいことがわかります。
これは元素周期表のとおり、リチウムは原子番号3番の元素で、最も小さくて軽い上に、イオンになりやすい金属(「イオン化傾向」が最大)であるためです(図3)。これらの特性から、昔から優れた電池材料としてリチウムは活用されてきました。
一方、リチウムイオン電池は、安全面で問題を抱えていることが大きなデメリットに挙げられます。リチウムは、水と激しく反応するなど、発熱や発火しやすい特性があります。充放電を繰り返すリチウムイオン電池に、金属のリチウムではなく化合物のリチウムが使用される理由は、安全性を高めるためです。
また、資源の問題もあります。リチウムは南北アメリカ大陸やオーストラリア、中国などの一部の地域に偏在し、埋蔵量も限られています。さらに、需要が急増することで価格が高騰しやすくなるリスクがあります。
リチウムイオン電池の用途
リチウムイオン電池は、スマホやノートパソコン、タブレット、EV、産業用機器、ゲーム、モバイルバッテリーなど、幅広く利用されています。
リチウムイオン電池の小型化・軽量化・大容量のメリットを生かし、今後も、モバイル機器をはじめ、さまざまな製品に用いられていくでしょう。
リチウムイオン電池の発火が多発する原因
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高いほど安全性へのリスクが高まる傾向にあります。安全対策の施された製品を適切に使用していれば、問題が発生することは多くありません。
一方、強い衝撃を与えた場合などは、発火の原因となってしまいます。
リチウムイオン電池に使われる電解液は、引火性のある有機溶媒です。そのため、衝撃や損傷によって、電極物質同士が触れ合うと化学反応が起きて熱が発生し、電解液に引火することで発火する危険があります。
特に廃棄時は、発火の危険が多く潜んでおり、近年で見ても廃棄の時に往々にして発火が発生しています。ゴミの分別ルールを守らず、リチウムイオン電池を含む製品を誤って廃棄した場合など、ゴミ収集車やゴミ処理施設で発火や爆発が起こる事故が多発しているのです。
環境省の調査によると、リチウムイオン電池を含むリチウム蓄電池起因の火災事故件数は、年間1万件以上も発生しています。
事故原因の多くが、「不燃ごみ」として混入していたことによるものです。不燃ごみは処分場のスペース確保のため、細かく砕いてから処理することがあります。その時にリチウムイオン電池が混ざっていると、発火などにつながる危険があると容易に想像できるかと思います。
その1つの対策として、担当者が不燃ごみなどから手作業で選別、抜き取りしていることもあるようです。
ではどのような製品が発火の原因として多いのでしょうか。具体的な製品としては「モバイルバッテリー」が最も多く、次いで「加熱式たばこ」「コードレス掃除機」が多くなっています。
火災事故は、処理施設等の従業員に危険を及ぼすことはもちろん、施設の損傷により膨大な修復費用がかかったり、清掃工場の稼働停止によって日常生活に大きな支障を与えます。火災事故による損害は甚大で、損害額は数億円にも及ぶと言われます。
リチウムイオン電池は、使用時だけでなく、廃棄時も発火の危険性が潜んでいること、そして事故による被害が甚大になりやすいことを常に認識しておくことが重要です。
では、使い終わったリチウムイオン電池やその製品を廃棄する場合は、どうすればいいのでしょうか。
リチウムイオン電池の廃棄方法
事業所や工場から排出される場合は、分別して、処理が可能な産業廃棄物処理業者に委託します。一方、家庭で使用していた場合は、自治体の分別ルールを確認した上で、確実にルールに従わなければなりません。
リチウムイオン電池など小型で軽量な二次電池は「小型充電式電池」と呼ばれ、資源有効利用促進法により回収やリサイクルが義務付けられています。自治体によって分別ルールが異なるため、各自で確認してください。各自治体名と「リチウム蓄電池」「捨て方」で検索すると、各自治体のページがヒットするので、まずは検索してみると良いでしょう。
なお、電器店、スーパーマーケット、ホームセンターなど一般社団法人JBRCのリサイクル協力店には、回収ボックスが設置されているので活用すると良いでしょう。
リチウムイオン電池の仕組み
リチウムイオン電池の基本的な仕組みとしては、一般的に、正極にリチウム化合物、負極に黒鉛(炭素)、電解液に有機溶媒といった材料で構成されます。
充電や放電が行われる原理は、他の二次電池とほぼ同じです。充電時は、電流によって正極側にあるリチウムイオンが、電解液の中を移動して負極側に蓄えられます。逆に放電時は、負極に蓄えられたリチウムイオンが正極側に移動し、その際に電子が移動して電力が発生します。
リチウムイオン電池の種類
リチウムイオン電池の種類は、一般的に材料や形状によって分類されます。ひと口にリチウムイオン電池と言っても、使用する材料によって、エネルギー密度やコストなどが異なります。代表的なリチウムイオン電池の種類とその特徴について解説します。
・コバルト系
正極材に「コバルト酸リチウム(LiCoO2)」を使用したもの。モバイル機器を中心に最も普及したリチウムイオン電池です。ただレアメタルであるコバルトを使用するため、資源枯渇や価格面の問題があります。また熱暴走のリスクもあるため、車載用には不向きとされています。
・マンガン系
「マンガン酸リチウム(LiMn2O4)」を正極材に使用したもので、マンガンは豊富に存在しているため安価な点が特徴です。また熱安定性に優れているため、安全性が高いとされ、車載用電池としても使用されています。
・ニッケル系
正極材に「ニッケル酸リチウム(LiNiO2)」を使用し、大容量であることが特徴です。ただし充電時の熱安定性が悪いなど安全性に課題があると言われています。
・NCA系
ニッケル系の課題を改善したものがNCA系です。正極材にニッケル・コバルト・アルミニウムを使用したことで安全性が改善され、プラグインハイブリッド車などに使用されています。
・三元系(NMC)
正極材にニッケル・マンガン・コバルトを使用したもの。コバルト系よりも安全性が高く、エネルギー密度も高いため、車載用として主流の電池です。
・リン酸鉄系
安価で安全性が高い「リン酸鉄リチウム(LiFePO4)」を正極材に使用したもの。エネルギー密度が低いですが、改良が進んでおり、車載用に使用されています。
・チタン酸系
負極材に「チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)」を使用するチタン酸系があります。黒鉛よりも寿命や急速充電に優れるものの、エネルギー密度が低いという課題があります。
上記とは別に、形状によって「円筒形」「角形」「ラミネート形」にわけることもできます。さらに電解液をゲル状にすることで液漏れしにくくした「リチウムポリマー電池」もあります。
まとめ
リチウムイオン電池をはじめとする蓄電池は、今や我々の生活には欠かせず、多くの人が利用するものです。
今後も新たなリチウムイオン電池が開発されたり、新しい製品に使われたりすることもありますが、「使い終わった後」のことも考えることが重要です。
以前から、生産者には、製品の廃棄後においても責任を持ち、リユースやリサイクルしやすい開発を行うという、「拡大生産者責任」の考え方があります。
さらに昨今はサーキュラーエコノミーの時代。サステナビリティの観点から、行政、生産者、消費者の理解や協力がより求められてくるでしょう。執筆:元技術系公務員ライター 和地 慎太郎(わち・しんたろう)
#リチウムイオン電池とはどんな電池?