トヨタグループの相次ぐ不正は“日本の歪み”そのものだ 「現場との断絶」「セクショナリズム」、第三者委の調査書を改めて読む
2/23(金) 6:11配信 Merkmal
豊田自動織機による、ディーゼルエンジン認証取得時の不正問題が大きな波紋を広げている。直近ではダイハツ工業の不正問題もあり、トヨタ自動車グループとして責任や経営のあり方について厳しい視線が向けられている。
そこで、不正事象にどのような背景があったのか再確認すべく、豊田自動織機、ダイハツ工業、日野自動車の第三者委員会による調査報告書を改めて読む。
豊田自動織機の報告書では、一連の不正におよんだ根本原因として、
・受託体質
・産業車両用エンジンの軽視
・エンジン事業部の幹部らのリスク感度の低さ
といった企業体質・組織風土に加え、
「事業部体制の弊害とそれをカバーするための経営陣の取り組み不足」
が挙げられている。
受託体質については、自動車用エンジン開発の責任を負う主体はトヨタ自動車であり、トヨタ自動車から求められるままエンジン開発を行ってきた側面が強いと指摘。また、受託体質により、タイトな開発スケジュールを突きつけられても見直せず、担当者が部長級に相談しても「何とかしろ」といわれる雰囲気があり、半ば諦めていて報告しなかったという。
なお報告書では、タイトな開発スケジュールの設定が問題ではなく、合理性の判断や不測の事態が発生した時に合理的な方向へ修正することができるかどうかが問題だと指摘している。
ダイハツ工業:極度のプレッシャー下の現場担当者
ダイハツ工業のウェブサイト(画像:ダイハツ工業)
ダイハツ工業の場合、一番古いもので1989(平成元)年に不正行為が認められ、2014年以降の期間で不正行為の件数が増加していた。なお、ダイハツ工業とトヨタ自動車の関係は、1967(昭和42)年に業務提携を開始し、1998年にトヨタ自動車の子会社となり、2016年8月にトヨタ自動車の完全子会社となっている。
不正行為の直接的な原因やその背景については
・過度にタイトで硬直的な開発スケジュール
・現場任せで関与しない幹部
・チェック体制の不備
・法規の不十分な理解
・現場の担当者のコンプライアンス意識の希薄化
が挙げられている。
このほか、「自分や自分の工程さえよければよい」という組織風土が加わり、認証試験担当者へのプレッシャーや部門のブラックボックス化を促進したとある。
「現場任せで関与しない幹部」については、部長級以上の役職者が、現場レベルの不正行為を指示し、黙認したというような事実は見つからなかった。一方で、部長級以上の役職者が課題解決に関与しない体制により、「極度のプレッシャーに晒(さら)されて追い込まれた現場の担当者に問題の解決が委ねられた」という。
豊田自動織機の、「部長級に相談しても「何とかしろ」といわれる雰囲気がある」と似通っているといえよう。
この点について報告書では、一連の不正問題で「まずもって責められるべきは不正を行った従業員ではなくダイハツの経営幹部である」と断罪。
さらには、低コストで良質な自動車の短期開発は、営利企業である以上問題ないが、経営幹部のそれにともなうリスクや弊害を察知する感度が鈍かったと指摘している。
日野自動車:意識の断絶とセクショナリズム
日野自動車のウェブサイト(画像:日野自動車)
日野自動車は、2022年3月に、日本市場向け車両用エンジンの排出ガスおよび燃費に関する認証申請において不正行為を確認したと公表。なお、日野自動車とトヨタ自動車との関係は、1966(昭和41)年に業務提携、2001(平成13)年に日野自動車株の過半を取得し子会社化という経緯をたどっている。
不正を行ったのは、認証申請のための劣化耐久試験や測定を行うパワートレイン実験部で、数値の書き換えや有利に働くように諸元値にげたを履かせるなどした。
調査委員会は、調査の初期の過程で「全役職員一丸となって、全体感あるクルマづくりを行なっていない」と感じたそうだ。具体的には、経営陣と現場の間に、クルマづくりを指示する側と指示される側という意識の断絶が生まれていたという。
さらには、セクショナリズムにより、不正の舞台となったパワートレイン実験部そのものや、担当者が孤立していた。パワートレイン実験部は開発の最終段階にあり、問題が発覚してももはやエンジン設計の見直しや車両全体のレイアウトの変更ができない状態だった。担当者にいたっては、課題を部に持ち帰っても、室長、部長、担当役員が課題解決のための頼れる相談相手になっていなかったとある。
また他部署の担当者は、セクショナリズムにより自部署に余計な課題を持ち帰らないという考えに陥っていたという。もちろんこれら以外にも、
・役員が必要以上に現場に口を出すため、現場が萎縮して判断や検討を放棄する体質
・「無理」を「可能」にしようとする現場の頑張りや献身性を上長が礼賛する風土
・問題を指摘するといったものが解決を指示される「いったもの負け」の風土
・マネジメントする仕組みの軽視
・不十分なチェック機能
・本来分離すべき開発業務と認証業務を同じ部署が担当
を報告書では指摘している。
騒動が映し出す日本企業共通の課題
豊田自動織機のウェブサイト(画像:豊田自動織機)
豊田自動織機の件は、「受託体質」があったとはいえトヨタ自動車は関係者に違いない。ダイハツ工業や日野自動車は、トヨタ自動車の関与というより、部長級以上の役職者の無作為および現場への過度なプレッシャー、セクト意識や不正に関与した部署や担当者の孤立にあるように思える。
トヨタ自動車関連では、ここに挙げた不正のほか、過去にはレクサス販売店における車検不正もあった。
このレクサス販売店における車検不正では、
・販売店の人員や設備が、仕事量の増加に追い付かないことによる負荷
・車検制度への認識不足
・販売店の幹部と現場との風通し・風土
を、トヨタ自動車は不正の背景として公表している。レクサス販売店も、先の報告書で指摘している不正の背景と一致している部分が多いのではないだろうか。
いや、冷静に考えると、「経営陣と現場の意識の断絶」「現場への過度なプレッシャー」「セクショナリズム」は、日本国内で何かことが起こるたびに耳にするフレーズだ。ということは、トヨタ自動車グループの一連の騒動は、トヨタ自動車や自動車業界というより、日本のゆがんだ部分そのものといえる。山本哲也(交通ライター)
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「トヨタはトップのビジョンがぼやけている」米誌オピニオンがビジョン説明会を総括
2/8(木) 11:30配信 クーリエ・ジャポン
1月30日、豊田章男会長はグループ17社のリーダーたちを集め、トヨタのグループビジョンについて語った。
この説明会は日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機と、グループ企業内での不正が相次いで発覚したことを受け、当初の開催日(同社創業者の豊田佐吉の誕生日である2月14日)より前倒しで開催された。
米メディア「ブルームバーグ」でオピニオン・コラムニストを務めるティム・クルパンは同説明会での豊田の発言に対し、「トヨタは世界最大の自動車メーカーとして君臨し続けるためのビジョンがぼやけている」と批判する。
豊田は一連の不正を受け、「主権を現場に戻す」と語っている。社内の立場に関係なく、誰でも経営に対して意見できる環境を作りあげてきたと自負する豊田は、いまこそ現場経営に立ち戻ると宣言したのだった。
しかし、クルパンはトヨタに必要なステップは主権を現場に戻すことではないと指摘し、「トヨタの足をすくっているのはコンプライアンスの問題であり、トップがまずこれを徹底する必要がある」と書く。
コラム内では、トヨタがコンプライアンスに従事する従業員や基準達成のために必要なエンジニアの増員も約束できたはずだとも付け加えられている。
「トヨタに必要なのは、認証試験における不正に対処するための計画だが、不正問題が表面化して1年以上経っても、具体策を打ち出していない。多くの安全基準が厳しすぎる、コンプライアンスが煩雑だという議論はあるが、意思決定を関連会社に委ねても問題は解決しないだろう」
説明会後、報道陣からは「今後の具体的な取り組みについて教えてほしい」という質問が上がったが、これに対して豊田は「具体的な取り組みは特にない」と回答した。各リーダーには主権を現場と商品に戻すことの意味を考えてほしいと伝えるのみだった。
しかし、不正問題の対処であれEVへのシフトであれ、求められるのはトップのビジョンだとカルパンは述べている。
「豊田は『私が変革をリードする』と語りましたが、トヨタが世界一に君臨し続けるためには彼のビジョンは明確でなければいけない」
他の海外メディアはトヨタをどう報じているのか
トヨタのEV戦略をめぐっては、他の海外メディアでも批評が飛び交っている。その多くは世界一の自動車メーカーであるにもかかわらず、EV市場の競争ではテスラやBYDの後塵を拝し、ガソリン車販売による残存者利益に甘んじているという趣旨のものだ。
しかし、2023年11月にトヨタが過去最高益を達成する見込みであると発表し、EV市場が冷え込むなかでハイブリッド車が同社の売り上げを牽引したことから、「トヨタの戦略の正しさは後々証明されるかもしれない」と報じるメディアも目立ち始めた。
また12月には、トヨタ・ヨーロッパの中田佳宏CEOが、2026年までに約15種類のバッテリー式EVを欧州市場向けに納入する見込みであると発表しており、現地生産の可能性も示した。技術面でも、開発を進めるEV用の「全固体電池」の技術革新が進み、ゲームチェンジャーになる可能性を秘めている。
しかし、いかなる車を製造しようともコンプライアンスの課題はつきまとう。「現場経営」への回帰で不正体質からの脱却は図れるか──今後の動静に注目したい。COURRiER Japon
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トヨタグループの相次ぐ不正は“日本の歪み”そのものだ 「現場との断絶」「セクショナリズム」、第三者委の調査書を改めて読む
2024.02.24 05:40 Merkmal
豊田自動織機:「受託体質」に代表される企業体質
豊田自動織機による、ディーゼルエンジン認証取得時の不正問題が大きな波紋を広げている。直近ではダイハツ工業の不正問題もあり、トヨタ自動車グループとして責任や経営のあり方について厳しい視線が向けられている。
そこで、不正事象にどのような背景があったのか再確認すべく、豊田自動織機、ダイハツ工業、日野自動車の第三者委員会による調査報告書を改めて読む。
豊田自動織機の報告書では、一連の不正におよんだ根本原因として、
・受託体質
・産業車両用エンジンの軽視
・エンジン事業部の幹部らのリスク感度の低さ
といった企業体質・組織風土に加え、
「事業部体制の弊害とそれをカバーするための経営陣の取り組み不足」
が挙げられている。
受託体質については、自動車用エンジン開発の責任を負う主体はトヨタ自動車であり、トヨタ自動車から求められるままエンジン開発を行ってきた側面が強いと指摘。また、受託体質により、タイトな開発スケジュールを突きつけられても見直せず、担当者が部長級に相談しても「何とかしろ」といわれる雰囲気があり、半ば諦めていて報告しなかったという。
なお報告書では、タイトな開発スケジュールの設定が問題ではなく、合理性の判断や不測の事態が発生した時に合理的な方向へ修正することができるかどうかが問題だと指摘している。
ダイハツ工業:極度のプレッシャー下の現場担当者
ダイハツ工業の場合、一番古いもので1989(平成元)年に不正行為が認められ、2014年以降の期間で不正行為の件数が増加していた。なお、ダイハツ工業とトヨタ自動車の関係は、1967(昭和42)年に業務提携を開始し、1998年にトヨタ自動車の子会社となり、2016年8月にトヨタ自動車の完全子会社となっている。
不正行為の直接的な原因やその背景については
・過度にタイトで硬直的な開発スケジュール
・現場任せで関与しない幹部
・チェック体制の不備
・法規の不十分な理解
・現場の担当者のコンプライアンス意識の希薄化
が挙げられている。
このほか、「自分や自分の工程さえよければよい」という組織風土が加わり、認証試験担当者へのプレッシャーや部門のブラックボックス化を促進したとある。
「現場任せで関与しない幹部」については、部長級以上の役職者が、現場レベルの不正行為を指示し、黙認したというような事実は見つからなかった。一方で、部長級以上の役職者が課題解決に関与しない体制により、「極度のプレッシャーに晒(さら)されて追い込まれた現場の担当者に問題の解決が委ねられた」という。
豊田自動織機の、「部長級に相談しても「何とかしろ」といわれる雰囲気がある」と似通っているといえよう。
この点について報告書では、一連の不正問題で「まずもって責められるべきは不正を行った従業員ではなくダイハツの経営幹部である」と断罪。
さらには、低コストで良質な自動車の短期開発は、営利企業である以上問題ないが、経営幹部のそれにともなうリスクや弊害を察知する感度が鈍かったと指摘している。
日野自動車:意識の断絶とセクショナリズム
日野自動車は、2022年3月に、日本市場向け車両用エンジンの排出ガスおよび燃費に関する認証申請において不正行為を確認したと公表。なお、日野自動車とトヨタ自動車との関係は、1966(昭和41)年に業務提携、2001(平成13)年に日野自動車株の過半を取得し子会社化という経緯をたどっている。
不正を行ったのは、認証申請のための劣化耐久試験や測定を行うパワートレイン実験部で、数値の書き換えや有利に働くように諸元値にげたを履かせるなどした。
調査委員会は、調査の初期の過程で「全役職員一丸となって、全体感あるクルマづくりを行なっていない」と感じたそうだ。具体的には、経営陣と現場の間に、クルマづくりを指示する側と指示される側という意識の断絶が生まれていたという。
さらには、セクショナリズムにより、不正の舞台となったパワートレイン実験部そのものや、担当者が孤立していた。パワートレイン実験部は開発の最終段階にあり、問題が発覚してももはやエンジン設計の見直しや車両全体のレイアウトの変更ができない状態だった。担当者にいたっては、課題を部に持ち帰っても、室長、部長、担当役員が課題解決のための頼れる相談相手になっていなかったとある。
また他部署の担当者は、セクショナリズムにより自部署に余計な課題を持ち帰らないという考えに陥っていたという。もちろんこれら以外にも、
・役員が必要以上に現場に口を出すため、現場が萎縮して判断や検討を放棄する体質
・「無理」を「可能」にしようとする現場の頑張りや献身性を上長が礼賛する風土
・問題を指摘するといったものが解決を指示される「いったもの負け」の風土
・マネジメントする仕組みの軽視
・不十分なチェック機能
・本来分離すべき開発業務と認証業務を同じ部署が担当
を報告書では指摘している。
騒動が映し出す日本企業共通の課題
豊田自動織機の件は、「受託体質」があったとはいえトヨタ自動車は関係者に違いない。ダイハツ工業や日野自動車は、トヨタ自動車の関与というより、部長級以上の役職者の無作為および現場への過度なプレッシャー、セクト意識や不正に関与した部署や担当者の孤立にあるように思える。
トヨタ自動車関連では、ここに挙げた不正のほか、過去にはレクサス販売店における車検不正もあった。
このレクサス販売店における車検不正では、
・販売店の人員や設備が、仕事量の増加に追い付かないことによる負荷
・車検制度への認識不足
・販売店の幹部と現場との風通し・風土
を、トヨタ自動車は不正の背景として公表している。レクサス販売店も、先の報告書で指摘している不正の背景と一致している部分が多いのではないだろうか。
いや、冷静に考えると、「経営陣と現場の意識の断絶」「現場への過度なプレッシャー」「セクショナリズム」は、日本国内で何かことが起こるたびに耳にするフレーズだ。ということは、トヨタ自動車グループの一連の騒動は、トヨタ自動車や自動車業界というより、日本のゆがんだ部分そのものといえる。
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トヨタ・豊田章男会長に社外取締役が実名で苦言 「副社長を次々放逐して、率直に物を言う人がいなくなった」 《グループ3社で不正が連続発覚》
2/21(水) 16:12配信 文春オンライン
グループ会社3社での検査不正が相次いで発覚したトヨタ自動車。同社の社外取締役を務める菅原郁郎氏(66)が「 週刊文春 」の取材に応じ、豊田章男会長(67)の経営姿勢に苦言を呈した。
創業家出身で絶対的な存在とされる豊田会長に対する社外取締役からの苦言は、大きな波紋を呼びそうだ。
豊田会長は「トヨタにものが言いづらい点もあると思う」
トヨタのグループ会社による検査不正は昨年末から立て続けに明るみに出た。子会社のダイハツ工業は昨年12月20日、車両の認証試験で過去30年以上、データの捏造や改ざんを行っていた事実を公表。「ミライース」など10車種で出荷停止を余儀なくされた。
グループ会社の豊田自動織機も1月29日、トヨタ車「ハイエース」などのエンジン認証試験で不正があった事実を公表。さらに子会社の日野自動車でも2022年、トラックなどのエンジン燃費試験で不正があったことが報告されている。
1月30日に行われたグループビジョン説明会で、豊田会長は「極めて重いことだと受け止めております」と謝罪するとともに、不正を招いた背景には「トヨタにものが言いづらい点もあると思う」などと述べた。
2/23(金) 6:11配信 Merkmal
豊田自動織機による、ディーゼルエンジン認証取得時の不正問題が大きな波紋を広げている。直近ではダイハツ工業の不正問題もあり、トヨタ自動車グループとして責任や経営のあり方について厳しい視線が向けられている。
そこで、不正事象にどのような背景があったのか再確認すべく、豊田自動織機、ダイハツ工業、日野自動車の第三者委員会による調査報告書を改めて読む。
豊田自動織機の報告書では、一連の不正におよんだ根本原因として、
・受託体質
・産業車両用エンジンの軽視
・エンジン事業部の幹部らのリスク感度の低さ
といった企業体質・組織風土に加え、
「事業部体制の弊害とそれをカバーするための経営陣の取り組み不足」
が挙げられている。
受託体質については、自動車用エンジン開発の責任を負う主体はトヨタ自動車であり、トヨタ自動車から求められるままエンジン開発を行ってきた側面が強いと指摘。また、受託体質により、タイトな開発スケジュールを突きつけられても見直せず、担当者が部長級に相談しても「何とかしろ」といわれる雰囲気があり、半ば諦めていて報告しなかったという。
なお報告書では、タイトな開発スケジュールの設定が問題ではなく、合理性の判断や不測の事態が発生した時に合理的な方向へ修正することができるかどうかが問題だと指摘している。
ダイハツ工業:極度のプレッシャー下の現場担当者
ダイハツ工業のウェブサイト(画像:ダイハツ工業)
ダイハツ工業の場合、一番古いもので1989(平成元)年に不正行為が認められ、2014年以降の期間で不正行為の件数が増加していた。なお、ダイハツ工業とトヨタ自動車の関係は、1967(昭和42)年に業務提携を開始し、1998年にトヨタ自動車の子会社となり、2016年8月にトヨタ自動車の完全子会社となっている。
不正行為の直接的な原因やその背景については
・過度にタイトで硬直的な開発スケジュール
・現場任せで関与しない幹部
・チェック体制の不備
・法規の不十分な理解
・現場の担当者のコンプライアンス意識の希薄化
が挙げられている。
このほか、「自分や自分の工程さえよければよい」という組織風土が加わり、認証試験担当者へのプレッシャーや部門のブラックボックス化を促進したとある。
「現場任せで関与しない幹部」については、部長級以上の役職者が、現場レベルの不正行為を指示し、黙認したというような事実は見つからなかった。一方で、部長級以上の役職者が課題解決に関与しない体制により、「極度のプレッシャーに晒(さら)されて追い込まれた現場の担当者に問題の解決が委ねられた」という。
豊田自動織機の、「部長級に相談しても「何とかしろ」といわれる雰囲気がある」と似通っているといえよう。
この点について報告書では、一連の不正問題で「まずもって責められるべきは不正を行った従業員ではなくダイハツの経営幹部である」と断罪。
さらには、低コストで良質な自動車の短期開発は、営利企業である以上問題ないが、経営幹部のそれにともなうリスクや弊害を察知する感度が鈍かったと指摘している。
日野自動車:意識の断絶とセクショナリズム
日野自動車のウェブサイト(画像:日野自動車)
日野自動車は、2022年3月に、日本市場向け車両用エンジンの排出ガスおよび燃費に関する認証申請において不正行為を確認したと公表。なお、日野自動車とトヨタ自動車との関係は、1966(昭和41)年に業務提携、2001(平成13)年に日野自動車株の過半を取得し子会社化という経緯をたどっている。
不正を行ったのは、認証申請のための劣化耐久試験や測定を行うパワートレイン実験部で、数値の書き換えや有利に働くように諸元値にげたを履かせるなどした。
調査委員会は、調査の初期の過程で「全役職員一丸となって、全体感あるクルマづくりを行なっていない」と感じたそうだ。具体的には、経営陣と現場の間に、クルマづくりを指示する側と指示される側という意識の断絶が生まれていたという。
さらには、セクショナリズムにより、不正の舞台となったパワートレイン実験部そのものや、担当者が孤立していた。パワートレイン実験部は開発の最終段階にあり、問題が発覚してももはやエンジン設計の見直しや車両全体のレイアウトの変更ができない状態だった。担当者にいたっては、課題を部に持ち帰っても、室長、部長、担当役員が課題解決のための頼れる相談相手になっていなかったとある。
また他部署の担当者は、セクショナリズムにより自部署に余計な課題を持ち帰らないという考えに陥っていたという。もちろんこれら以外にも、
・役員が必要以上に現場に口を出すため、現場が萎縮して判断や検討を放棄する体質
・「無理」を「可能」にしようとする現場の頑張りや献身性を上長が礼賛する風土
・問題を指摘するといったものが解決を指示される「いったもの負け」の風土
・マネジメントする仕組みの軽視
・不十分なチェック機能
・本来分離すべき開発業務と認証業務を同じ部署が担当
を報告書では指摘している。
騒動が映し出す日本企業共通の課題
豊田自動織機のウェブサイト(画像:豊田自動織機)
豊田自動織機の件は、「受託体質」があったとはいえトヨタ自動車は関係者に違いない。ダイハツ工業や日野自動車は、トヨタ自動車の関与というより、部長級以上の役職者の無作為および現場への過度なプレッシャー、セクト意識や不正に関与した部署や担当者の孤立にあるように思える。
トヨタ自動車関連では、ここに挙げた不正のほか、過去にはレクサス販売店における車検不正もあった。
このレクサス販売店における車検不正では、
・販売店の人員や設備が、仕事量の増加に追い付かないことによる負荷
・車検制度への認識不足
・販売店の幹部と現場との風通し・風土
を、トヨタ自動車は不正の背景として公表している。レクサス販売店も、先の報告書で指摘している不正の背景と一致している部分が多いのではないだろうか。
いや、冷静に考えると、「経営陣と現場の意識の断絶」「現場への過度なプレッシャー」「セクショナリズム」は、日本国内で何かことが起こるたびに耳にするフレーズだ。ということは、トヨタ自動車グループの一連の騒動は、トヨタ自動車や自動車業界というより、日本のゆがんだ部分そのものといえる。山本哲也(交通ライター)
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「トヨタはトップのビジョンがぼやけている」米誌オピニオンがビジョン説明会を総括
2/8(木) 11:30配信 クーリエ・ジャポン
1月30日、豊田章男会長はグループ17社のリーダーたちを集め、トヨタのグループビジョンについて語った。
この説明会は日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機と、グループ企業内での不正が相次いで発覚したことを受け、当初の開催日(同社創業者の豊田佐吉の誕生日である2月14日)より前倒しで開催された。
米メディア「ブルームバーグ」でオピニオン・コラムニストを務めるティム・クルパンは同説明会での豊田の発言に対し、「トヨタは世界最大の自動車メーカーとして君臨し続けるためのビジョンがぼやけている」と批判する。
豊田は一連の不正を受け、「主権を現場に戻す」と語っている。社内の立場に関係なく、誰でも経営に対して意見できる環境を作りあげてきたと自負する豊田は、いまこそ現場経営に立ち戻ると宣言したのだった。
しかし、クルパンはトヨタに必要なステップは主権を現場に戻すことではないと指摘し、「トヨタの足をすくっているのはコンプライアンスの問題であり、トップがまずこれを徹底する必要がある」と書く。
コラム内では、トヨタがコンプライアンスに従事する従業員や基準達成のために必要なエンジニアの増員も約束できたはずだとも付け加えられている。
「トヨタに必要なのは、認証試験における不正に対処するための計画だが、不正問題が表面化して1年以上経っても、具体策を打ち出していない。多くの安全基準が厳しすぎる、コンプライアンスが煩雑だという議論はあるが、意思決定を関連会社に委ねても問題は解決しないだろう」
説明会後、報道陣からは「今後の具体的な取り組みについて教えてほしい」という質問が上がったが、これに対して豊田は「具体的な取り組みは特にない」と回答した。各リーダーには主権を現場と商品に戻すことの意味を考えてほしいと伝えるのみだった。
しかし、不正問題の対処であれEVへのシフトであれ、求められるのはトップのビジョンだとカルパンは述べている。
「豊田は『私が変革をリードする』と語りましたが、トヨタが世界一に君臨し続けるためには彼のビジョンは明確でなければいけない」
他の海外メディアはトヨタをどう報じているのか
トヨタのEV戦略をめぐっては、他の海外メディアでも批評が飛び交っている。その多くは世界一の自動車メーカーであるにもかかわらず、EV市場の競争ではテスラやBYDの後塵を拝し、ガソリン車販売による残存者利益に甘んじているという趣旨のものだ。
しかし、2023年11月にトヨタが過去最高益を達成する見込みであると発表し、EV市場が冷え込むなかでハイブリッド車が同社の売り上げを牽引したことから、「トヨタの戦略の正しさは後々証明されるかもしれない」と報じるメディアも目立ち始めた。
また12月には、トヨタ・ヨーロッパの中田佳宏CEOが、2026年までに約15種類のバッテリー式EVを欧州市場向けに納入する見込みであると発表しており、現地生産の可能性も示した。技術面でも、開発を進めるEV用の「全固体電池」の技術革新が進み、ゲームチェンジャーになる可能性を秘めている。
しかし、いかなる車を製造しようともコンプライアンスの課題はつきまとう。「現場経営」への回帰で不正体質からの脱却は図れるか──今後の動静に注目したい。COURRiER Japon
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トヨタグループの相次ぐ不正は“日本の歪み”そのものだ 「現場との断絶」「セクショナリズム」、第三者委の調査書を改めて読む
2024.02.24 05:40 Merkmal
豊田自動織機:「受託体質」に代表される企業体質
豊田自動織機による、ディーゼルエンジン認証取得時の不正問題が大きな波紋を広げている。直近ではダイハツ工業の不正問題もあり、トヨタ自動車グループとして責任や経営のあり方について厳しい視線が向けられている。
そこで、不正事象にどのような背景があったのか再確認すべく、豊田自動織機、ダイハツ工業、日野自動車の第三者委員会による調査報告書を改めて読む。
豊田自動織機の報告書では、一連の不正におよんだ根本原因として、
・受託体質
・産業車両用エンジンの軽視
・エンジン事業部の幹部らのリスク感度の低さ
といった企業体質・組織風土に加え、
「事業部体制の弊害とそれをカバーするための経営陣の取り組み不足」
が挙げられている。
受託体質については、自動車用エンジン開発の責任を負う主体はトヨタ自動車であり、トヨタ自動車から求められるままエンジン開発を行ってきた側面が強いと指摘。また、受託体質により、タイトな開発スケジュールを突きつけられても見直せず、担当者が部長級に相談しても「何とかしろ」といわれる雰囲気があり、半ば諦めていて報告しなかったという。
なお報告書では、タイトな開発スケジュールの設定が問題ではなく、合理性の判断や不測の事態が発生した時に合理的な方向へ修正することができるかどうかが問題だと指摘している。
ダイハツ工業:極度のプレッシャー下の現場担当者
ダイハツ工業の場合、一番古いもので1989(平成元)年に不正行為が認められ、2014年以降の期間で不正行為の件数が増加していた。なお、ダイハツ工業とトヨタ自動車の関係は、1967(昭和42)年に業務提携を開始し、1998年にトヨタ自動車の子会社となり、2016年8月にトヨタ自動車の完全子会社となっている。
不正行為の直接的な原因やその背景については
・過度にタイトで硬直的な開発スケジュール
・現場任せで関与しない幹部
・チェック体制の不備
・法規の不十分な理解
・現場の担当者のコンプライアンス意識の希薄化
が挙げられている。
このほか、「自分や自分の工程さえよければよい」という組織風土が加わり、認証試験担当者へのプレッシャーや部門のブラックボックス化を促進したとある。
「現場任せで関与しない幹部」については、部長級以上の役職者が、現場レベルの不正行為を指示し、黙認したというような事実は見つからなかった。一方で、部長級以上の役職者が課題解決に関与しない体制により、「極度のプレッシャーに晒(さら)されて追い込まれた現場の担当者に問題の解決が委ねられた」という。
豊田自動織機の、「部長級に相談しても「何とかしろ」といわれる雰囲気がある」と似通っているといえよう。
この点について報告書では、一連の不正問題で「まずもって責められるべきは不正を行った従業員ではなくダイハツの経営幹部である」と断罪。
さらには、低コストで良質な自動車の短期開発は、営利企業である以上問題ないが、経営幹部のそれにともなうリスクや弊害を察知する感度が鈍かったと指摘している。
日野自動車:意識の断絶とセクショナリズム
日野自動車は、2022年3月に、日本市場向け車両用エンジンの排出ガスおよび燃費に関する認証申請において不正行為を確認したと公表。なお、日野自動車とトヨタ自動車との関係は、1966(昭和41)年に業務提携、2001(平成13)年に日野自動車株の過半を取得し子会社化という経緯をたどっている。
不正を行ったのは、認証申請のための劣化耐久試験や測定を行うパワートレイン実験部で、数値の書き換えや有利に働くように諸元値にげたを履かせるなどした。
調査委員会は、調査の初期の過程で「全役職員一丸となって、全体感あるクルマづくりを行なっていない」と感じたそうだ。具体的には、経営陣と現場の間に、クルマづくりを指示する側と指示される側という意識の断絶が生まれていたという。
さらには、セクショナリズムにより、不正の舞台となったパワートレイン実験部そのものや、担当者が孤立していた。パワートレイン実験部は開発の最終段階にあり、問題が発覚してももはやエンジン設計の見直しや車両全体のレイアウトの変更ができない状態だった。担当者にいたっては、課題を部に持ち帰っても、室長、部長、担当役員が課題解決のための頼れる相談相手になっていなかったとある。
また他部署の担当者は、セクショナリズムにより自部署に余計な課題を持ち帰らないという考えに陥っていたという。もちろんこれら以外にも、
・役員が必要以上に現場に口を出すため、現場が萎縮して判断や検討を放棄する体質
・「無理」を「可能」にしようとする現場の頑張りや献身性を上長が礼賛する風土
・問題を指摘するといったものが解決を指示される「いったもの負け」の風土
・マネジメントする仕組みの軽視
・不十分なチェック機能
・本来分離すべき開発業務と認証業務を同じ部署が担当
を報告書では指摘している。
騒動が映し出す日本企業共通の課題
豊田自動織機の件は、「受託体質」があったとはいえトヨタ自動車は関係者に違いない。ダイハツ工業や日野自動車は、トヨタ自動車の関与というより、部長級以上の役職者の無作為および現場への過度なプレッシャー、セクト意識や不正に関与した部署や担当者の孤立にあるように思える。
トヨタ自動車関連では、ここに挙げた不正のほか、過去にはレクサス販売店における車検不正もあった。
このレクサス販売店における車検不正では、
・販売店の人員や設備が、仕事量の増加に追い付かないことによる負荷
・車検制度への認識不足
・販売店の幹部と現場との風通し・風土
を、トヨタ自動車は不正の背景として公表している。レクサス販売店も、先の報告書で指摘している不正の背景と一致している部分が多いのではないだろうか。
いや、冷静に考えると、「経営陣と現場の意識の断絶」「現場への過度なプレッシャー」「セクショナリズム」は、日本国内で何かことが起こるたびに耳にするフレーズだ。ということは、トヨタ自動車グループの一連の騒動は、トヨタ自動車や自動車業界というより、日本のゆがんだ部分そのものといえる。
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トヨタ・豊田章男会長に社外取締役が実名で苦言 「副社長を次々放逐して、率直に物を言う人がいなくなった」 《グループ3社で不正が連続発覚》
2/21(水) 16:12配信 文春オンライン
グループ会社3社での検査不正が相次いで発覚したトヨタ自動車。同社の社外取締役を務める菅原郁郎氏(66)が「 週刊文春 」の取材に応じ、豊田章男会長(67)の経営姿勢に苦言を呈した。
創業家出身で絶対的な存在とされる豊田会長に対する社外取締役からの苦言は、大きな波紋を呼びそうだ。
豊田会長は「トヨタにものが言いづらい点もあると思う」
トヨタのグループ会社による検査不正は昨年末から立て続けに明るみに出た。子会社のダイハツ工業は昨年12月20日、車両の認証試験で過去30年以上、データの捏造や改ざんを行っていた事実を公表。「ミライース」など10車種で出荷停止を余儀なくされた。
グループ会社の豊田自動織機も1月29日、トヨタ車「ハイエース」などのエンジン認証試験で不正があった事実を公表。さらに子会社の日野自動車でも2022年、トラックなどのエンジン燃費試験で不正があったことが報告されている。
1月30日に行われたグループビジョン説明会で、豊田会長は「極めて重いことだと受け止めております」と謝罪するとともに、不正を招いた背景には「トヨタにものが言いづらい点もあると思う」などと述べた。