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整備白書R2年より その5(レバーレートを思考する)

2021-11-27 | 問題提起
整備白書R2年より その5(レバーレートを思考する)

1.レバーレートの基礎
 今回はレバーレートの計算について思考してみたい。

 まず、個別の整備料金の計算式を答えて欲しいと問われれば、以下の様な返答となるだろう。

 工賃=工数(損保指数もしくは日整連点数表もしくは何らかの工数)×レバーレート

 つまり、以下の算式になることがであることが判るだろう。

 レバーレート=工賃(売上)/工数(直接作業時間)

 ここで、整備工場なりの1日の就業時間を、就業開始を午前8:00とし、終業終了を午後5:00(17:00)とすれば、1日の拘束時間は9hであることが判る。しかし、12:00~13:00までの昼食兼休憩時間を1hとすれば、1日の実働(労働)時間は8hであることが判る。

 ただし、ここでの実働時間がすべて売上に寄与できるかとなると、なかなかそうはいかない現実が見えて来る。つまり、実働時間には、工賃売上に関与できる直接作業時間(該当整備を行っている時間)と間接作業時間と呼ばれる売上に直接寄与できない時間に分けることができる。

 この間接作業時間の具体的事例としては、納車引き取りとか、部品待ちだとか作業の指示待ちなどの時間が相当すると云われている。そして、実働時間に占める直接作業時間の比率は、かなり以前から68%だと云われ、様々なレバーレートの計算に使われている。しかし、この68%が実際の整備工場の実情に合っているのかと云うことは、余程時間管理をしっかりした工場でなければ判らないのであって、おそらくだが、およそレバーレートという工賃の原価意識の薄い日本の工場では自社の稼働率が何%が妥当かを把握している工場は希なことと思える。また、この間接作業時間の考え方そのものにも、例えば研修受講だとか自助努力としての日頃の自己研鑽に励む時間は一切思考されていないという問題もあるのだが、このことは、後段の項で改めて記してみたい。

 さて、話しを戻して、ある整備工場の年間の実働時間を1日8hとして、総出勤日数だがディーラーでは週休2日休みで、一般工場の中には隔週土曜日休みとか、休日は日曜だけという工場もあるのかもと対応は色々な事例があるだろう。ここでは、一応、年間総日数365日を前提(これは52週に相当)に、土曜は隔週休み、祭日は休みで現在年間16日と夏期休暇とか正月休みがある訳だが、ここでは労基法で定められた年間有給休暇上限として20日を加算すると休日総日数は114日と仮定する。となると、年間稼働日数は251日(365-114)となる。これに、1日の実働時間8hを乗じると2,008hとなる。以後、計算簡略化のため、年間の実働時間を2,000hとして計算を進めたい。

 次に、稼働率は果たして68%が妥当なのかは別として、2,000hにこれを乗じると、1,360hというのが直接作業時間ということになる。

 ここで、冒頭のレバーレートの計算に、あなたの(もしくはあなたの工場全体)の年間工賃売上が積算できれば、それをこの1,360hで除せば、現在のレバーレートが計算できる訳だ。(工場全体の場合は工賃売上を工員数で除さねばならない)

 また、もっと身近に計算してみたいなら、ある月の自らの工賃売上を積算しておいて、1,360/12
≒113hとして除しても良い。どうだろうか、これがあなたの1時間当りの工賃売値なのだが、もらう給与に比べ高過ぎるという意識を持たれる場合があるだろうが、ここにはあなたの努力もあるが、工場を運営すべき工場費だとか、工員以外の間接人員の人件費など入っていないから当然なのだ。

2.建前としてのレバーレートの正式計算式
 現在、慣習的に使われているレバーレートの計算式は以下となる。

レバーレート=(年間)工賃総原価(直接工員1名当り平均)/年間直接作業時間(実働時間×0.68)

 ここで、工賃総原価とは以下の積算値を工員数で除したものだ。
・工場費(工場の家賃や設備の減価償却費もしくは家賃かリース料、光熱費、通信費、営業費など)
・一般管理費(間接人員人件費+役員報酬)

 この中で問題になるのが一般管理費だろう。つまり、ある工場が、整備売上に伴い、部品売上、外注売上は当然のこととして、兼業部門として新車、中古車販売だとか石油系燃料販売などの兼業を行っており、経理上間接人件費が明確に区分できない場合は、その粗利でもって、一般管理費総額を按分して加算する必用があることだ。

 なお、この計算は該当年度の原価としてのレバーレートな訳だが、次年度はその工場の全従業員の給与アップとか工場の新たな設備投資計画、そして対外的な景気動向なども考慮しつつ基本的には値上げしていく思考を持たねばならない訳だ。ところが、今回の整備白書のその2でも述べたところだが、ディーラー以外の整備工場の平均年齢は約50才で平均年収360万円と云うことは、如何にこの業界に若者の新規委参入が少ないことを示しており、このままでは自然消滅する運命にあると思える。

3.私が思考するレバーレートとしての考え方
 先に一般的な慣習としてのレバーレートの計算を記したが、このことを思うに、これは単一物を多数繰り返し製造するいわゆる製造業に適用できる考え方が基本にある様に思える。一方、自動車整備だとかBP作業、それとか建設業で1品ものを作り続ける、非定型業務においては、この思考のままでは非常に理不尽な部分が見えてくると考えざるを得ないのだ。

 そもそも、自動車整備業やBP業は、税法上とか賃金センサス(国が行う各種業種の賃金統計)でも、製造業の区分ではなく、サービス業の区分に入るのだ。

 その要素は工数(指数や点数など)とレバーレートの2つの要素、そして稼働率の考え方にある様に思える。この内、工数要素については、別に記したいと思うが、レバーレートについてみれば、あまりにも損保にリードされ過ぎてしまったとか、整備原価をしっかり意識しないまま、ディーラー以外の整備工場で云えば工賃売上の約半分を占める車検整備の売上など、他工場が幾らだから家はもっと安くとか値段に走り過ぎてしまったという感を持つところだ。

 レバーレートもしかりで、ディーラーが幾らだから、他工場が幾らだからと、自社のレバーレートを原価として計算もせず、あまりにも意識の外において、レバーレートを決めている事例が多すぎる様に思えてならない。それが慣習的に何十年も積み重なった結果が、今の現状にあると悔い改める必用がある様に思えてならない。

 また、ユーザー理解を得ながら行わなければならないことだが、整備工員が売り上げるのは工賃売上だけでなく、部品や外注費にもその粗利に寄与している部分は多分にあることを意識しなければならないだろう。つまり、工員の診断だとか指摘により部品は発注の端緒を得るのであり、また事例としてドライブレコーダーの販売を用品としてした場合にあっては、工賃サービスなども営業努力として行う場合もあるだろうが、その粗利がレバーレートに一切反映されない点をどう思うだろうか。外注作業もそうで、外注先までクルマの移動を行ったり、付随した完成検査や洗車を行ったりと云う実態を知るとき、工賃売上だけがレバーレートの基礎数値になる矛盾を感じざるを得ない。

 そして、稼働率の考え方だが、単に仕事量が少なくて工員が無益な時間を過ごしているのなら、現状準用されている68%は、もしかしたら実態は50%を割り込んでいるのかもしれない。しかし、整備認証とか指定とか新しい機構の強いられた研修受講とか、仮に時間に余裕があるのなら、自己研鑽という意味での日頃の自助努力は欠かせない行為であるのが技術者たる整備工員やBP技能者の要素だと信じる。

 つまり、昨今はBP工場でも、分解整備認証だとか特定整備認証を取得する工場が増えつつあるが、これに伴いBP工場が整備振興会員になる例は増えている。しかし、全国に分解整備工場数は91,500で、ディーラーの16,300を除くと約75,200工場あるが、国産車なら全車種を見れるFAINES(ファイネス)というNet整備書閲覧システムがあり、振興会員なら僅か月額1,650円で見れるのだが、契約工場数は半数に満たないと聞いている。また、契約済みで見ることはできるのに関わらず、見たことないという工場も多いということも聞き及んでいる。そして、偶に整備士と話しをすると、Netの「みんカラ」など見て、いわゆる「ググッている」という話しだが、この思考はイカンじゃないかとすら思う。確かに整備情報としてNetを活用し、自ら情報発信するならいざ知らず、何処の誰が記したかも訳の判らない情報に頼るより、まずは正攻法としてメーカー自身の整備情報に当たることが基本になるのではないだろうか。そうして最新の知識にも追随しておくべき自助努力が、単に間接作業時間として無益な時間を過ごすことではなく、直接作業時間の攻略手法としての戦略・戦術としても生きるはずだろう。


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