私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

BSR誌のEDR記事から思う

2023-01-20 | 問題提起
BSR誌のEDR記事から思う
 これは、昨日知り合いの自動車板金工場より「読み終わり廃棄しようとしたBSR誌なのだが見る?」と聞かれ、「捨てるならもらうわ」ともらい受けたBSR(ボデーショップレポート)の最初に目に付いた2022年9月号に「EDRとその活用」なる記事を「石芳賢和」という署名入り記事で総ページ数16ページをザラッと見て記すものだ。 ※EDR=イベントデータレコーダー

 まず、このBSR誌だが、損保調査員の時代には、既にこのBSR以前の別名(忘却)時代より20年近くは読み続けていたが、損保退職と共に、購読は止めていた。この購読費用は、当然会社で購入するものではなく、自前で購入していたものであり、この他、自動車工学とか、関心ある各種の資料本など、かなり自前で購入し読み続けて来たつもりだ。

 さて、本論だが、EDR装置がどういうものかは、自己ブログ記事でも何度か記しているし、現在の様にボッシュ社がCDRなんたらという相当以前から、その様な機能を持つ装置がエアバッグECUに内蔵されていることは承知してきた。そんな中、今次読み始めた記事本文の2ページ目に「EDR装置は何故生まれ事故分析に活用されてきたのか」という項目で唖然とすることになった。

 と云うのは、先の項目冒頭で、この「石芳」氏曰く、「EDRは事故解析し、エアバッグが正常に作動するかを検証する目的で作られた」と記しているのだが、これは大きな認識間違いをしていると指摘せざるを得ない。結果として、事故解析というか、衝突の極一部の内容を自動記録することができるのは事実だが、EDR装着の目的は、車両メーカーのPL対策上の問題が第1番にある。つまり、事故が生じてエアバッグが作動しなかったとか、事故でないのに作動して負傷したとか、正常に作動したのだが、かなりの程度の負傷をしたとかの事例で、損害賠償の立場にメーカーが追い込まれることを考慮したということが知られている。

 つまり、もう少し具体例として記せば、エアバッグは正常に作動したが、その運転者は大きな負傷を生じて製造物責任(PL)を問われたとする。この場合、EDR装置には、エアバッグの点火信号が何時働いたとか、その時運転者がシートベルトをしていたかどうかが記録される項目がある。そこで、シートベルトをしていないということがEDR記録上判明すれば、エアバッグはその管頭詩としてSRS(サプリメンタルレスレトレイントシステム=補助的拘束機構)という意味で、その補助となる主体はシートベルトであり、シートベルトで体本体は保持し、保持できない頭部のみエアバッグで受けると云う前提であるので、PL訴訟は失当の問題だとはねつけることができるという問題だ。類似例としては、エアバッグ装置に関わる電気的な異常が生じていれば、予め警告灯が点灯しているが、その記録もつまり、なされており、それも速やかに修理を怠っていたという反論ができる訳だ。つまり、結論としては、事故解析的なデータを収集することもできるが、それはあくまでも副次的な問題であり、あくまで主体は車両メーカーのPL対策上のシステムだという認識を持つ必用がある。

 それと、プリクラッシュ(衝突前・正確にはエアバッグが作動する前)以前5秒間の車両速度を0.2秒間隔で連続して記録できるとしているが、この車両速度とはあくまでスピードメーターに表示される速度であることを意識せねばならない。つまり、車両整備の担当者なら、車検の検査項目にスピードメーターの誤差が上下許容範囲が許されていることを知るだろうが、平坦な路面であっても誤差は生じるものであり、この誤差とはタイヤの摩耗とか、その他要因で生じ得るものなのだ。

 さらに云えば、事故などで急制動してABS装置が働いている際は、タイヤと路面のスリップ率を20%前後に収束させる様な制御を行うし、車体の横滑りなどが生じた場面を各種の動画で見てもらえば判る通り、例えば急制動で真横に横滑りしている様な場合は、車輪はまったく回転していない、つまりスピードメーター速度はゼロになっている場合も十分あり得るのだ。そんな状態でも、車体の速度はゼロではなく、あるベクトルを持って進行しているのだ。従って、このEDRの速度は、必ずしも車両の実測度を示さない場合もあり得て、そのことは事故時の車両の挙動を十分考慮しつつ判断する必用があることを示しているのだ。

 それと、なかなか目に見えず、記録にも残らない事故時のデータを知り、正しい客観的な事故内容(事故解析などでは事故再現と呼ぶ)を得るためには、有用な面を否定するものではないのだが、損保とかましてや修理工場に何処までそのデータが役に立つのかと考えるといささか疑問を感じるところだ。例えば、このEDR解析システム(ボッシュ社ではCDRアナリスト)と呼んでいるが、これにはボッシュ社の講習やハードウェアを含め、導入当初に1人当り150万程度要し、その後も追加車種データのバージョンアップなどで数十万円の費用を提示されている様に聞く。これをあいおい損調社(現在損調社が残るのは東海日動とあいおいの2社のみ)では、28名にも導入している(導入当初費用計で4200万円)と云うが、導入から現在まで少なくとも1年は経過していると思われるが、その総括としての費用対効果を答えはしないだろうが聞いてみたいものだと考える。このことは、私があいおいの本社損害業務部の者なら、損調社に対し、費用対効果の総括書を提出せよと命じているだろう。

 また、一般板金工場などに対し、CDRアナリストより一段下の資格として、CDRテクニシャンというEDRデータのメタ(生)データの読み出しのみを行う売り込みをしている様子があり、その費用は不知だが、何処まで工場の売り上げに寄与できるのかと考えたとき、はなはだ難しいものがありそうに想像できる。このことは、過去に記した、様々な機械工具などの販売に際して、端的に記してしまえば「過剰な付加価値を訴求して商売」しているのではないかとすら思えてしまう。

【過去記事】
工具販売業者とか一般社団法人○○などの組織に思う
2022-12-23 | コラム
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/293efaac45de2fee5a0b434f6cc8d012


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。