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JR山手線の「意外な駅」にスパイが集結する理由

2024-07-24 | コラム
JR山手線の「意外な駅」にスパイが集結する理由
7/24(水) 6:02配信 ダイヤモンド・オンライン

 「スパイを密かに尾行する」。これはドラマや映画などのフィクションの話ではなく現実に日々行われていることだという。元警視庁公安部外事課所属の著者が、生々しいスパイとの攻防、スパイハンターの厳しさを語る。本稿は、勝丸円覚『警視庁公安捜査官 スパイハンターの知られざるリアル』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです。

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● 公安の表部隊と裏部隊の実態 時には尾行をアピールすることも

 スパイなどの対象者を尾行するチームには、外事警察の存在をあえて相手に知らしめて、相手の意図する行動をさせずに見張る「強制尾行チーム」(表部隊、表班)と、絶対にバレずに尾行する「秘匿尾行チーム」(裏部隊、追っかけ班)がある。

 オペレーションによって、「強制尾行」か「秘匿尾行」かは変わるのだが、国の重要人物に対してスパイが接近していることがわかった場合、表部隊がスパイをあえて徹底的にマークしてターゲットに近寄らせないようにする。

 マスコミなどには決して出ないが、これで未然にスパイ行為やテロ事件を防いだ事例はたくさんある。

 「強制尾行」をすることでスパイが任務を果たすことができないと、スパイは任期半ばで帰国することもある。

 秘匿捜査には、スパイに絶対にバレてはいけないというミッションがあるため細心の注意が必要であるが、強制尾行はあえて存在をアピールするのが任務でもあるので、公安捜査員たちにとって意外と楽しい仕事であったりする。

 例えば、通常、尾行はターゲットと50メートル以上離れて追尾をするが、「強制尾行」のときは、ドラマの尾行シーンのように、5メートルくらいまで近づいて「あなたを尾行していますよ」とバレバレのアピールをする。

 店の前で張るときも、店の出入り口のわかりやすい場所で待機して、スパイが出てきたとたん、外事捜査官が追尾したりする。

 一般の方は尾行された経験はないと思うが、バレバレの尾行は相手にとって「単なる嫌がらせ行為」なので、かなりのストレスになる。

 実際に、ロシアのスパイに対して「強制尾行」をしていたとき、公衆トイレの中でも隣にべったりマークしていた公安捜査官にキレて、

 「おまえたち、いい加減、ついてくるな!」

 と、食ってかかってきたスパイもいた。

 これが「秘匿尾行」になると、尾行する側がかなりのプレッシャーになる。仮に失尾した場合は、オペレーション自体が失敗に終わる可能性もあるからだ。チーム内の連携も大事な上、瞬時の状況判断が「秘匿尾行」の明暗をわけるのである。

 ちなみに私は「秘匿尾行」のほうが得意だった。スパイが尾行されていることに全く気付かず余裕の表情を見せているのを、秘匿尾行をしながら眺めるのはスパイハンター冥利に尽きるのである。

● スパイとハンターが尾行合戦? 誰も知らない水面下での静かな闘い

 公安捜査官がスパイを尾行していると、逆に相手に気づかれて尾行し返されることがある。

 ターゲットの組織も当然、公安の動きをつねに探っている。追ってくるとわかっていて、逆に尾行してきた公安捜査官を尾行し返すのは、

 「こちらも、あなたたち公安の動きは事前に察知していますよ」

 という暗黙のサインだったりする。

 それをわかった上で、公安の尾行班の捜査官は、尾行した日は必ず「点検」(尾行されていないか何度かチェックすること)と「消毒」(尾行者を振り切る行動)を徹底して行う。

 ただし、「点検」と「消毒」には、しやすい場所と、しにくい場所がある。当然、人の出入りが少ない場所は、「点検」はできても「消毒」はしにくい。

● JR山手線のある駅にスパイが集結? ストーカー対策にも使える秘策

 じつは、JR大塚駅は、ひとつのプラットホームに左右から電車が入って来る駅なので、スパイがよく「点検」と「消毒」をするために使う場所である。

 JR山手線外回りの電車に乗って大塚駅で降りて、改札に向かうと見せかけて、内回りの電車が来たときにさっと飛び乗るか、外回りの電車を降りて、内回りの電車に乗ると見せかけて、また外回りの電車に乗って撒くケースもある。

 または、そのまま大塚駅では降りないのかと思いきや、扉が閉じる寸前で降りて、そのまま都電荒川線に乗って逃げるケースもある。

 しかし、公安はスパイのそのような動きを「ある場所」からチェックして見破るテクニックがある。これは私がいた尾行チームしか知らない。ほかのチームには伝承されず極秘だった。

 逆に、公安側が「点検」「消毒」によく使う場所もあるが、これも他のチームと共有されることはない。

 また別の公安チームと現場で鉢合わせすることはよくある。その際、「目を合わせてはいけない」というルールがあった。

 もちろん他のチームのメンバーとは、飲み会などの行動もいっさい禁止だ。

 あるとき「とある場所」で、他のチームとすれ違ったことがある。誰かを尾行している様子はなかったので、「点検」と「消毒」をしていたのだろう。

 もちろん、すれ違っても目すら合わさない。ただ、お互い同じ場所で「点検」と「消毒」をしていたことがわかったので、その場所は二度と「点検」と「消毒」で使わなかった。

 そのような些細な接近遭遇でも、リスクがあるなら即回避する。それが公安のルールでもある。

 ちなみに、私もとくにスパイを追った日は、逆にスパイ仲間から追われる可能性もあることから、まっすぐ家には帰らず、必ず「点検」「消毒」をしてから帰っていた。

 この場所、このビルに持ち込んだら絶対に撒けるという自分が得意な場所を地区ごとに2、3か所作っておいたのだ。

 これは公安捜査員には必須のことで、一般人でもストーカーを撒く手段として使える。

● スパイに「家バレ」した捜査官の悲劇 トップスター並みの警戒心が必要

 私の現役時代の先輩の公安捜査官は、ある国のスパイ組織に自宅の住所がバレてしまったことがあった。

 その後、先輩の自宅の玄関の前には、動物の死骸を置かれたり、汚物が置かれたりした。また差出人不明の手紙で「お前の娘がひどい目に遭っても知らないぞ」と脅迫の手紙が送られてきたこともあった。

 それからしばらくの間、警察が定期的に家の近所をパトロールしたり、監視カメラを玄関の前につけたりして嫌がらせはなくなったそうだが、家バレは絶対に避けなければならない。

 賃貸の場合は引っ越せばいいのだが、持ち家の場合は簡単に引っ越すことは難しい。

 私の場合は、長い期間、秘匿捜査をしたり、危険な組織のターゲットを尾行したときは、自宅にはすぐに帰らず何日かホテルに滞在して安全を確認してから自宅に戻ったこともあった。

 家バレするということは、住んでいる場所がバレただけではなく、身バレ、顔バレしたということ。それは公安の仕事の継続が難しいことを意味する。

 ある意味、公安捜査官はどんなトップスターよりも、家バレしてはいけない存在でもあるのだ。

 私は現役時代の癖が抜けず、今でも家を出るとき、帰宅するとき、まずは周囲を見回して、怪しい人物がいないか、不審な物が置かれていないかチェックしてしまう。これはもう無意識レベルだ。

 家の前に見慣れない車が止まっていないか、挙動不審な人物がうろついていないか、不審物が放置されていないか、などは公安捜査官だけでなく、一般の人達もぜひチェックする癖をつけてほしい。

 その一瞬の「おや、変だな」という違和感が犯罪を未然に防ぎ、身の安全を確保することにつながるのを知っていただきたいと思う。勝丸円覚

#JR山手線の「意外な駅」にスパイが集結する理由


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