異変の兆しか…? トヨタ株主が白昼堂々「豊田章男を批判」それに対する章男会長の「驚愕の回答」
7/13(土) 7:00配信 現代ビジネス
取材・文 井上久男(ジャーナリスト)/'64年生まれ。大手電機メーカーを経て、'92年に朝日新聞社に入社。経済部で自動車産業や電機産業を担当し、'04年に独立。著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』『サイバースパイが日本を破壊する』ほか
一部の投資家が、章男会長に「退場」を求める――5兆円超の利益を叩き出したにもかかわらず、トヨタの株主総会はただならぬ雰囲気だった。あとから振り返れば、今が転換点となるのかもしれない。
「院政肯定」の衝撃
モータースポーツに時間を使い過ぎているのではないか。(豊田章男)会長の道楽になっているのではないか。いかがでしょうか――。
6月18日に開催されたトヨタ自動車の定時株主総会で「衝撃的な」質問が株主から出た。「衝撃的な」と敢えて付け加えたのは、トヨタグループでは内心、豊田会長の経営スタイルに疑念を抱く人が少なくないが、体制批判と受け止められることを恐れて、口に出せないことも多いとふだんの取材で感じているからだ。
そして、回答もある意味で衝撃的だった。豊田会長自らが「院政」という言葉を肯定的にとらえながら、自身の考えを表明したからだ。大企業のトップが公式の場で「院政」と自ら発言することは珍しいと筆者は思う。
豊田会長は「『いかがでしょうか』と言われても、どうお答えしたらいいのかではございますが」と前置きしたうえで、自身のガバナンス論を語った。その一部をトヨタのオウンドメディア『トヨタイムズ』から引用する。
「私自身が考えるガバナンスとは、支配や管理ではなく、一人ひとりが自ら考え動くことができる現場をつくること。それに尽きると思っております。
しかしながら、私の存在や行動というのは、院政とか道楽とか言われてしまいます。院政についてこれまた調べてみると、後三条天皇が摂関政治からの脱却を図るため、働き盛りのうちに譲位されたことがそもそもの始まりだったと、ものの本には書いてあります。
今、院政というと老害のようなネガティブなイメージがありますが、本来の院政はむしろ、新しい時代を切り開く気概に満ちたものであるということをぜひ皆さんにも分かっていただきたいと思います。(中略)私が(経営執行の)前工程としていろいろな相談に乗ることで、私の失敗体験を糧にし、若い執行メンバーが思い切って決断し、自らの成長につなげてほしい。そう願っています。それを院政と言われるのであれば、私は喜んで院政をしたいと思っております」
「相談」といっても…
現在、トヨタの執行トップは社長兼CEOの佐藤恒治氏であり、豊田会長は執行役員ではない。会長のこの発言を解説すると、佐藤社長以下で決めた方針について、自らがとやかく口を出してひっくり返すことはないが、決める前には相談に乗るということだろう。
とはいえ「決める前に相談」ということは、執行部の判断に豊田会長が大きな影響力を持つというのが一般的な捉え方ではないだろうか。そうした見方を裏付ける証言もある。トヨタの内情に詳しい関係者が説明する。
「車のデザインや人事など重要事項を決定するとき、豊田会長の顔色を窺いながら決まっていく流れが以前にも増して強まっている感じがする」
さらに別のトヨタ関係者はこう打ち明ける。
「トヨタの職場の一部では、『章男会長が発言する内容を、日頃からしっかりチェックしているか』を上司が部下に確認し、その結果が人事の査定にも影響しかねない雰囲気があるのです。
今、社内は『トヨタイムズ』の内容、つまり章男会長の言動に強い影響を受けた『洗脳』された社員らと、それに批判的だが、批判すると左遷されかねないので無関心を装っている社員らに大きく分かれているのです。
今年6月には、人事部長がまた退職した。先代の人事部長も'21年末に退職しましたから、これで2代連続。今のトヨタの内情を象徴する出来事かもしれません」
さらに今回の株主総会では、章男会長の「信任率」が大きく低下したことも話題となった。後編記事【トヨタで大異変…営業利益は5兆円なのに、章男会長の「信任率が爆下げ」してしまった「本質的な理由」】へ続く。
「週刊現代」2024年7月13日号より 週刊現代、井上 久男
#トヨタ株主が白昼堂々「豊田章男を批判」
7/13(土) 7:00配信 現代ビジネス
取材・文 井上久男(ジャーナリスト)/'64年生まれ。大手電機メーカーを経て、'92年に朝日新聞社に入社。経済部で自動車産業や電機産業を担当し、'04年に独立。著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』『サイバースパイが日本を破壊する』ほか
一部の投資家が、章男会長に「退場」を求める――5兆円超の利益を叩き出したにもかかわらず、トヨタの株主総会はただならぬ雰囲気だった。あとから振り返れば、今が転換点となるのかもしれない。
「院政肯定」の衝撃
モータースポーツに時間を使い過ぎているのではないか。(豊田章男)会長の道楽になっているのではないか。いかがでしょうか――。
6月18日に開催されたトヨタ自動車の定時株主総会で「衝撃的な」質問が株主から出た。「衝撃的な」と敢えて付け加えたのは、トヨタグループでは内心、豊田会長の経営スタイルに疑念を抱く人が少なくないが、体制批判と受け止められることを恐れて、口に出せないことも多いとふだんの取材で感じているからだ。
そして、回答もある意味で衝撃的だった。豊田会長自らが「院政」という言葉を肯定的にとらえながら、自身の考えを表明したからだ。大企業のトップが公式の場で「院政」と自ら発言することは珍しいと筆者は思う。
豊田会長は「『いかがでしょうか』と言われても、どうお答えしたらいいのかではございますが」と前置きしたうえで、自身のガバナンス論を語った。その一部をトヨタのオウンドメディア『トヨタイムズ』から引用する。
「私自身が考えるガバナンスとは、支配や管理ではなく、一人ひとりが自ら考え動くことができる現場をつくること。それに尽きると思っております。
しかしながら、私の存在や行動というのは、院政とか道楽とか言われてしまいます。院政についてこれまた調べてみると、後三条天皇が摂関政治からの脱却を図るため、働き盛りのうちに譲位されたことがそもそもの始まりだったと、ものの本には書いてあります。
今、院政というと老害のようなネガティブなイメージがありますが、本来の院政はむしろ、新しい時代を切り開く気概に満ちたものであるということをぜひ皆さんにも分かっていただきたいと思います。(中略)私が(経営執行の)前工程としていろいろな相談に乗ることで、私の失敗体験を糧にし、若い執行メンバーが思い切って決断し、自らの成長につなげてほしい。そう願っています。それを院政と言われるのであれば、私は喜んで院政をしたいと思っております」
「相談」といっても…
現在、トヨタの執行トップは社長兼CEOの佐藤恒治氏であり、豊田会長は執行役員ではない。会長のこの発言を解説すると、佐藤社長以下で決めた方針について、自らがとやかく口を出してひっくり返すことはないが、決める前には相談に乗るということだろう。
とはいえ「決める前に相談」ということは、執行部の判断に豊田会長が大きな影響力を持つというのが一般的な捉え方ではないだろうか。そうした見方を裏付ける証言もある。トヨタの内情に詳しい関係者が説明する。
「車のデザインや人事など重要事項を決定するとき、豊田会長の顔色を窺いながら決まっていく流れが以前にも増して強まっている感じがする」
さらに別のトヨタ関係者はこう打ち明ける。
「トヨタの職場の一部では、『章男会長が発言する内容を、日頃からしっかりチェックしているか』を上司が部下に確認し、その結果が人事の査定にも影響しかねない雰囲気があるのです。
今、社内は『トヨタイムズ』の内容、つまり章男会長の言動に強い影響を受けた『洗脳』された社員らと、それに批判的だが、批判すると左遷されかねないので無関心を装っている社員らに大きく分かれているのです。
今年6月には、人事部長がまた退職した。先代の人事部長も'21年末に退職しましたから、これで2代連続。今のトヨタの内情を象徴する出来事かもしれません」
さらに今回の株主総会では、章男会長の「信任率」が大きく低下したことも話題となった。後編記事【トヨタで大異変…営業利益は5兆円なのに、章男会長の「信任率が爆下げ」してしまった「本質的な理由」】へ続く。
「週刊現代」2024年7月13日号より 週刊現代、井上 久男
#トヨタ株主が白昼堂々「豊田章男を批判」