【書評】閉じていく帝国と逆説の21世紀経済 水野和夫著
この本は著者たる水野和夫氏の前著たる「資本主義の終焉と歴史の危機」の続編というべき内容で感心深く読んだ。本自体も前著と同じく文庫本サイズで総ページ数300未満とコンパクトな内容で、非常に読み易い内容だ。しかし、記してあることは重大かつ極めて世の趨勢に関わるコモンセンスとして一般化していない部分もあり、あくまで著者の理解としての説としての書なのだが、決して結論をムリヤリ導くという文体でなく、過去の歴史の反芻(はんすう:繰り返すことの意)を引き、なるほどと読者を引き込むものがあると感じた。
なお前著たる「資本主義の終焉と歴史の危機」の初版が2014年、続書たる本「閉じていく帝国と逆説の21世紀経済」の初版が2017年と3年程の時を経て記され、しかも2023年現在から見れば、6年前となるから最新刊というものではない。さまざまなジャンルの本で時の本といて話題になる本というのがある。ちょっと以前なら百田某とかいうのが記した「日本国紀」という本が話題になりだいぶ売れたらしいが、図書館にあって借りて読んだが、こんな下らない本はないと云うのが読後の私見だ。今なら売れている本は「安倍晋三回顧録」となるのだろうが、こんな本始めから内容の予測もできるし、読みたいなどと云う意欲は湧かない。
さて、前著では、日本は特にだが国債金利などの利率が長期間に及んで2%以下を推移して来たが、この金利と事業の利益率は相関するものであって、金利がゼロだと通常の資本主義の利益はない、資本主義の死を意味していると説いている。ところが、米国発のIT金融革命というべきテクノロジーを使って、ミリセカンドとかマイクロセカンドという極短時間の資金移動操作により、その利ざやを稼ぐ商法が生み出されたのだが、これも先の流行の本の売れ行きと似ているが、ある一時の見掛けの需要というバブルを生み出し、平準化もしくはことの実態が知れ渡ると、一気に需要は霧散しつつ暴落しバブルは弾けるということを3年毎に繰り返している。そして、バブル崩壊により公的資金が注入され、労働者は解雇されたり、給与ダウンや非正規社員の増加により、企業経費と削ってムリヤリ利益を生み出そうとしているのが現代社会だ。
2023年決算においても、トヨタとかその他大企業で、至上最大の売上を計上したとか報じられるのだが、何処まで労働分配率が平準化しつつ、そこに働く従事者の給与が平均値として増えたかといえば疑問だろう。つまり、現代社会の資本主義の行き詰まりは、格差社会を生み出し、それまで大勢を占めていた中流層を著しく減少させてしまったのだが、この中流層の思考というのが、いわば民主主義としての思考の源泉だったのだが、それが壊れ始めていると云うことを知らねばならぬと云うことだろう。
この本で新たに知る思考としては、資本主義の限界が半グローバリゼーションとしての、ナショナリズムなのであり、具体例としては米トランプのメキシコの壁とか、英のブレグジットなのだが、未知の開発地(フロンティア)を失った資本主義は、生き残るためには閉じた帝国に回帰せざるを得ないと云うのだ。これを著者は、中世に戻るとも表現したり、中世から現世への動きの中で、最初は地中海沿岸だけを中心とした陸の国の発展の歴史だったのが、英蘭の東インド会社を中心とした世界の7つの海を押さえた海洋国家の覇権の歴史と変わったと解説する。それが、海洋国家のフロンティアの喪失により、元の陸の国への回帰となるのだが、国家という小単位ではなく、もう少し大きい幾つかの陸の国の帝国というか連合体というべきグループへの回帰となるのではないかと云うのが著者の説だ。その一つはEUであり、ロシア、中国、インド辺りを中心とする幾つかのグループとなると著者は予測する。
その中で、現在広島でG7サミットが開催されているが、日本以外が北半球欧米諸国の中で、日本は対米属国と云うべき追従の動きを変えないのだが、むしろEU加盟はともかく、EU寄りに近づくべきと警告している。つまり、現在の米は軍事力で相変わらず世界の覇権を押さえている様に見えるが、旧ソ連が軍事力の突出という理由で崩壊した様に、現在の米の動静は、リスキーであり、それが予見できる中で、対米追従を続けるのは、あまりに愚かな思考だと著者は述べている様に感じる。
【書評】資本主義の終焉と歴史の危機 水野和夫著
2023-05-10 | 論評、書評、映画評など
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/6c611c31b589cc5a16aeaf47b8dd677f
この本は著者たる水野和夫氏の前著たる「資本主義の終焉と歴史の危機」の続編というべき内容で感心深く読んだ。本自体も前著と同じく文庫本サイズで総ページ数300未満とコンパクトな内容で、非常に読み易い内容だ。しかし、記してあることは重大かつ極めて世の趨勢に関わるコモンセンスとして一般化していない部分もあり、あくまで著者の理解としての説としての書なのだが、決して結論をムリヤリ導くという文体でなく、過去の歴史の反芻(はんすう:繰り返すことの意)を引き、なるほどと読者を引き込むものがあると感じた。
なお前著たる「資本主義の終焉と歴史の危機」の初版が2014年、続書たる本「閉じていく帝国と逆説の21世紀経済」の初版が2017年と3年程の時を経て記され、しかも2023年現在から見れば、6年前となるから最新刊というものではない。さまざまなジャンルの本で時の本といて話題になる本というのがある。ちょっと以前なら百田某とかいうのが記した「日本国紀」という本が話題になりだいぶ売れたらしいが、図書館にあって借りて読んだが、こんな下らない本はないと云うのが読後の私見だ。今なら売れている本は「安倍晋三回顧録」となるのだろうが、こんな本始めから内容の予測もできるし、読みたいなどと云う意欲は湧かない。
さて、前著では、日本は特にだが国債金利などの利率が長期間に及んで2%以下を推移して来たが、この金利と事業の利益率は相関するものであって、金利がゼロだと通常の資本主義の利益はない、資本主義の死を意味していると説いている。ところが、米国発のIT金融革命というべきテクノロジーを使って、ミリセカンドとかマイクロセカンドという極短時間の資金移動操作により、その利ざやを稼ぐ商法が生み出されたのだが、これも先の流行の本の売れ行きと似ているが、ある一時の見掛けの需要というバブルを生み出し、平準化もしくはことの実態が知れ渡ると、一気に需要は霧散しつつ暴落しバブルは弾けるということを3年毎に繰り返している。そして、バブル崩壊により公的資金が注入され、労働者は解雇されたり、給与ダウンや非正規社員の増加により、企業経費と削ってムリヤリ利益を生み出そうとしているのが現代社会だ。
2023年決算においても、トヨタとかその他大企業で、至上最大の売上を計上したとか報じられるのだが、何処まで労働分配率が平準化しつつ、そこに働く従事者の給与が平均値として増えたかといえば疑問だろう。つまり、現代社会の資本主義の行き詰まりは、格差社会を生み出し、それまで大勢を占めていた中流層を著しく減少させてしまったのだが、この中流層の思考というのが、いわば民主主義としての思考の源泉だったのだが、それが壊れ始めていると云うことを知らねばならぬと云うことだろう。
この本で新たに知る思考としては、資本主義の限界が半グローバリゼーションとしての、ナショナリズムなのであり、具体例としては米トランプのメキシコの壁とか、英のブレグジットなのだが、未知の開発地(フロンティア)を失った資本主義は、生き残るためには閉じた帝国に回帰せざるを得ないと云うのだ。これを著者は、中世に戻るとも表現したり、中世から現世への動きの中で、最初は地中海沿岸だけを中心とした陸の国の発展の歴史だったのが、英蘭の東インド会社を中心とした世界の7つの海を押さえた海洋国家の覇権の歴史と変わったと解説する。それが、海洋国家のフロンティアの喪失により、元の陸の国への回帰となるのだが、国家という小単位ではなく、もう少し大きい幾つかの陸の国の帝国というか連合体というべきグループへの回帰となるのではないかと云うのが著者の説だ。その一つはEUであり、ロシア、中国、インド辺りを中心とする幾つかのグループとなると著者は予測する。
その中で、現在広島でG7サミットが開催されているが、日本以外が北半球欧米諸国の中で、日本は対米属国と云うべき追従の動きを変えないのだが、むしろEU加盟はともかく、EU寄りに近づくべきと警告している。つまり、現在の米は軍事力で相変わらず世界の覇権を押さえている様に見えるが、旧ソ連が軍事力の突出という理由で崩壊した様に、現在の米の動静は、リスキーであり、それが予見できる中で、対米追従を続けるのは、あまりに愚かな思考だと著者は述べている様に感じる。
【書評】資本主義の終焉と歴史の危機 水野和夫著
2023-05-10 | 論評、書評、映画評など
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