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【書評】トラオ・徳田虎雄 付随の病院王(青木理著)

2022-07-25 | 論評、書評、映画評など
【書評】トラオ・徳田虎雄 付随の病院王(青木理著)
 このところ青木理(おさむ)氏の本を連日読んでいるのだが、この本は日本が暗黒化して行くとかいう問題でなく、一人のカリスマを表した本として、日本の暗部を見せ付けられ心を落胆させることなく読み下せた。

 この本の初版は2011年で、今から11年前となるが、その時すでに徳田氏はALS(筋萎縮性側索硬化症)に罹患(2002年発症を認知)し11年を経ており、自ら経営する徳州会病院・特別室で車椅子での生活、人口呼吸器で声を失いで目、耳以外の官能はほぼなく、視線で文字盤をなぞり秘書役の声を通して会話をする状態だったことを知る。

 徳田氏のALS発症は2002年のことで衆議院議員だったが、非公表で国会にも出席できず、療養していたが、2005年の衆議院解散を受けて政界を引退することになった。ここから、6年を経て、徳田氏の病状も進んだが、未だ徳州会病院理事長として、最終決定していた状況を著者は記しているが、こういう描写を読むと、なんという執念かと驚く。

 この本の出版後の様子だが、wikiによると、2012年に息子毅(たけし)氏の衆議院議員選挙があったが、この翌年2013年に公職選挙法違反があったとして、東京地検特捜部が動き、徳田氏の逮捕は病状から見送られたが、娘2人を含む6名とその後妻も逮捕される事件が起きた。
 この事件の責任を取る形で、徳田氏は徳州会理事を退任したという。ただし、程なく(株)徳州会など関連会社の社長に就任しており、未だ指揮は続いていたと想像できる。
 2019年の鹿児島TVが制作した特番がフジTVで放映されたが、この時の徳田氏はもはやベットに横たわり目で意志を伝えることも困難な状態と記されている。なお、徳田氏の生年は1938年で現在84才だが、未だその訃報は伝えられていない。

 この本で新たに知るところだが、民主党への政権交代が成った初代鳩山由紀夫首相の当時、沖縄の普天間基地移設問題の対応を感心深く読んだ。つまり鳩山氏は今や政権引退し自適だが、当時は如何にもその理想は高かったと思うのだが、強かでなかったと思えるくだりだ。普天間移設を最低限でも県外へと云い切りそれが果たせないと云うところが辞任を止むなくさせたのだが、そこには徳之島案があたかも有力という思いが芽生えていたというのが理解できた。
 ところが、この人任せにした進め方が、現地から反対の声が上がり徳田氏にお願いに行っているのだが、もうムリだと断定されてしまう。つまり、初動として徳之島が察知された時、つまりもっと以前に鳩山氏は徳田氏に意見を伺い、ことを進めていたら、状況は違っていたかもしれない。
 ただし、世間一般は鳩山氏は甘ちゃんのお坊ちゃまというイメージがここで作られてしまうのだが、私は攻められない様にも思う。つまり、民主党(現在の立民)だが、同じ意志を達成しようと云うとき、すべてのことを首相一人でなんかできないのは当然で、2重3重に保険を掛けると云うか集中攻撃の如く根回しや住民側の立場に立って、受け入れられる要素を見つける様に進める巧みさがなかったのだろう。この辺りは、長期政権の自民は、政官の同調により、あれだけ日本の過疎地に原発を住民合意で立地させてきたところからも伺える。

 そもそも徳田氏の生まれた徳之島とは何処にあるんだろうとGoogleMAPで見ると、沖縄よりもっと本土側だ。それでも徳之島は鹿児島県の県域に含まれるそうだが、本土より沖縄の方が近いし、その生活様式なども沖縄に近いという。
 
 徳之島の人口は現在22千人余だが、どんどん減り続けているという。それはムリもないことで、沖縄の場合、基地の弊害は大きいが、産業としては豊で人口も増えるが、徳之島では昔ながらの漁業は細るばかりだろうし、仕事は官の仕事に民は細々とした観光が主だろうが、それもこの2年コロナショックの打撃は相当に深刻なものを与えているだろう。

 徳田氏は大学卒業後、1973年に大阪に徳田病院を設立するがこの時37才、さらに1975年に医療法人徳州会を立ち上げるのが39才だ。徳州会では「24時間、救急患者を受け入れる」「患者からの贈り物は一切受け取らない」「差額ベッドの廃止」などを基本理念とし、全国各地に病院を設立して行った。

 この本だけでなくwiki内などでも徳田氏のある意味正義感とか理想を称えるものと、一方性格として子育てでのしつけは厳しい一方、規範意識は薄く、赤信号でも大丈夫なら進めとばかり運転手の頭を小突いたという記述もある。
 この点で、著者は徳州会病院のさまざま人々に触れ合う中で、この組織は宗教臭さが感じられると表現している。つまり、絶体の神が徳田氏で、その命令がなにより絶体ということを表現したのだろう。

 ただし、一組織や法人としてならことは許せるが、国家とか見返り(給与)が必ずしもない巨大組織の中での宗教法人化は怖い世界になるだろう。それは、戦前の大日本帝国であって、天皇という神がいるのだが、それはあくまで象徴で、神の言葉を告げる者が権力者となる世界だろう。
 これは独裁国家であって、どんな基本理念や法令が整備されていても、情報の透明化とか言論の自由というデモクラシーが第1義的に確保されねば、権力者達の暴走が始まってしまう。確かに国家として判断の難しさとか失敗もあるだろう。一私組織であれば、どんなに大きかろうと、カリスマ独裁者が亡き後は、独裁力が継続し続け得ないという宿命があるが、独裁者はあくまで看板であって、その告げる者としての独裁者達ということになると恐ろしい世界となるのだ。


#徳州会病院 #徳田虎雄


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